第1回 「中小企業における心の健康問題対策の重要性」
執筆:廣 尚典(ひろ ひさのり)先生
産業医科大学 産業生態科学研究所精神保健学 産業医実務研修センター
心の健康問題が社会の関心を集めるようになって、もう20年くらい経ったでしょうか。実際に、この間うつ病(躁うつ病を含む)で入院あるいは通院する人の数は、2.5倍くらいに増加していることが、厚生労働省の調査で明らかになっています。心の病気の治療機関もそれに伴って増えており、都市部では広告や看板(銘板)の類を多くみかけます。通院患者が多く、数週間先まで予約がとれないといったところも少なくありません。
働く人に限っても、事情は変わりません。サラリーマンが帰宅途中に受診できるように、駅の近くで夜遅くまで開いているメンタルクリニックもみられます。職場や仕事のストレスが主因となって生じた心の病気が労働災害として認定される時代にもなっています。1990年代は数年に1件程度だったのが、ここ数年は毎年500件ほど(平成29年は506件、平成30年は465件でした)が業務上疾病と認定され、補償を受けています。業種は様々です。
このような心の不調に関する情報は、インターネット上でもあふれていますが、事業主の方々にとっては、心の健康問題のために親族や知り合いが悩んだり、自社内で休業する従業員が出たりしないうちは、いまひとつピンとこないのが実情かもしれません。機械の挟まれや高所からの転落などの外傷と比べ、症状や深刻さが分かりづらいため、やむを得ない面もあるでしょう。しかし、職場で心の不調者が出てしまうと、本人がつらいのはもちろんですが、周囲もどう対応してよいかわからず、事態の収束に多くの時間や労力が費やされてしまうことになります。
また、最近では、休業するまでには至らず出勤はできるのですが、心身の持病、不調のために、作業効率のよくない従業員の問題がクローズアップされています。(アブセンティーズム(欠勤)に対して、プレゼンティーズムとも言われます。)人数が多いため、トータルでみると、生産性に与える影響は、こちらのほうが休業者よりもずっと大きいとも指摘されています。御社内に該当する例は見られないでしょうか。
このような勤務に影響を及ぼしている持病や不調としては、腰痛、頭痛、胃腸の不具合、花粉症などが代表例ですが、心の健康問題の割合もかなり高いことが判明しています。気分がゆううつ、夜よく眠れない、イライラする、体がだるい、頭痛がひどい…こうした不調のために、持ち味を発揮できなかったり、思うように仕事が進められなかったりしている人は案外身近にいるものです。言い方を変えれば、心の健康問題の対策に取り組むことで、従業員一人ひとりの仕事の効率があがり、職場全体としても活気が高まって、生産性の向上が期待できるといえるでしょう。
心の健康問題への取り組みの基本は、不調者を出さないような職場づくりです。職場のストレスは従業員の仕事へのモチベーションを高める刺激剤になる面もありますが、強くなりすぎると心の不調を招くことはよくご存じだと思います。抜本的な改革のようなものでなく、小さな工夫の積み重ねでよいので、ストレス軽減活動に努めていただくことが大切です。それによって、不調者の数や不調者が出る確率は低減させることができるはずです。ただ一方で、心の不調は職場や仕事のストレスだけで生じるわけではありません。家庭問題によるストレスもありましょうし、生まれつき、あるいは育った環境の影響で、ストレスに弱い人もいます。他の人が十分に耐えられる程度のストレスで、不調をきたしてしまうのです。ですから、事業主が職場のストレスに注意していても、従業員から不調者が出てしまうかもしれません。その場合には、早期に助言、助力が得られる専門機関に相談するのが、問題解決の早道です。
本シリーズでは、職場で起こった、あるいは起こる可能性のある心の健康問題について、相談に乗ってくれる専門家、専門機関を紹介していきます。それぞれの得手、不得手、具体的な相談の仕方なども盛り込んで解説してもらいますので、ぜひお読みください。内容のすべてを頭に入れる必要はありません。一度ざっとでも目を通しておくと、心の健康問題のことで困ったときに、「そういえば」と思い出して該当部分を再読し、適切な対応をとることができるのではないかと思います。日頃の職場や従業員を見守る目が少し変わるかもしれません。
私共は、一般財団法人あんしん財団との共同研究で、職場の心の健康問題対策に役立てていただける「メンタルヘルス対策支援ツール」を開発してきました。ストレスが少なく働きやすい職場づくりのヒントから、不調者が出てしまった際の対応法まで、全部で8種類あります。それらはすべて、一般財団法人あんしん財団のホームページにある「こころの“あんしん”プロジェクト」からご覧になれます。無料でダウンロードも可能です。本シリーズは、それを補完するものだと言えます。もちろん、単独でも有用な情報となるはずです。
事業主や担当者の方々が、この8つのツールを活用しながら、本シリーズもチェックされて、自社の従業員の心の健康問題に向き合われることを、そしてそれを通じて職場全体の活力が向上することを願って止みません。
第2回 「独立行政法人労働者健康安全機構 産業保健総合支援センターについて」
企業の明るい未来のために
働く人の「こころ」と「からだ」の健康を、無料でサポート!
