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『活用しよう社外の専門家!~メンタルヘルス対策に悩んだら~』シリーズ連載開始にあたって
産業医科大学
産業生態科学研究所精神保健学
産業医実務研修センター
廣 尚典(ひろ ひさのり)先生
私どもは一般財団法人あんしん財団との共同研究で、職場の心の健康問題対策に役立てていただける「メンタルヘルス対策支援ツール」を開発してきました。ストレスが少なく働きやすい職場づくりのヒントから、不調者が出てしまった際の対応法まで、全部で8種類あります。
事業主や担当者の方々が、この8つのツールを活用しながら、本コーナーもチェックされて、自社の従業員の心の健康問題に向き合われることを、そしてそれを通じて職場全体の活力が向上することを願って止みません。
本シリーズでは、職場で起こった、あるいは起こる可能性のある心の健康問題について、相談に乗ってくれる専門家、専門機関を紹介していきます。それぞれの得手、不得手、具体的な相談の仕方なども盛り込んで解説してもらいますので、ぜひお読みください。
2020年3月まで、毎月30日(予定)に計6回シリーズとして掲載いたします。
第5回 労働者数50人未満の事業主の皆様へ、「地域産業保健センター」をご利用ください。
~無料で産業保健サービスを提供しています~
執筆:井上 温(いのうえ ゆたか)先生
横浜北地域産業保健センター コーディネーター
【労働安全衛生法と地域産業保健センターの役割】
労働安全衛生法により労働者50人以上の事業場は「産業医」を選任して労働者の健康管理等について相談してアドバイスすることを事業者に義務付けています。健康診断実施との就業上の措置、心身の健康保持・増進に係る措置など産業医の職務が定められています。
50人未満の事業場では産業医の選任の義務がないために厚生労働省が平成5年に都道府県に一か所ずつ地域産業保健センターに「健康相談窓口」を開設したのが始まりです。その後、労働基準監督署単位で全国に配置されるようになりました。当初は郡市医師会や都道府県医師会に事業委託してスタートしました。平成26年から産業保健サービスの一元化を図るために独立行政法人・労働者健康安全機構が母体となって都道府県医師会の協力のもと運営されています。
【地域産業保健センター事業の紹介】
地域産業保健センターは健康相談窓口を設置して、医師会に所属する認定産業医が中心となって次のような産業保健サービスを提供しています。
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健康診断事後措置など(特定健康相談という)
(1)健康診断結果に基づく医師の意見聴取(診断後の事業者の意見聴取の対応)
・就業上の措置について事業者は医師から意見を聴くことが出来ます。
(2)脳・心臓疾患のリスクが高い労働者に対する保健指導(健診所見者の保健指導)
・医師の他に登録保健師が行う保健指導を行うケースもあります。 |
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長時間労働による面接指導(一定の時間外労働者の医師による面接指導)
○疲労の度合い、ストレス状況から事業者に対してアドバイスを行います。 |
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メンタルヘルス不調者の健康相談・職場の復帰の支援方法
○労働者本人及び事業者に対して健康相談を行います。
○休職者の復帰に関して事業者にアドバイスも行っています。 |
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ストレスチェック制度に基づく高ストレス者の面接指導
○ストレスチェックの結果、高ストレスであるとされた労働者が面接指導を希望した場合は健康相談に応じます。 |
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個別訪問による産業保健指導
○医師、若しくは登録保健師、衛生工学の専門家が事業所を訪問して作業環境管理、健康管理(メンタルヘルス)対策の状況を踏まえ、総合的な助言・指導を行います。 |
【ご利用方法】~お気軽にご相談ください~
利用する際は機微な健康情報を取り扱うため事業場の登録と利用申込書の提出が必要です。また常設でないため日程を調整することになります。健康相談の設置場所は医師会やクリニック・病院等の医療機関の他、訪問先の事業場等、各センターにより様々です。限られた予算内で行うため利用回数などに制限があります。
小規模事業場のメンタルに係る事例をみると相談先が分からないため重症になってから持ち込まれるケースが多く、早期に対応していれば良かったのにと思うこと度々あります。協力産業医の専門性などから特徴がみられ、特にメンタルにかかる健康相談は心療内科系の協力医がいる場合は積極的に対応しますが、消極的なケースも散見されるのも確かです。
平等かつ均等にサービスが受けられるよう心がけていますが、全国圏域ごとに置かれている地域産業保健センター地域の事情により利用の方法や内容が異なりますので、窓口となる「コーディネーター」にお気軽にご相談ください。日本の産業経済を支える小規模事業場の産業保健サービスを更に充実し、提供していきたいと考えています。