第1回 本気で健康経営に取組んでよかったこと
【連載の開始に際して】
健康経営に取り組む法人が増加しており、健康経営優良法人(中小規模法人部門)2020に応募した法人の数は6000を超えました。そしてその中から、4816法人が認定されました。このような認定数の増加を受けて、経済産業省は、大規模法人部門のホワイト500のような上位法人に対する新たな冠としてブライト500の創出を発表しました。健康経営優良法人に対するインセンティブ措置も、徐々増加しています。数が増えてくると、健康経営優良法人を取得すること自体を目的として健康経営を開始する法人も増えてきます。
本連載は、「健康経営優良法人への道」ですが、本来のタイトルは“本気”の「健康経営優良法人への道」としたいところです。それは、“本気”がなければ、せっかく健康経営を行っても、あまり得るものがないからです。
【中小企業の経営者インタビューから分かったこと】
昨年から、本気の健康経営を展開している中小企業へのインタビューを行ってきました。現在は、新型コロナウイルス騒ぎで中断していますが、多くの学びがあるため、落ち着いたら再開するつもりです。そのような会社の経営者は、「健康経営に取組んで本当に良かった」との実感を持っています。
もともと健康経営は、従業員の健康増進によって、体調不良による能率低下が減ったり、疾病休業が減ったりして、会社の生産性が向上するということが効果として見なされてきました。また、健康増進の効果がでるまでには、それなりの期間の取組みが必要だと考えてきました。ただ、インタビューをした中小企業の経営上の成果は、従業員が健康になること以上に、職場が健全になることが大きそうで、その成果は比較的早く出てくることが分かってきました。
「健康経営に取組んで本当に良かった」と経営者が考えている職場を訪問すると、私たち来訪者に対して親切で、とても好感を覚えます。従業員の皆さんは、自分の会社に誇りをもって働いている印象を受けます。健康経営に“本気”で取り組んでいる経営者は、従業員間の相互信頼やコミュニケーションが向上し、「この会社で働いていてよかった」、「知人にもこの会社を紹介したい」といった気持ちで働く従業員が増えるといった効果を実感しているようです。それが来訪者への対応にも表れているようですし、仕事面でも自発的な取組が増えているようです。
【健康経営が成果を生み出す流れ】
なぜ、健康経営という取組みがそのような成果を生むのでしょうか。このことは、まだ研究課題の段階であるため正確なことが言えませんが、現在の仮説は次のとおりです。
まず、従業員の間で健康をテーマとして話題が増えることは、極めて個人的なことを話す機会が増えることであり、お互いの親密感が高まります。そして健康経営の取組みは、経営者が自分たちの健康や幸福を願ってくれているという認識のもとに、経営者への信頼も高まります。もちろん、自分のことを話することに抵抗がある従業員もいるでしょうが、従業員の相互の思い遣りが大きくなれば、そのことに対する抵抗も薄れていき、みんなで健康になりたい、いい仕事をしたい、顧客や社会にも貢献したいという意欲が溢れてきます。
【最も重要な経営者の意識】
ここまで読まれても半信半疑かもしれません。このような状況が生み出される最大の前提は、経営者が自分の従業員がイキイキと働くことが、会社の成長の源泉であるという信念を持っていることであり、皆さん自身の考え方次第なのです。
仮に皆さんが労働者であったら、経営者に対する信頼感も従業員の間の親密感もなく、ほとんどの従業員がお金のために働いている会社と、その両方が高く顧客のために貢献したいと考えている会社のどちらで働きたいですか。
前者のような会社では、人手不足の業界でも、従業員が友人に自分の会社で働いてみないかと勧めます。噂が広がれば、この会社で働いてみたいと考える求職者が増加します。その結果、求人広告を出さなくても、人が集まってきます。もちろん、そのような流れに付いていけない従業員が反発して、退職することもあるかもしれません。それでも、多くの従業員はその会社で働き続けたいと考えているはずですし、次に採用される従業員も、経営者や従業員の間に健康経営を前提とした相互信頼の文化があることを理解して入社したため、会社に根付いてくれるはずです。
【心理社会的要因と健康および生産性との関係】
このような健康経営の効果は、健康とは関係ないように感じられるかもしれません。しかし、現在は身体的な健康以上に、精神的な健康が重要な時代になっています。精神的な健康には、努力と報酬の均衡、仕事に対する意欲を持った向き合い方と関連したワーク・エンゲージメント、職場内の相互支援と関連したワーク・ソーシャル・キャピタル(仕事の社会資源)といった、心理社会的要因と一般的に呼ばれる要素が大きく関連することが分かっています。