執筆:織田 進(おだ すすむ)先生
独立行政法人労働者健康安全機構 福岡産業保健総合支援センター所長
産業保健総合支援センターは、各都道府県に設置されている厚生労働省所管の機関であり、独立行政法人労働者健康安全機構(https://www.johas.go.jp/)により運営されています。事業場で産業保健活動に携わる産業医、保健師、衛生管理者をはじめ、事業主、人事労務担当者などの方々に対して、産業保健に関する研修や専門的な相談への対応などの支援を行っています。提供するサービスはすべて無料です。
支援事業のサービス内容
産業保健関係者からの専門的相談への対応
産業保健相談員(医師、保健師、社労士等)が、産業保健に関する様々な問題について、窓口、電話、メール等でご相談に応じ、解決方法を助言しています。また、事業場の具体的な状況に応じた専門的な支援が必要な場合には、事業場を訪問する実地相談も実施しています。
産業保健関係者に対する専門的研修等
産業保健に関する様々なテーマの研修を実施しています。
メンタルヘルス対策の個別訪問支援
メンタルヘルス対策促進員(産業カウンセラー、社労士、保健師等)が事業場に訪問し、メンタルヘルス対策の導入や実施について支援します。
・ メンタルヘルス対策のための個別訪問支援
事業場内の体制づくりや、心の健康づくり計画・職場復帰支援プログラムの作成などについて支援します
・ ストレスチェック制度にかかる個別訪問支援
ストレスチェック制度の導入や、集団分析結果の活用・職場環境改善に関する実地相談を行います
・ 管理監督者向けメンタルヘルス教育 (支援回数は、1回限り)
メンタルヘルス教育の継続的な実施を普及させるため、管理監督者向けのライン教育を行います
・ 若年労働者向けメンタルヘルス教育 (支援回数は、1回限り)
就労して間もない若年層の自殺防止対策のため、セルフケアを促進するための教育を行います
治療と仕事の両立支援
両立支援促進員(社労士、保健師、理学療法士等)が事業場に訪問し、両立支援制度の導入や患者(労働者)と事業場の間の治療と仕事の両立について支援します。
・ 個別訪問支援
両立支援制度の導入のため、事業場内の体制づくりや規程等の整備などについて支援します。また、両立支援に関する意識啓発教育を行います。
・ 個別調整支援 (ご本人の同意が必要)
就業上の措置・配慮についての検討や、主治医との連携、両立支援・職場復帰支援プランの作成などについて支援します
事業者・労働者に対する啓発セミナー
職場における労働者の健康管理等の産業保健に関する啓発セミナーを実施しています。
産業保健に関する情報提供・広報啓発
ホームページ、メールマガジン、情報誌を通じて、産業保健情報をお知らせしています。また、図書・機器の貸出等も行っています。
調査研究
地域の産業保健活動活性化に役立つ調査研究を実施しています。ホームページに調査研究の抄録及び資料を掲載しています。
地域産業保健センター(地域窓口)の運営
労働者数50人未満の小規模事業場では産業医の選任義務がないため、事業者やそこで働く人を対象として、労働安全衛生法で定められた保健指導などの産業保健サービスを提供しています。
福岡県には12か所の地域窓口があります。
・ 労働者の健康管理(メンタルヘルスを含む)に係る相談
健康診断で脳・心臓疾患関係の主な検査項目(「血圧の測定」「血中脂質」「尿糖検査」「心電図検査」)に異常所見があった労働者に対して、医師または保健師が日常生活面での指導などを行います。
メンタルヘルス不調を感じている労働者に対して、医師または保健師が相談・指導を行います。
・ 健康診断の結果についての医師からの意見聴取
健康診断で異常所見があった労働者に関して、健康保持のための対応策などについて、事業者が医師から意見を聴くことができます。
・ 長時間労働者及びストレスチェックに係る高ストレス者に対する面接指導
時間外労働が長時間に及ぶ労働者やストレスチェックの結果、高ストレスであるとされた労働者のうち、本人が事業者に申し出た労働者を対象に、医師が面接指導を行います。
・ 個別訪問による産業保健活動への支援
医師、保健師または労働衛生工学の専門家が事業場を訪問し、作業環境管理、作業管理およびメンタルヘルス対策等の健康管理の状況を踏まえ総合的な助言を行います。
