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メンタルヘルス・健康経営相談室

 

産業医科大学
産業医実務研修センター
柴田 喜幸(しばた よしゆき)先生


 みなさん、こんにちは。学校法人産業医科大学の柴田と申します。 
 一般財団法人あんしん財団と学校法人産業医科大学が行っている中小企業のメンタルヘルス問題の共同研究の代表をしています。
 
 さて、今回から始まるこの企画は、これまでの連載(「健康経営ゼミナール」※1など)の続編として、一般財団法人あんしん財団が2019年2 月に開催した「メンタルヘルス対策シンポジウム」 等で寄せられたご質問や課題を中心に、共同研究メンバーが 分かりやすく解説をしていきます。

 2020年3月まで、毎月20日(予定)に計6回シリーズで掲載します。
 毎回執筆者やトピックを変えてお送りします。お付き合いください。


 
第2回 「ストレスチェック結果の活かし方」


執筆:森本 英樹(もりもと ひでき)先生
森本産業医事務所 代表 / 医師/社会保険労務士



Question
  ストレスチェックが法制化されて、しばらく経ちました。うちの会社は、ストレスチェックを実施して集団分析をしています。集団分析の結果は人事がとりまとめて社長に報告していますが、それ以外はしておりません。実際、従業員の間でもマンネリ化してきているように思います。少なくない費用を支払っていますので、何か次の一手を考えたほうがいいとは思いますが、どうすれば良いのでしょうか。(製造業 人事)

Answer
 ストレスチェックの活用には工夫が必要です。最近は色々なツールがあるので活用できます。

 

 

【ストレスチェック制度の現状について】

 ストレスチェック制度が2015年度にはじまり、早くも5年が経過しました。周知が進み、2018年の行政の統計では100人~299人規模の事業場で95%を超える実施率となっていますし、法律では努力義務となっている10人~29人規模の事業場でも実施率が半数を超えています。
 
 それではストレスチェック結果はどのように活用するのでしょうか。ストレスチェック実施後の対応は2つに分かれます。1つは個別対応です。高ストレス者に対して、希望者に医師の面接指導を受けさせる必要があり、事業者の義務となっています。2つ目は集団分析です。組織の健康度を調べることができ、努力義務となっています。ここでは集団分析について解説していきます。集団分析を実施した事業場は、10人~299人の事業場で、72.0%、100人~299人の事業場で81.4%でした。


ストレスチェック対策の注意点】

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ストレスチェックの初年度や2年目の時点では、従業員は新鮮な気持ちで受検します。しかし他の企画と同様、いずれ新鮮さは失われ例年行事として取り扱われます。これは悪いことではありませんが、ストレスチェックが完全にマンネリ化するまでの間に「ストレスチェックを活かしたより良い職場づくり」に取り組むことが大切だと感じています。

 とはいえ、結果を早急に求めることも避けるべきです。ストレスチェックの結果に基づいた介入は管理職や主任クラスにとってイヤなものです。「あなたの部署はストレスが多いから何とかしなさい」と言われると、言い訳を考えたくなったり、反発したくなったりするのが人間です。そしてストレスチェックの結果は、各従業員の意向によって左右することができます。
 
 高ストレスだと言われた職場だけを対象に、「何か対策を立てなさい」とだけ話を進めると、その部署の管理職は「忙しいのにもかかわらず、さらに余計な仕事が増えた。しかも丸投げされた。」と考えがちです。そして、翌年になると、「今年のストレスチェックでも色々言われるのは勘弁だから、軽めに書いておこう」とその部署のスタッフは考えます。その結果は、「対策を立てたから部署のストレスが軽くなった」と喜ぶことになります。しかし、それでは内容が伴っていません。

 

ストレスチェックの具体的な進め方】

 

 それではどのようにすれば良いのでしょうか。ポイントは2つあります。1つ目は、部署に丸投げするのではなく、連携できる環境を整えること。2つ目は一気に展開するのではなく、2-3年程度かけてステップアップすることです。

 1つ目の連携とは、旗振りをする部署(小規模ですと人事担当部門、大きくなると産業保健部門)が、集団分析後の職場にアプローチをする部署のことを、どれだけ知っているか/知ろうとしているかという視座です。より端的な言い方をすると、ストレスチェックをして高ストレス部署だとはじめて気づくという状態では、その後の対策はうまく進まないことが多いと感じます。従来から負荷がかかっている部署であることを認識しており、ストレスチェックによって数値化されることで、その認識が正しかったと確認する状態であることが、ストレスチェック対策の第一歩だと思います。つまり、ストレスチェック対策の旗振りをする部署は、それぞれの部署のことを良く知っており、ある程度本音で話ができる環境が必要です。

 2つ目として、部署の感触を見ながら2-3年程度かけてステップアップすることです。まずは分析単位を会社単位だけでなく細分化し、部署別、男女別、就業内容別(製造、営業、事務など)などで集団分析を行ってみます。公開範囲は社風を踏まえた上での判断になりますが、当面は各管理職に結果を伝え、対策案のフィードバックを求めます。

 各部署からフィードバックを求める際は、ネガティブなことだけを報告してもらうのではなく、ポジティブなことをさらに伸ばすという視点を含めてください。例えば、1)職場の良い点・改善が必要な点 2)集団分析から見た良い点・改善が必要な点 3)1)2)を踏まえて来年度のストレスチェックまでに何らかの対応をとろうと思う内容 の3点を書いてもらうなどです。

 これらの対策についてストレスの高い部署にだけ対処を求めることが多いことを耳にします。しかし前述した理由から、一部のストレスの高い部署に限定して取り組みを求めることを避けるべき会社も多いのではないでしょうか。あくまで「良い職場を作ることはどの部署にとっても重要だ」という視点のほうが、それぞれの部署が違和感なく取り組めるように感じています。

 

 

【より良い職場づくりのためのツール】

 あんしん財団では、心の健康づくり対策充実度診断を無償で提供できるようにしています。これは基本的には会社単位での取り組みの状況を把握するために用いるツールですが、部署単位での取り組み状況を確認することもできます。その他、職場環境改善のためのアクションチェックリスト、快適職場調査なども導入を検討できるツールです。より良い職場づくりはファシリテーション技術等種々のスキルがあることが望ましく、極力 経験者に初回は関与してもらうことを推奨します。


 また、職業性ストレス簡易調査票の57項目ではなく、新職業性ストレス簡易調査票といって80項目などの多項目版を活用することもできます。項目が増えることで、ワークエンゲイジメント(仕事に積極的に取り組み、仕事で活力を得ている状態)などポジティブな指標を測定できます。一方で、項目には「自分の仕事に見合う給料やボーナスをもらっている」、「人事評価の結果について十分な説明がなされている」といった人事面のセンシティブな内容を含むことから、社内への影響を検討した上での導入が必要です。

 多項目版が難しい場合には、仕事の満足度の指標にも着目してください。健康リスクが高い職場のうち仕事の満足度が低い職場は、より注意が必要な職場です。一方で、高めのストレス度であっても仕事の満足度が高い職場は、現状を許容できる可能性もあります。

 

引用)

厚生労働省.平成30年 労働安全衛生調査(実態調査) 結果の概況.

https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/h30-46-50b.html

あんしん財団.心の健康づくり対策充実度診断.

https://www.anshin-kokoro.com/Portals/0/resources/tool/shindan_dl.pdf

中央労働災害防止協会.働きやすい職場づくりのために「職場のソフト面の快適化のすすめ」

http://www.jaish.gr.jp/user/anzen/sho/sho_07.html





 

 
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