また、これらの要素が高まると、体調不良による能率低下が減ったり、疾病休業が減ったりすることによって生産性が向上することも分かってきています。健康とは、ただ単に病気がない状態ではなく、イキイキとしている状態であると定義すれば、このような関係は当然のことと理解いただけるのではないでしょうか。
【最後に】
健康経営には、多少の先行投資が必要ですが、このような状況さえ生まれれば、「健康経営に必要なコストは、経営全体の中で吸収されている」と感じられるようになるはずです。これは、ある中小の運送会社の社長さんから聞いた言葉です。経営者である皆さん自身が持つ、従業員に対する気持ち、会社が存続発展するための必要要素の考え方を再チェックしてみてください。それが、“本気”の「健康経営優良法人への道」の第1歩です。
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第1話 チェックポイント
経営者である皆さん自身が持つ、従業員に対する気持ち、会社が存続発展するための必要要素の考え方を再チェックする
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第2回 社長の想いと健康経営のきっかけ
【健康経営で、何よりも大切なこと】
健康経営が成果を上げるために何よりも大切なことは、社長などの経営トップが、「従業員の皆さんに長く元気に働いてほしい」という想いを持つことです。この元気には、病気でないという意味だけでなく、イキイキとしたイメージも含まれます。
健康経営優良法人を取得すると、人を採用するのに有利だとか、安い金利でお金が借りられるらしいといったように、ただ単にそろばん勘定で健康経営を始めるのであれば、すぐにやめた方がいいでしょう。その理由は、そんな考えでは、ほとんど成果が上がらないからです。
前回も触れましたが、健康経営の導入した中小企業で生じる効果に、求人広告を出さなくても人が集まってくるような採用への効果があります。このような会社では、従業員が知人を紹介するといったことが頻繁に生じています。知人を紹介した従業員自身も、できるだけ長くこの職場で働きたいと思っています。こんな状況は、経営トップの想いがなければ生じるわけありませんし、目の前の従業員の皆さんが一番実感しているから生じるのです。
【お金に興味があるか、人に興味があるか】
少し前に、健康経営の共同研究をしているメンバーに言われたことで、すごく気にかかっていることがあります。それは、「経営者には、お金に興味がある人と、人に興味がある人がいる」という言葉です。もちろん、会社を経営していく上では両方が必要でしょうが、それでも経営者によってどちらに重点が置かれるか、その違いが大きいのではないでしょうか。
もう一つ、健康経営を積極的に展開しているある運送会社の社長のエピソードがとても心に残っています。この会社は、最初は規模拡大を追って大手運送会社の仕事を中心に受けていたが、その会社の方針に翻弄され、経営に行き詰りそうになり、従業員にも大きな迷惑をかけることになったそうです。こんなことでは、従業員を幸せにできないと考え、規模拡大から地域に密着した付加価値のある仕事を中心に据え事業展開を図る方針に切り替えたそうです。健康経営は、その事業方針の転換と同期して始めたそうで、自然な成り行きだったそうです。
【健康経営を始めるきっかけ】
健康経営で成功している中小企業の経営者に話を聞くと、健康経営優良法人を意識して始めたのではなく、経営者としての想いを果たそうと考えて始めたことが、結果的に健康経営であったという表現をよくされます。
それでも、何らかのきっかけがあったはずですので、もう少し話を聞いてみると、自分が大病を患ったとか、この間まで元気であった従業員が病気で亡くなったとか、健康の大切さが身に染みたようなきっかけを語られる方が多いようです。これは、肺がんや心筋梗塞で入院したことをきかっけにタバコを止めるといった行動と似ています。できれば、そのような悲しい経験や苦い想いをしなくても、健康経営を始めるきっかけを考えていだきたいと思います。
職場にいる従業員を眺めてみてください。10年後にも、同じ年齢構成で会社は運営できそうですか。今よりも若年労働力が減少する10年後に、確実に「できる」と思われる方はほとんどいないのではないでしょうか。場合によっては、「平均年齢が10歳上がっていそう」と考えられる人もいるのではないでしょうか。このような状況は、会社の規模が小さい方が当てはまるはずです。そして、何の努力もしなければ、年齢が上がれば体力が低下し、病気が増えることは当たり前であり、それは、会社の生産性に直結することです。
今から15年ほど前に、小さな会社でも、何故か従業員の健康管理に一生懸命に取り組んでいる経営者にインタビューを行い、その理由を明らかにする研究をしたことがあります。