◎総括産業医(企業内の事業場の産業保健活動について総括的に指導を行う産業医)がいる小規模事業場は支援の対象外となります。
◎企業規模で50人未満の事業場を優先的に対応しています。本社等に産業医がいる場合には、その産業医等への協力を要請するようお願いする場合や、医療機関をご紹介する場合もありますのでご了承ください。
その他 労働者健康安全機構本部の取り組み
ストレスチェック制度サポートダイヤル(ストレスチェック制度に関する電話相談窓口)
産業医、保健師等ストレスチェックの実施者、事業者、衛生管理者等ストレスチェック制度担当者等からのストレスチェック制度の実施方法、実施体制、不利益な取扱いなどに関する相談が可能です。
■電話番号 : 全国統一ナビダイヤル 0570-031050
■受付時間 : 平日10時~17時(土曜、日曜、祝日、12月29日~1月3日は除く)
産業保健関係助成金
メンタルヘルス対策や、小規模事業場における産業医の選任など、事業者の産業保健活動の取り組みに対して費用の助成を行っています。
助成金の詳細につきましては、労働者健康安全機構のHPをご覧ください。

■電話番号 : 全国統一ナビダイヤル 0570ー783046
■受付時間 : 平日 9時~12時/13時~18時 (土曜、日曜、祝日、12月29日~1月3日は除く)
◎サポートダイヤルや助成金専用ダイヤルがつながりにくい場合は、全国の産業保健総合支援センターへお問い合わせください。
■電話番号 : 全国統一ナビダイヤル 0570ー038046
(最寄りの産業保健総合支援センターに着信します)
福岡産業保健総合支援センター
福岡産業保健総合支援センター(図1)では、九州労災病院、門司メディカルセンター、さらに治療と仕事の両立支援について、福岡大学、久留米大学、九州大学、飯塚病院に出張窓口を開設しています。さらに、産業医科大学の両立支援科の症例検討会に出席しその支援方法などを学んでいます。産業保健サービスが遅れている小規模事業場に対する支援については、群市区医師会の登録産業医の協力を得て、地域窓口(図2)での活動に力を入れています。地域窓口での課題は、小規模事業場への当センターの活動の周知が困難であることから、今回あんしん財団のホームページで紹介していただくことが周知の拡大に繋がると期待しています。
ご相談やお問合せについては、福岡産業保健総合支援センターHPのお問合せフォームにて事前にご連絡いただくとスムーズです。
福岡産業保健総合支援センター HP. http://www.fukuokas.johas.go.jp
〒812-0016福岡市博多区博多駅南2丁目9番30号 福岡県メディカルセンタービル1階 TEL. 092-414-5264

第3回 メンタルヘルス対策のご相談は「社会保険労務士」へ
執筆:久野 亜希子(ひさの あきこ)先生
ひさの社会保険労務士事務所 所長/特定社会保険労務士
従業員を雇用した際の経営者の責任に、企業規模は関係ないことはご存知のことと思います。確かに、産業医の選任、障害者雇用義務、女性活躍推進法など一定の規模以上の企業にのみ義務化されている法令は一部ありますが、基本的には、「うちは中小企業だから」「零細企業だから」ということが免罪符となるわけではありません。
例えば、業務上の事故が起こり、従業員が死亡した場合も、「経済負担能力が低い」という理由で民事上の責任(安全配慮義務※)を免れるわけではありませんし、社内でパワーハラスメントなどが起こって会社名が報道された場合の社会的信用の失墜という面でも、大企業と変わりありません。
※ 安全配慮義務 = 従業員の生命や身体、健康などに配慮しなければならないという、経営者の義務。
そもそも、今後、労働力人口が減少していくことが予測される中で、企業を存続していくためには「より良い人材の確保」こそが中小企業のキーワードとなっています。さらに、働き方改革により、中小企業であっても「時間外労働の上限規制(※令和2年4月~)」や「年次有給休暇の時季指定義務(※平成31年4月~)」が適用されるなど、今年度からは特に「業務の効率化」が避けられない問題となっています。
