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メンタルヘルス・健康経営相談室

 


産業医科大学
産業医実務研修センター
柴田 喜幸(しばた よしゆき)先生
 みなさん、こんにちは。産業医科大学の柴田と申します。 
 一般財団法人あんしん財団と産業医科大学が行っている中小企業のメンタルヘルス問題の共同研究の代表をしています。
 
 さて、今回から始まるこの企画は、これまでの連載(
「健康経営ゼミナール」※1など)の続編として、一般財団法人あんしん財団が2019年2 月に開催した「メンタルヘルス対策シンポジウム」 等で寄せられたご質問や課題を中心に、共同研究メンバーが 分かりやすく解説をしていきます。

 2020年3月まで、毎月20日(予定)に計6回シリーズで掲載します。
 毎回執筆者やトピックを変えてお送りします。お付き合いください。


 

 
第5回 「健康経営、まずは最低限ところからでも始めよう」


執筆:洞澤  研(ほらさわ けん)先生 
 社会保険労務士法人人事総務パートナーズ 代表/特定社会保険労務士



Question
 「メンタルヘルス対策・健康経営に取り組みませんかと、社長に言っても受け入れてもらえません。
 何か良い方法はありませんか?

Answer
 社長に関心無い場合ですが 健康経営に取り組むための特効薬というものは残念ながらありません。
 「最低限の法律を順守しているか?」からスタートしてみると対策が不十分な場合が多いので、
 まずは法律上実施しなければならない部分から取り組むのが良いでしょう。


1.中小企業の従業員の方たちから「私が働いている会社でもぜひメンタルヘルス対策や健康経営を実践したいと思うのです
 が、社長に関心無いんです」、「社長に健康経営の重要性について話をするも取り合ってもらえない」というご相談を受け
 ることがよくあります。

  私自身、社会保険労務士として中小企業の労務管理や経営者へのアドバイスを行ってきておりますが、中小企業、特に創業
 してから年数が経過していない企業の場合、社長が従業員のメンタルヘルスや  健康経営に残念ながら関心が無い事が多い
 です。

  そういった「社長がメンタルヘルス・健康経営 への 関心が無い場合」ですが、私の方からは社会保険労務士として 「最低
 限、法律を守るレベルでのメンタルヘルス対策および健康経営ができているか?」を確認し、多くの中小企業では対策が不十
 分であるのが実情であることから、まずは法律上最低限の部分からでもメンタルヘルス対策・健康経営へ取り組むようにアド
 バイスいたします。

  ここでは、チェックしてみたいポイントをピックアップいたします。

2.企業として最低限取り組まなければならないメンタルヘルス対策・健康経営

 ①            
 職場のセクシャルハラスメント対策はできているか?
 
 ②  
 職場のパワー・ハラスメント対策はできているか?

 ③  
 従業員の雇い入れ時の健康診断、定期健康診断を実施しているか?
  
 ④
 定期健康診断実施後に有所見であった従業員のフォローができているか? 
  
 ⑤  
 衛生管理体制 (衛生管理者、産業医、衛生委員会の設置・運営、衛生推進者の選任など)ができているか?
 
   ⑥  
 従業員の労働時間に関して36協定違反がないか?そもそも労働時間が適正に管理されているのか?
   ⑦
 従業員に年間5日間以上年次有給休暇を取得させているか? 

 
  上記チェック項目は、全ての企業において義務化もしくは義務化が予定されている内容(⑤は一定規模以上の企業のみ)とな
 ります。

  まず、職場のセクシャルハラスメント対策については会社(事業主)が雇用管理上講ずべき措置として、厚生労働大臣の指針
 により10項目が定められており、会社(事業主)は、これらを必ず実施しなければなりません。

  次に、職場のパワーハラスメント対策ですが労働施策総合推進法が改正となり 2019 年 6月5日に公布され、職場における
 パワーハラスメント防止のために、雇用管理措置を講じることが事業主の義務となり、適切な措置を講じていない場合には 是
 正指導の対象となることになりました。
 (パワーハラスメントの措置義務については、中小企業は、公布後3年以内の政令で定める日までの間は努力義務となります)

  特に メンタルヘルス対策の重要な要素となるパワーハラスメント対策は、どの企業も今後取り組んでいかなければいけない
 課題だという事ができます。
 
  従業員の健康診断に ついては、定期健康診断は実施しているが、健康診断実施後のフォロー(有所見者に対して、再検査の
 受診を勧める。健康診断の結果について医師による意見聴取を行う)までできていない企業が多く見受けられます。

  労働基準監督署の調査が入った場合、定期健康診断の実施だけでなく受診後のフォローが不十分であると、是正勧告の対象と
 なりますので、定期健康診断実施後のフォローもしっかり行うようにしましょう。

  衛生管理体制ですが、全ての業種において事業場(1拠点単位)の規模で50人以上常時使用する労働者がいる場合、衛生管
 理者(業種によっては安全管理者も )、産業医の選任と労働基準監督署への報告が義務とされており 、衛生委員会(業種によっ
 ては安全衛生委員会)の設置および委員会を毎月1回以上開催することが義務付けられています。

  そして常時使用する労働者数が50人未満の事業場の場合でも10人以上労働者を使用する場合、衛生推進者(業種によって
 は安全衛生推進者)を選任し、関係労働者へ周知することが義務付けられています。
  
  なお、労働基準監督署の調査でも衛生推進者もしくは安全衛生推進者が選任されていないと是正勧告の対象となりますので、
 10人以上50人未満の規模の企業の方は、特に注意するようにしましょう。

  労働時間の管理であったり、長時間労働の抑制、年間5日間以上の 年次有給休暇の取得などに関しても、働き方改革により
 義務化もしくは義務化が予定されているものがありますのでしっかりチェックしましょう。


3.まとめ

  いかがでしたでしょうか?「うちの会社はメンタルヘルス対策や健康経営は必要ない」と言っている企業ほど「法律上最低限
 守らなければならないメンタルヘルス対策および健康経営への取り組み」ができていない事が多いです。

  まずは法律上最低限の部分についてクリアすることを目標としてメンタルヘルス対策、健康経営に取り組んで頂けたらと思い
 ます。











 

 
メンヘル相談室