一人ひとりのきかっけは様々なもので、それを明らかにしたところで、取り組んでいない経営者をその気にさせることはできないことが分かりました。しかし、それから時がたち、今では、生産年齢人口が急激に減少していく日本で中小企業を経営している経営者が、どうして従業員の健康増進に踏み出さないか、とても不思議に思います。人への興味の大きさにかかわらず、人材がとても大切ということはわかっているはずです。
今、このコラムを読んだことをきっかけに、健康経営を意識してみませんか。
【健康経営に対する言い訳の4つ】
中小企業の経営者の皆さんから、健康経営を導入できない色々な理由を聞きます。「個人の健康はプライバシーにかかわるので踏み込むことができない」、「本来、健康管理は本人が取り組むべきもので、会社の役割ではない」、「うちのような中小企業には、時間的にも、人的にも余裕がない」、「そんな経営上の成果が怪しいものに取り組む余裕はない」といった4つが主なものです。
それぞれに対して、「従業員の健康情報は、労働安全衛生法の範囲ではむしろ経営者が理解して利用しなければならないものですし、本人の同意に基づくものであればそれはプライバシー侵害なりません」、「本人が取り組むというのはその通りですが、健康は社会的な環境要因が大きく左右しますので、会社が支援することが重要です」、「中小企業の健康経営は、経営者自身が時間を投資する気があれば、それほど大きなお金を必要とするものではありません」と説明をします。そして、最後の理由については、「多くの好事例が出てきていますが、それでも信じて行動する経営者だけが成果を享受できるということです」とでも説明しましょうか。
いずれにしても、これらの取り組めない理由をお話になる経営者にも、一応の説明はしますが、多くの場合、それらは言い訳であることが多いため、いくら説明しても、また効果のエビデンスを示しても、納得いただけないことがほとんどです。近い将来困るのは、その経営者自身ですので、「それなら仕方がないですね」と切り上げることにしています。
最後に
健康経営は、経営者の意識次第です。まずは、10年後の会社経営に、従業員の健康がどれだけ大切かを考えてみてください。その状況が不安であれば、今いる従業員の健康を維持でき、若手の採用にも効果があることを信じて、健康経営を始めてみませんか。
第2話 チェックポイント
10年後のあなたの会社で働く従業員の姿・構成を塑像してみる。
さらに若年労働力が減少する近未来に備えて、健康経営を意識するきっかけとする。
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第3回 自社の課題を知り、協会けんぽの宣言事業に参加。できることから始める
宣言の前に、自社の健康課題を知ろう!
健康経営優良法人を取得するためには、一定の要件を満たさないといけないのですが、それは後にとっておいて、まずは自社の状況に合ったことから始めることが重要です。「皆さんの会社には、どのような従業員の健康課題がありますか?」と質問されたとき、すぐに答えが頭に浮かびますか?当然ですが、まずや自社の従業員の健康課題について理解する必要があります。
会社特有の従業員の健康課題を考える際、仕事の要因と従業員構成の要因に分けてみるとわかりやすくなります。
仕事の要因とは、例えば、重たいものを持ち運ぶ必要がある仕事があるとか、パソコンの前に座ったままの仕事があるとか、車を使っての営業のためほとんど歩くことがないとかです。また、接客を伴う仕事もありますか。それぞれに典型的な健康課題が浮かびます。職場の立地も重要な要因かもしれません。駅から離れた立地の場合にはほとんどの人が自家用車での通勤ですし、都市部で地下鉄の駅から近い場合にはほとんどの人が公共交通機関を使ったりします。それによって、1日の歩数も違いますし、新型コロナウイルスへの感染リスクも違いますね。
従業員構成の要因とは、平均年齢が高いとか、女性が多いとか、といった要因です。
従業員数の多い大企業ではデータを分析して課題を抽出することが必要ですが、中小企業の場合には必ずしもそれは必要ないでしょう。それでも、喫煙率、朝食欠食率などの生活習慣とか、健康診断の結果で糖尿病が指摘されている人の数とか、最近従業員が長期欠勤した病気といった情報はわかりますか。健康診断の結果や長期欠勤した場合に提出された診断書で分かることです。これらは法令に基づくものか、正式に本人から会社に提出されたものですので、正当な目的のためなら事業主が利用しても、何等か差し支えありません。
これらの情報を並べると従業員がイキイキと働くために、10年後も会社の生産性を維持するために、どのような健康課題があるのか、容易に列挙することができるはずです。その中から、3つほど、特に取り組みたいこと、取り組めそうなことを見つけてください。
健康経営宣言を出す!