何とか工夫して、「一人ひとりの従業員の能力を高め、業務の洗い出しを行い、効率化を進め、より働きやすい職場環境の形成へ。そうすれば求人をかけた際の応募も増え、人材不足も解消する。」…と思い浮かべた経営計画を実行したくても、そのような職場環境改善の業務を行える従業員がいない・足りないなど、経営者が抱えている問題を解決してくれる人材が社内に見いだせない現状をどうすればよいのか、という回答の1つに「社会保険労務士の活用」をご提案いたします。「メンタルヘルス対策」についても、区別することなくご相談いただきたいのです。
ところで、「メンタルヘルス対策」という言葉を聞いて、「うちにはうつ病の社員はいないから、関係ないと思います。」と言われる方は少なくありません。より働きやすい職場環境へ改善していく取り組みの際、「メンタルヘルス対策」は欠かせない要素になることをご存知ないからでしょう。自社の実態にあった改善ポイントが見えてくる利点があるとわかると、興味をもっていただけるのではないでしょうか。
このように、うつ病などメンタルヘルス不調者への対応だけではない「メンタルヘルス対策」を無理なく進められる取り組みをご提案できるのも、専門家の強みです。とりわけ、労働時間・休暇等の社内制度の構築・変更など、働き方改革も見据えた労働法・労務管理全般の視点からの助言等が得られるのは、社会保険労務士のみとなっています。
というわけで、ここからは、社会保険労務士にご相談することで得られる具体的なポイントを、1次予防から3次予防という段階にわけてお伝えします。
1次予防 … メンタルヘルス不調の未然防止
1次予防は「セルフケアについての教育研修等」と「職場環境改善活動」の2つにわけられます。前者については、そもそも従業員の「自己保健義務※」が基盤となっています。心身ともに、自らの 健康管理をおろそかにしている従業員では、その能力を発揮することができないばかりではなく、第1回目で廣尚典先生もお書きになっているような「プレゼンティーイズム(生産性の低下等)」の問題も起こるでしょう。そうならないため、従業員に対する計画的かつ継続した教育研修・情報提供が求められますが、自社にあった仕組み(心の健康づくり計画等)や、就業規則の規定とリンクした制度づくりの助言が得られます。
※ 自己保健義務 = 会社側に「安全配慮義務」がある反面、従業員側にも、自らの健康を保持・増進させる義務があり、これを「自己保健義務」と言います。なお、メンタルヘルス不調を含めて何らかの病気を抱えた際の「療養専念義務」も従業員にはあります。
後者「職場環境改善活動」は、より働きやすい職場への取り組みです。この際、「ストレスチェック制度の集団分析」を用いると、全国平均と比較した職場ごとの健康リスクが数値化され、より的確な改善活動へとつなげることができます。「ストレスチェック制度の集団分析」を用いない場合であっても、業種の特徴や、従業員の配置、業務の流れ、実際に起こっている問題等、社内の現状を客観的に把握することからはじめます。
いずれにせよ、これらの職場環境改善活動の結果を検討し、導き出した改善案が、労働法とどのように整合性をとっていくのかという問題や(従業員のためによかれと思ったことが、法令に抵触してしまうこともあります。)、就業規則など社内ルールの変更についても的確な助言が得られます。
2次予防 … 早期発見・早期対応
2次予防は、早期発見・早期対応です。メンタルヘルス不調が疑われる従業員が自ら早期に専門医を受診してくれることが理想ですが、心の健康問題は自ら気がつけない特徴がありますので、この段階は本人の上司(管理監督者)に託すことになります。しかし、管理監督者の多くは、部下の様子に気を配れるほどの余裕がないことがあり、結果として部下のメンタルヘルス不調を見逃すケースが少なくありません。そのため、管理監督者教育を行うことはもちろんですが、管理監督者の業務量の問題を看過するわけにはいきません。実効性ある対応としては「サブリーダー的な役割を行う人材の登用・育成」ですが、この際の人事制度や給料体系の変更についての助言が得られます。
3次予防 … 職場復帰支援、再発予防
最後の3次予防は、職場復帰支援、再発予防です。すでにご経験された方はご承知の通り、職場復帰後の支援はとても大変です。本人の日々の業務管理、服薬・通院の確認、主治医との連携等に加えて、ときとして遅刻・早退・欠勤への緊急対応、再発・再燃、結果として退職に至るケースもあります。本人の上司(管理監督者)や周りの従業員も、業務の分担等により疲弊してしまうこともあります。
