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活用しよう社外の専門家!~メンタルヘルス対策に悩んだら~

承認:エディタ

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『活用しよう社外の専門家!~メンタルヘルス対策に悩んだら~』シリーズ連載開始にあたって
産業医科大学
産業生態科学研究所精神保健学
産業医実務研修センター
廣 尚典(ひろ ひさのり)先生

 

 

 私どもは一般財団法人あんしん財団との共同研究で、職場の心の健康問題対策に役立てていただける「メンタルヘルス対策支援ツール」を開発してきました。ストレスが少なく働きやすい職場づくりのヒントから、不調者が出てしまった際の対応法まで、全部で8種類あります。

 事業主や担当者の方々が、この8つのツールを活用しながら、本コーナーもチェックされて、自社の従業員の心の健康問題に向き合われることを、そしてそれを通じて職場全体の活力が向上することを願って止みません。

 本シリーズでは、職場で起こった、あるいは起こる可能性のある心の健康問題について、相談に乗ってくれる専門家、専門機関を紹介していきます。それぞれの得手、不得手、具体的な相談の仕方なども盛り込んで解説してもらいますので、ぜひお読みください。






【最終回】 




第6回 「産業医はどういう医師かご存じですか?」
執筆:森口 次郎(もりぐち じろう)先生

一般財団法人京都工場保健会 診療所副所長・産業保健推進本部医療部長/産業医学研究所所長/医学博士



はじめに

 「常時 50 人以上の労働者を使用する事業場においては、事業者は産業医を選任し、労働者の健康管理等を行わせなければならない」ことが、労働安全衛生法第13条、労働安全衛生法施行令5条に示されています。

 しかし『産業医はどのような業務をするのか?』、『どうやって産業医を探せばいいのか?』、『事業場の労働者が50人未満だったら健康管理はどうするのか?』、など分からないこともあるのではないでしょうか。そこで今回は産業医の業務内容についてご紹介します。



産業医業務のきっかけ

 筆者が嘱託産業医として企業から契約を求められるきっかけは、心の健康問題でしばらく休職し復職を希望する社員さんの職場復帰の可否や就業上の措置への意見を出してほしいとの要望が多いように思います。

 同様の相談を、労働者50人未満で産業医の選任義務がない規模の事業場から相談をいただくこともあります。このような求めに対し、ご本人との面談、人事労務担当者や上司との協議、主治医との意見交換などを行い、順調な職場復帰を支援し、その後に本格的な産業医業務が始まります。

 なお心の健康問題のみならず、脳や心臓、がんなどの大病を経験した社員への支援希望がきっかけとなる場合もあります。



企業への幅広い貢献の意識を持つことの大切さ

 上記のような復職支援は、職場の限られた一部の人への濃厚な取り組みですが、産業医は事業場の産業保健活動に広く関わることも必要ですので、一段落ついたら早めに、安全衛生委員会、職場巡視などを含めた年間計画を立てるようにしています。

 安全衛生委員会には、労使双方から委員が選出され、事業場で認識されている産業保健の課題についての情報が収集できます。また、産業医から定期的な講話などで情報発信することで、事業場の産業保健に関する知識が向上し、委員たちからの産業医への要望が増えていくことにつながります。
 
 職場巡視は、労働者が働く職場の現状把握、健康保持と負荷軽減のための問題確認、改善のための提案や指導を行うことを基本的な目的としていますが、あわせて産業医の顔を売る絶好のチャンスにもなります。毎月職場を巡視して、熱心に労働者に作業姿勢などについて指導する産業医であれば、各労働者との信頼関係が構築され、労働者から“制約”と感じられる就業上の措置であっても、その産業医から説明することで「先生の言うことなら」と受け入れられやすくなると思います。



産業医にやってもらえること

 安全衛生委員会、職場巡視以外にも産業医には大事な仕事があります。日本医師会の「産業医契約書の手引き」によれば、そのほかの産業医業務として、
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 健康診断及び面接指導の結果に基づく就業上の措置に関する意見提出
 
 健康診断などの健康管理に関する企画への関与と助言・指導
  
 診断書などに記された労働者の心身の状態の情報を解釈・加工し、就業上の措置に関する意見提出
 

 職業性疾病を疑う事例の原因調査と再発防止への関与と助言・指導

 長時間労働に従事する労働者の面接指導

 ストレスチェックの結果に基づく労働者の面接指導

 職場復帰の支援等をはじめとする治療と仕事の両立支援

 労働者からの健康相談

などがあげられます(一部筆者が改変)。
これらの業務が、産業医にやってもらえる一般的な内容といえるでしょう。



産業医の探し方

 多くの企業が前述のような幅広い役割を期待できる産業医を活用することは、事業場の産業保健活動をより良いものにし、労働者の健康保持増進や事業場の安全衛生向上に役立ちます。
ではどうやって産業医を見つけたらよいでしょうか?

  1    
 都道府県医師会や郡市区医師会に相談する
 
  2  
 近隣の医療機関に相談する 
  3  
 健診を依頼している機関に相談する
  4  
 医師を紹介する会社に相談する
  5  
 同業他社や近隣の会社で選任している産業医を紹介してもらう  
    

などがあげられます(労働者健康安全機構「中小企業事業者の為に産業医ができること 目指せ 健康経営!」より引用)。
またこれらに加えて、都心部を中心に産業医として個人事務所を構えて活動している独立産医に相談することも可能です。



小規模事業場に関わる専門職
 本稿の冒頭に「50 人以上の労働者を使用する事業場の事業者は産業医を選任する」と記載した通り、労働者50人未満規模であれば事業場は産業医を選任する必要はありません。しかし産業保健の専門家の支援を得たい場面もあろうかと思います。
 
 その際の頼れる窓口として、各都道府県に設置されている「地域産業保健センター」をご紹介します。地域産業保健センターは一定の制約がありますが、産業保健サービスを無料で提供しています。サービス内容は、「①脳・心臓疾患のリスクが高い労働者に対する健康相談・保健指導」、「②メンタル不調の労働者に対する相談・指導」、「③健康診断の結果に基づく医師からの意見聴取」、「④長時間労働者に対する医師による面接指導」、「⑤高ストレス者の面接指導」、「⑥個別訪問による産業保健指導の実施」の六種類となっています。
 
 健診機関も頼りになる場合があります。本シリーズ第4回の白石先生も言及されていましたが、小規模事業場に対して、嘱託保健師の契約を行ない、保健師が中心となる活動計画を立てて、事業場のニーズに応じた継続的な健康管理活動を提供している機関もあります。

 今回は産業医にできることやその活用方法についてご紹介しました。
 ご紹介した内容が皆様の事業場の安全衛生向上に役立つことを願っています。