健康経営の第一歩は、経営者として健康経営に取り組むことの宣言を出すことです。
この記事を読まれている経営者の多くの会社が全国健康保険協会(いわゆる協会けんぽ)に加入していると思います。ぜひ、協会けんぽの健康経営宣言事業を活用しましょう。協会けんぽではない場合には、それぞれの医療保険者(健保)に相談してみてください。何らかのコラボヘルス事業を行っていると思います。
中小企業の場合、健康経営といっても専門的な知識に不安があるとお考えではないでしょうか。そのようなときに、事業主と医療保険者が連携して、従業員の健康増進に取り組むことをコラボヘルスと呼び、国が推奨しています。それを受けて、協会けんぽの各支部が、「健康経営宣言」事業を展開しています。都道府県支部ごとに違いはあるようですが、この事業に参加すると、協会けんぽから実践のためのいろいろな支援を受けることできます。また、金融機関から金利優遇が受けられることもあります。所属する支部に連絡して、参加申請を行ってください。
健康経営宣言を行う際には、健康経営に取り組むという宣言だけでなく、どのような取組を行うかの簡単なプランも必要になります。すでに挙げていただいた、特に取り組みたいこと、取り組めそうなことから、一つでも、二つでも具体的なプランを作ってみてください。
できれば、従業員の多くが「社長は私たちの健康を気遣ってくれているんだ」と、わかるようなものがいいかもしれません。
少しはお金も使ってください。たとえば、弁当業者にいつもの弁当より少し高いヘルシー弁当を依頼して、その差額分を会社が持ってあげて利用を促進するなどです。協会けんぽがプラン作りを支援してくれます。また、健康診断の結果も、協会けんぽに提供してください。40歳以上でメタボリック症候群(いわゆるメタボ)と診断されるような場合には、保健指導(特定保健指導)を提供してくれます。その際は、保健指導は20分~30分ですので、就業時間中に受けられるようにするなど、配慮をしてあげてください。
確実にしてほしいこと!
一つだけ、確実に行ってほしいことがあります。日本では、労働安全衛生法で健康診断の実施が義務付けられているので、従業員の皆さんは毎年1回または2回(深夜勤務がある場合など)の受診をされていると思います。もし受診していない従業員がいたら、必ず受診させてください。病院でいつも持病の検査を受けているからといったことは理由になりません。
もし、どうしても受けたくないのであれば、法定の健康診断の結果と同じ内容を医師の診断付きで提出させてください。
言わずもがなですが、経営者自身が受診していなければ話になりません。従業員には示しがつきませんし、何よりも最も重要な経営資源は経営者自身の健康なのですから。
次に、健康診断結果の活用です。当たり前のことですが、健康診断は受けただけでは誰も健康にはなりません。結果に基づき、必要な行動を取るかが重要です。少し運動しようとか、塩分を控えようとか、それぞれで努力していただければいいのですが、確実に会社として行ってほしいことがあります。それは、治療や精密検査のために受診が必要と言われた人が、確実に受診しているか把握することです。もし、放置しているようであれば、受診するように指導してください。
「こんなことは個人の問題」と思ってはいけません。法律に基づく健康診断は、従業員が「働いてもいい健康状態か」を確認するためにあるものです。当然、治療が必要なのに受診をしていないことは、そのまま働いていいのか、とても不安な状態です。
従業員にも、働ける十分な健康状態を維持する義務があります。経営者としての責任を果たすためにも、従業員に最低限の責任を果たさせるためにも、健康経営宣言を出した会社として、“治療が必要なのに放置しているといった状態”をゼロにすることをまず達成してください。
最後に
いよいよ健康経営が始まります。健康経営宣言を出しても、何も変わらなければ、経営者が本気ではないことが従業員にすぐに伝わります。そうならないためにも、粘り強く従業員の意識を変えていく必要があります。
認定を取得するための健康経営ではありませんが、それでも健康経営優良法人の認定は気になるところです。ここまでの取組みで、おそらく必須項目の6項目のうち2項目、6項目満たすことが必要な選択項目のうちは4項目に〇が付く状態です。
第3話 チェックポイント