貴重な人材の流出等を防ぐためには1次予防、せめて2次予防を求めたいところですが、どのように仕組みを作っても、運用をしても、3次予防の対応を余儀なくされることはあります。そのときに必要な対応は、「私傷病休職制度(豊富な判例の知識が必要です)」「職場復帰支援プログラムの作成・運用」「職場復帰支援プランの作成・見直し(主治医との連携が必須)」「職場復帰後の勤務体制、休暇制度(職場の実態にあった制度)」という社内制度を活用しながら、本人の職種、病状等にあわせた個別の対応になります。
「私傷病休職制度」1つとっても、対象となる従業員は?休職期間は?休職期間中の労働条件は?職場復帰の判断基準は?休職期間満了となったときの取扱いは?など、深い労働法の知識が不可欠ですが、社会保険労務士にご相談することにより、自社にあった助言が得られ、円滑で確実な職場復帰支援の仕組みづくりが実現できます。
以上、社会保険労務士の活用についてお伝えしました。
「社会保険労務士に相談をしたくても、そもそもよくわからないことに対して、どのようにご相談したらよいのかわからない。」などの不安や抵抗感がある場合は、ぜひ参考にされてください。

【 参 考 】
□ひさの事務所だより(YouTube)
第4回 「こころと体の健康、職場の心配ごとを産業保健師に相談してみませんか?」
執筆:白石 明子(しらいし あきこ)先生
一般財団法人 西日本産業衛生会 北九州産業衛生診療所/保健師
1.産業保健師とは
保健師は主に地域(保健所や市町村)に所属し、乳幼児から高齢者まで幅広い世代に寄り添い、皆様の健康管理をサポートしています。
保健師の中で、産業保健師は、働く世代の方と事業所を対象に活動をしています。
働く人、一人ひとりが自己の健康管理を心がけられるように、そして事業者が安全・健康配慮が行なえるように活動し、アドバイスを行ないます。
あまり知られてはいませんが、保健師は国家資格で、ほとんどの保健師は看護師資格も持っており、第一種衛生管理者の資格も申請で取得できる職場での保健・医療の専門職です。
2.産業保健師の役割・特色
①こころと体の健康をトータルでサポートします!
「頭痛の原因は、ストレスだった」
「会議でイライラすると血圧が上がる」
「花粉症のシーズンはずっと憂鬱になる」など
“こころと体の健康”はつながっていることを経験された方も多いでしょう。
“こころの不調から体の不調につながること”、逆に“体の不調からこころのバランスを崩してしまうこと”はよくあることです。
こころと体の両面から健康にアプローチできることが保健師の強みです。
【予防が大切!健康診断から体へのアプローチ】
年1回の健康診断は、生活習慣を見直し、健康について考えるよい機会となるでしょう。健康診断結果を活かすために、保健師による「保健指導」※を利用しましょう。
保健師が行なう「保健指導」では、健康診断結果の説明や受診勧奨のみではなく、対象者と一緒に生活習慣の振り返りを行ないます。
運動、バランスの良い食事、十分な休養などの健康的な生活習慣は、生活習慣病を予防するだけではなく、ストレス耐性を高めることもできます。
生活習慣を改善し、生活の質をより高める方法を一緒に探していきましょう。
※「保健指導」
労働安全衛生法66条の7
1.事業者は健康診断の結果、特に健康の保持に努める必要があると認める労働者に対し、医師又は保健師による保健指導
を行なうように努めなければならない。
2.労働者は、前条の規定により通知された健康診断の結果及び前項の規定による保健指導を利用して、その健康の保持に
努めるものとする。
【ストレスチェックからこころへのアプローチ】
保健師はストレスチェックの実施者になることが出来ます。実施者は結果を把握し、高ストレス者のフォローが行なえます。
(高ストレス者が医師面接を申し出た場合は、医師による面接が必要です。)
また、集団分析の結果から組織へもアプローチして職場環境改善の支援も行なっています。
健康診断とストレスチェックを同時期に行なえば、こころと体の健康のフォローとしての面接が、より自然な形で行なえます。
こころの不調としては相談しにくい場合でも、体のこととしては相談しやすい場合もあります。
こころと体の健康をトータルでサポートできる保健師にどうぞご相談ください。
②職場の心配ごともご相談ください!
