第6回森晃爾先生
      





メンタルヘルス・健康経営相談室

 

産業医科大学
産業医実務研修センター
柴田 喜幸(しばた よしゆき)先生
 みなさん、こんにちは。産業医科大学の柴田と申します。 
 一般財団法人あんしん財団と産業医科大学が行っている中小企業のメンタルヘルス問題の共同研究の代表をしています。
 
 さて、今回から始まるこの企画は、これまでの連載(
「健康経営ゼミナール」※1など)の続編として、一般財団法人あんしん財団が2019年2 月に開催した「メンタルヘルス対策シンポジウム」 等で寄せられたご質問や課題を中心に、共同研究メンバーが 分かりやすく解説をしていきます

 
【最終回】

 

 
第6回 「健康経営に成功した中小会社が経験した本当の成果とは?」


執筆:森  晃爾(もり こうじ)先生 
 産業医科大学 産業生態科学研究所 教授


最近、健康経営を導入して、心から「健康経営を入れてよかった」と思っている経営者の話を聞く機会を増やしています。

私たちのような医学・保健面から健康経営にアプローチしている専門家は、「健康に取り組むと従業員の心と体が健康になり、それによって貴重な人材資源を失うことを防ぐことができる」といった、健康文脈で成果を考えがちです。

しかし、話を聞いていると、それ以上の経営上の効果が明確に表れているようです。

 
Question

 中小会社で健康経営を行うと経営上どんないいことがあるのでしょうか。事例を教えてください。

Answer
 私たちがみてきた健康経営成功事例は、どこも二つの成果が顕著に表れているようです。

 

その1
 経営者と従業員間や従業員間の信頼関係が向上し、そのことは「自分たちはいい会社で働いている」とか、「この会社で長く働きたい」といった従業員満足が向上し、そのことは顧客に対しても丁寧な良いサービスを提供できることに繋がり、顧客満足が向上する。


その2
 会社を辞めたいという従業員が減るだけでなく、採用面でも、募集をかけなくても「この会社で働きたい!」という就職希望者が増え、やる気のある人材の確保が容易になる。それによって、採用のための費用が大幅に削減され、その浮いた費用を次の健康プログラムに投資ができるといった好循環が生じる。


 最初は、私たちも「本当なの?」という半信半疑な気持ちで聞いていましたが、どうもそれは当たり前の成果であると思うようになりました。

 健康経営は、経営者が従業員の健康に気遣い、そのための投資をする行動を起こします。最初は、「なんで個人的なことに、おせっかいを受けないといけないのか?」という反発もあります。

 しかし、だれもが自分の健康を気遣ってくれることは、ありがたいと思うことは当然ではないでしょうか。さらに、健康という極めて個人的でだれにとっても共通なテーマは、他のテーマによるコミュニケーションに比べて、従業員間の信頼関係を高める効果が強いようです。

 そのような職場を訪問すると、インタビューに行った私たちも、とてもいい気持ちになります。これは、ビジネスの上でも同じことでしょう。

 健康経営に取組むことの意味を見出した経営者は、多くの会社にその価値を伝えたいとの思いから、自社の取組みを紹介する機会を増やします。

 ホームページにも、自社の取組みを積極的に紹介します。本人の希望の場合もありますが、それを見聞きした家族が「この会社で働けるといいんじゃないの?」といった勧めもあり、中小会社でも応募が増えるようです。

 誰もが、自分を大切にしてくれる会社で働きたいはずですので、当然のことかもしれません。
 
 これらの成功は、経営者の健康経営への意欲を高めることになり、次の投資につながることになります。

 そして長い取組みの結果、従業員の健康度は向上し、病気で休む従業員は減っていくことになります。持続可能性が本当に高い「いい会社」に成長していっています。


 
※ 森 晃爾教授が伝える中小企業のための「健康経営ゼミナール」も併せてご覧ください。

 



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