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活用しよう社外の専門家!~メンタルヘルス対策に悩んだら~

承認:エディタ

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『活用しよう社外の専門家!~メンタルヘルス対策に悩んだら~』シリーズ連載開始にあたって
産業医科大学
産業生態科学研究所精神保健学
産業医実務研修センター
廣 尚典(ひろ ひさのり)先生

 

 私どもは一般財団法人あんしん財団との共同研究で、職場の心の健康問題対策に役立てていただける「メンタルヘルス対策支援ツール」を開発してきました。ストレスが少なく働きやすい職場づくりのヒントから、不調者が出てしまった際の対応法まで、全部で8種類あります。

 事業主や担当者の方々が、この8つのツールを活用しながら、本コーナーもチェックされて、自社の従業員の心の健康問題に向き合われることを、そしてそれを通じて職場全体の活力が向上することを願って止みません。

 本シリーズでは、職場で起こった、あるいは起こる可能性のある心の健康問題について、相談に乗ってくれる専門家、専門機関を紹介していきます。それぞれの得手、不得手、具体的な相談の仕方なども盛り込んで解説してもらいますので、ぜひお読みください。


半年間、毎月30日(予定)に計6回シリーズとして掲載いたします。

 






第1回 「中小企業における心の健康問題対策の重要性」



執筆:廣  尚典(ひろ ひさのり)先生

産業医科大学 産業生態科学研究所精神保健学 産業医実務研修センター


 

 心の健康問題が社会の関心を集めるようになって、もう20年くらい経ったでしょうか。実際に、この間うつ病(躁うつ病を含む)で入院あるいは通院する人の数は、2.5倍くらいに増加していることが、厚生労働省の調査で明らかになっています。心の病気の治療機関もそれに伴って増えており、都市部では広告や看板(銘板)の類を多くみかけます。通院患者が多く、数週間先まで予約がとれないといったところも少なくありません。

 働く人に限っても、事情は変わりません。サラリーマンが帰宅途中に受診できるように、駅の近くで夜遅くまで開いているメンタルクリニックもみられます。職場や仕事のストレスが主因となって生じた心の病気が労働災害として認定される時代にもなっています。1990年代は数年に1件程度だったのが、ここ数年は毎年500件ほど(平成29年は506件、平成30年は465件でした)が業務上疾病と認定され、補償を受けています。業種は様々です。

 このような心の不調に関する情報は、インターネット上でもあふれていますが、事業主の方々にとっては、心の健康問題のために親族や知り合いが悩んだり、自社内で休業する従業員が出たりしないうちは、いまひとつピンとこないのが実情かもしれません。機械の挟まれや高所からの転落などの外傷と比べ、症状や深刻さが分かりづらいため、やむを得ない面もあるでしょう。しかし、職場で心の不調者が出てしまうと、本人がつらいのはもちろんですが、周囲もどう対応してよいかわからず、事態の収束に多くの時間や労力が費やされてしまうことになります。

 また、最近では、休業するまでには至らず出勤はできるのですが、心身の持病、不調のために、作業効率のよくない従業員の問題がクローズアップされています。(アブセンティーズム(欠勤)に対して、プレゼンティーズムとも言われます。)人数が多いため、トータルでみると、生産性に与える影響は、こちらのほうが休業者よりもずっと大きいとも指摘されています。御社内に該当する例は見られないでしょうか。

 このような勤務に影響を及ぼしている持病や不調としては、腰痛、頭痛、胃腸の不具合、花粉症などが代表例ですが、心の健康問題の割合もかなり高いことが判明しています。気分がゆううつ、夜よく眠れない、イライラする、体がだるい、頭痛がひどい…こうした不調のために、持ち味を発揮できなかったり、思うように仕事が進められなかったりしている人は案外身近にいるものです。言い方を変えれば、心の健康問題の対策に取り組むことで、従業員一人ひとりの仕事の効率があがり、職場全体としても活気が高まって、生産性の向上が期待できるといえるでしょう。

 


 心の健康問題への取り組みの基本は、不調者を出さないような職場づくりです。職場のストレスは従業員の仕事へのモチベーションを高める刺激剤になる面もありますが、強くなりすぎると心の不調を招くことはよくご存じだと思います。抜本的な改革のようなものでなく、小さな工夫の積み重ねでよいので、ストレス軽減活動に努めていただくことが大切です。それによって、不調者の数や不調者が出る確率は低減させることができるはずです。ただ一方で、心の不調は職場や仕事のストレスだけで生じるわけではありません。家庭問題によるストレスもありましょうし、生まれつき、あるいは育った環境の影響で、ストレスに弱い人もいます。他の人が十分に耐えられる程度のストレスで、不調をきたしてしまうのです。ですから、事業主が職場のストレスに注意していても、従業員から不調者が出てしまうかもしれません。その場合には、早期に助言、助力が得られる専門機関に相談するのが、問題解決の早道です。

 本シリーズでは、職場で起こった、あるいは起こる可能性のある心の健康問題について、相談に乗ってくれる専門家、専門機関を紹介していきます。それぞれの得手、不得手、具体的な相談の仕方なども盛り込んで解説してもらいますので、ぜひお読みください。内容のすべてを頭に入れる必要はありません。一度ざっとでも目を通しておくと、心の健康問題のことで困ったときに、「そういえば」と思い出して該当部分を再読し、適切な対応をとることができるのではないかと思います。日頃の職場や従業員を見守る目が少し変わるかもしれません。

 私共は、一般財団法人あんしん財団との共同研究で、職場の心の健康問題対策に役立てていただける「メンタルヘルス対策支援ツール」を開発してきました。ストレスが少なく働きやすい職場づくりのヒントから、不調者が出てしまった際の対応法まで、全部で8種類あります。それらはすべて、一般財団法人あんしん財団のホームページにある「こころの“あんしん”プロジェクト」からご覧になれます。無料でダウンロードも可能です。本シリーズは、それを補完するものだと言えます。もちろん、単独でも有用な情報となるはずです。

 事業主や担当者の方々が、この8つのツールを活用しながら、本シリーズもチェックされて、自社の従業員の心の健康問題に向き合われることを、そしてそれを通じて職場全体の活力が向上することを願って止みません。