「病気で、仕事を配慮してほしいけど、言い出せない」
「同僚の元気がなくて心配だけど、声をかけるとセクハラっていわれそう・・・」
「うつ病で休んでいた部下をどう迎えいれたらよいのだろう」など、
“こんなこと、聞いてもいいのかな?”、“誰になんと相談するべきかがわからない”そんな時こそ、気軽に保健師に相談してみてください。
産業保健チーム(産業医など)の第一窓口として何でも幅広くお聞きし、共に考えます。関係者との調整を行ない、必要な場合には社会資源を探し、専門家に繋げます。
もちろん職場環境の改善についても、ぜひご相談ください。
1つ1つの問題に向き合い、将来にわたって、皆様が健康に過ごし、いきいきと働けるように、体制作りから事業場の皆様と共に一歩ずつ進めます。
必要に応じて事業者へのアドバイスも行ないます。
③信頼できる健康情報を提供し、社会資源と連携します!
現代社会は様々な健康情報が飛び交っています。役に立つ情報もあれば、全く根拠のない情報もあります。医療の専門家として取捨選択し、信頼できる健康情報を皆様にお伝えします。
「メンタルヘルスのセルフケア」「良い睡眠をとるには」「新入社員の健康管理」など健康教室、衛生講話などの場を通じて多くの方に、健康について学ぶ機会をご提供します。
また、地域医療(病院など)の情報や社会資源(利用できる公的機関など)の情報提供や連携の支援もさせていただきます。

3.産業保健師にはどこで相談できるの?
①各県の産業保健総合支援センター(無料)
URL:https://www.johas.go.jp/shisetsu/tabid/578/Default.aspx
産業保健関係者を支援するとともに、事業主等に対し職場の健康管理への啓発を行なうことを目的とした機関です。相談対応などで保健師が活動しています。
②地域産業保健センター(無料)
URL:https://www.johas.go.jp/shisetsu/tabid/333/Default.aspx
①の地域窓口で小規模事業所(従業員50人未満)への支援を行なっています。
一部では、保健師が、事業場へ訪問や相談対応などを行なっています。
③健診機関・企業外労働衛生機関
健康診断や健康診断のフォローのみでなく、ストレスチェックや様々な相談、職場の健康管理にも対応している機関が増えてき
ていますので、ご利用機関の提供サービスをご確認ください。
一部では、嘱託産業医契約のみではなく、嘱託保健師の契約を行ない、年間計画を立てて、事業場のニーズに応じた継続的な健康管理活動を提供している機関もあります。
④開業保健師
まだ少数ではありますが、契約を行なって、フレキシブルなサービスを提供しています。
⑤健康保険組合
協会けんぽ等の健康保険組合の保健師は「特定保健指導」(メタボ予防の指導)をはじめ、健康づくり・相談に対応しています。
※その他、特定の企業に所属して健康管理を行なう産業保健師もいます。
皆さまが健康で、元気な職場づくりのために産業保健師をぜひご活用ください。
第5回 労働者数50人未満の事業主の皆様へ、「地域産業保健センター」をご利用ください。
~無料で産業保健サービスを提供しています~
執筆:井上 温(いのうえ ゆたか)先生
横浜北地域産業保健センター コーディネーター
【労働安全衛生法と地域産業保健センターの役割】
労働安全衛生法により労働者50人以上の事業場は「産業医」を選任して労働者の健康管理等について相談してアドバイスすることを事業者に義務付けています。健康診断実施との就業上の措置、心身の健康保持・増進に係る措置など産業医の職務が定められています。
50人未満の事業場では産業医の選任の義務がないために厚生労働省が平成5年に都道府県に一か所ずつ地域産業保健センターに「健康相談窓口」を開設したのが始まりです。その後、労働基準監督署単位で全国に配置されるようになりました。当初は郡市医師会や都道府県医師会に事業委託してスタートしました。平成26年から産業保健サービスの一元化を図るために独立行政法人・労働者健康安全機構が母体となって都道府県医師会の協力のもと運営されています。
【地域産業保健センター事業の紹介】
地域産業保健センターは健康相談窓口を設置して、医師会に所属する認定産業医が中心となって次のような産業保健サービスを提供しています。
1
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健康診断事後措置など(特定健康相談という)
(1)健康診断結果に基づく医師の意見聴取(診断後の事業者の意見聴取の対応)
・就業上の措置について事業者は医師から意見を聴くことが出来ます。
(2)脳・心臓疾患のリスクが高い労働者に対する保健指導(健診所見者の保健指導)
・医師の他に登録保健師が行う保健指導を行うケースもあります。 |
| 2 |
長時間労働による面接指導(一定の時間外労働者の医師による面接指導)
○疲労の度合い、ストレス状況から事業者に対してアドバイスを行います。 |
| 3 |
メンタルヘルス不調者の健康相談・職場の復帰の支援方法
○労働者本人及び事業者に対して健康相談を行います。
○休職者の復帰に関して事業者にアドバイスも行っています。 |
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ストレスチェック制度に基づく高ストレス者の面接指導
○ストレスチェックの結果、高ストレスであるとされた労働者が面接指導を希望した場合は健康相談に応じます。 |
| 5 |
個別訪問による産業保健指導
○医師、若しくは登録保健師、衛生工学の専門家が事業所を訪問して作業環境管理、健康管理(メンタルヘルス)対策の状況を踏まえ、総合的な助言・指導を行います。 |
【ご利用方法】~お気軽にご相談ください~
利用する際は機微な健康情報を取り扱うため事業場の登録と利用申込書の提出が必要です。また常設でないため日程を調整することになります。健康相談の設置場所は医師会やクリニック・病院等の医療機関の他、訪問先の事業場等、各センターにより様々です。限られた予算内で行うため利用回数などに制限があります。
小規模事業場のメンタルに係る事例をみると相談先が分からないため重症になってから持ち込まれるケースが多く、早期に対応していれば良かったのにと思うこと度々あります。協力産業医の専門性などから特徴がみられ、特にメンタルにかかる健康相談は心療内科系の協力医がいる場合は積極的に対応しますが、消極的なケースも散見されるのも確かです。
平等かつ均等にサービスが受けられるよう心がけていますが、全国圏域ごとに置かれている地域産業保健センター地域の事情により利用の方法や内容が異なりますので、窓口となる「コーディネーター」にお気軽にご相談ください。日本の産業経済を支える小規模事業場の産業保健サービスを更に充実し、提供していきたいと考えています。

第6回 「産業医はどういう医師かご存じですか?」
執筆:森口 次郎(もりぐち じろう)先生
一般財団法人京都工場保健会 診療所副所長・産業保健推進本部医療部長/産業医学研究所所長/医学博士
はじめに
「常時 50 人以上の労働者を使用する事業場においては、事業者は産業医を選任し、労働者の健康管理等を行わせなければならない」ことが、労働安全衛生法第13条、労働安全衛生法施行令5条に示されています。
しかし『産業医はどのような業務をするのか?』、『どうやって産業医を探せばいいのか?』、『事業場の労働者が50人未満だったら健康管理はどうするのか?』、など分からないこともあるのではないでしょうか。そこで今回は産業医の業務内容についてご紹介します。
産業医業務のきっかけ
筆者が嘱託産業医として企業から契約を求められるきっかけは、心の健康問題でしばらく休職し復職を希望する社員さんの職場復帰の可否や就業上の措置への意見を出してほしいとの要望が多いように思います。
同様の相談を、労働者50人未満で産業医の選任義務がない規模の事業場から相談をいただくこともあります。このような求めに対し、ご本人との面談、人事労務担当者や上司との協議、主治医との意見交換などを行い、順調な職場復帰を支援し、その後に本格的な産業医業務が始まります。
なお心の健康問題のみならず、脳や心臓、がんなどの大病を経験した社員への支援希望がきっかけとなる場合もあります。
企業への幅広い貢献の意識を持つことの大切さ
上記のような復職支援は、職場の限られた一部の人への濃厚な取り組みですが、産業医は事業場の産業保健活動に広く関わることも必要ですので、一段落ついたら早めに、安全衛生委員会、職場巡視などを含めた年間計画を立てるようにしています。
安全衛生委員会には、労使双方から委員が選出され、事業場で認識されている産業保健の課題についての情報が収集できます。また、産業医から定期的な講話などで情報発信することで、事業場の産業保健に関する知識が向上し、委員たちからの産業医への要望が増えていくことにつながります。
職場巡視は、労働者が働く職場の現状把握、健康保持と負荷軽減のための問題確認、改善のための提案や指導を行うことを基本的な目的としていますが、あわせて産業医の顔を売る絶好のチャンスにもなります。毎月職場を巡視して、熱心に労働者に作業姿勢などについて指導する産業医であれば、各労働者との信頼関係が構築され、労働者から“制約”と感じられる就業上の措置であっても、その産業医から説明することで「先生の言うことなら」と受け入れられやすくなると思います。
産業医にやってもらえること
安全衛生委員会、職場巡視以外にも産業医には大事な仕事があります。日本医師会の「産業医契約書の手引き」によれば、そのほかの産業医業務として、
健康診断及び面接指導の結果に基づく就業上の措置に関する意見提出
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健康診断などの健康管理に関する企画への関与と助言・指導
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診断書などに記された労働者の心身の状態の情報を解釈・加工し、就業上の措置に関する意見提出
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職業性疾病を疑う事例の原因調査と再発防止への関与と助言・指導
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長時間労働に従事する労働者の面接指導
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ストレスチェックの結果に基づく労働者の面接指導
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職場復帰の支援等をはじめとする治療と仕事の両立支援
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労働者からの健康相談
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などがあげられます(一部筆者が改変)。
これらの業務が、産業医にやってもらえる一般的な内容といえるでしょう。
産業医の探し方
多くの企業が前述のような幅広い役割を期待できる産業医を活用することは、事業場の産業保健活動をより良いものにし、労働者の健康保持増進や事業場の安全衛生向上に役立ちます。
ではどうやって産業医を見つけたらよいでしょうか?
| 1 |
都道府県医師会や郡市区医師会に相談する
|
| 2 |
近隣の医療機関に相談する
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| 3 |
健診を依頼している機関に相談する
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医師を紹介する会社に相談する
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同業他社や近隣の会社で選任している産業医を紹介してもらう
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などがあげられます(労働者健康安全機構「中小企業事業者の為に産業医ができること 目指せ 健康経営!」より引用)。
またこれらに加えて、都心部を中心に産業医として個人事務所を構えて活動している独立産医に相談することも可能です。
小規模事業場に関わる専門職
本稿の冒頭に「50 人以上の労働者を使用する事業場の事業者は産業医を選任する」と記載した通り、労働者50人未満規模であれば事業場は産業医を選任する必要はありません。しかし産業保健の専門家の支援を得たい場面もあろうかと思います。
その際の頼れる窓口として、各都道府県に設置されている「地域産業保健センター」をご紹介します。地域産業保健センターは一定の制約がありますが、産業保健サービスを無料で提供しています。サービス内容は、「①脳・心臓疾患のリスクが高い労働者に対する健康相談・保健指導」、「②メンタル不調の労働者に対する相談・指導」、「③健康診断の結果に基づく医師からの意見聴取」、「④長時間労働者に対する医師による面接指導」、「⑤高ストレス者の面接指導」、「⑥個別訪問による産業保健指導の実施」の六種類となっています。
健診機関も頼りになる場合があります。本シリーズ第4回の白石先生も言及されていましたが、小規模事業場に対して、嘱託保健師の契約を行ない、保健師が中心となる活動計画を立てて、事業場のニーズに応じた継続的な健康管理活動を提供している機関もあります。
今回は産業医にできることやその活用方法についてご紹介しました。
ご紹介した内容が皆様の事業場の安全衛生向上に役立つことを願っています。