自社の従業員の健康課題を理解し、協会けんぽの健康経営宣言事業を活用して、宣言を出し、プランを立て、健康経営を実行に移すその際、健康診断で治療や精密検査が必要と言われた従業員が、その指導を放置していないかを必ず確認する。
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第4回 基盤として行うこと、味方を増やすこと、そしてーーー
基盤として行うこと
(1) ヘルスリテラシーの向上
健康経営宣言を出す際、自社の従業員の課題から一つ、また健康診断の受診とその結果に基づく受診の徹底から取組みを開始することを、前回お示ししました。今後は、プログラムを順次追加していくことになるのですが、その前にもう一つ、基盤として行っておきたいことがあります。それは管理職への説明および従業員への研修です。
健康経営において、管理職の立場にある従業員が、健康経営を行うことは経営の一環であり、その中で自分が役割を果たす必要があることを認識できるようにすることは、成果を上げる上で、とても重要です。経営者が旗を振ることは不可欠ですが、組織が大きくなればなるほど、中間管理職の行動は、従業員全体の行動に大きく影響します。難しいことを説明するより、経営者である皆さんの想いを直接伝えるようにしてください。
従業員への研修については、ヘルスリテラシーの向上を目指します。ヘルスリテラシーとは、「健康面での適切な意思決定に必要な、基本的健康情報やサービスを調べ、得、理解し、効果的に利用する個人的能力の程度」を意味し、一人ひとりが自分の健康を自分で守るためにとても重要な能力です。自分の健康をどのように管理するかといった基本的方法と、まずは始めたプログラムに関連するテーマの研修を行ってはいかがでしょうか。
もちろん、社内にこのような研修ができる人材はいないかもしれません。その場合には、協会けんぽに相談してみてはどうでしょうか。国の予算で設置されている都道府県産業保健総合支援センターやその地域窓口も相談に乗ってくれると思います。
(2) 関連法令の順守
健康経営優良法人の認定要件を確認していただければわかると思いますが、法令順守とリスクマネジメントを行っていることを誓約することは必須になっています。また、あとで法令違反や重大な労災が発生すると、認定が取り消しになります。まずは、安全衛生に関する基本的な法律である労働基準法および労働安全衛生法を順守できているか確認してください。
もう一つ、健康経営で重要な法律が健康増進法です。法改正によって、令和2年4月より、喫煙専用室以外の屋内喫煙は禁止になりました。これも必須項目ですので、要件を満たしているか確認してください。経営者自身が喫煙者の場合には、健康経営宣言とともに禁煙宣言もして、長年の課題であった禁煙を実行してもいいですね。
味方を増やす
いくら経営者の想いが強い健康経営でも、周囲は経営者の思い付きのように感じているかもしれません。「健康診断を受けないのは自分のポリシーだ」と公言したり、「どうしても治療を受けたくない」と受診を拒否したり、「個人的なことに干渉されたくない」と抵抗する従業員が出てくるかもしれません。でも、これは経営方針ですし、従業員のため、会社のためでもあるので、何とか、説得したいところです。また、そのような従業員は少数派のはずです。
そのような時には、味方を少しずつ増やしていくことをお勧めします。ある中小企業の経営者は、そのような時にもっとも力になったのは、総務のパート従業員だったとお聞きしました。自分の配偶者や子供だけでなく、多くの人に健康を大切にする会社で働いてほしいという想いをお持ちだったそうで、精密検査の受診報告のない従業員を粘り強く対応してくれたため、徐々に浸透していったとのことです。
健康経営の責任者は経営者自身ですが、味方が見つかったら、その従業員を“健康づくり担当者”として任命してはいかがでしょうか。
そして、目標の設定
健康経営では、毎年、目標を決めて、その達成度を評価して、翌年の計画を改善することが基本となっています。これは、通常の事業でも同じことだと思いますので、皆さんにはそれほど抵抗がないことではないでしょうか。とはいっても、健康経営ということになると、「どのような目標を立てればいいかわらない」、「年間目標といってもすぐに結果がでるものではないのでは」といった声が聞こえてきそうです。
健康経営の指標は、“施策の取組状況に関する指標”、“従業員の意識変容・行動変容に関する指標”、“健康管理の最終的な目標指標”に分けられます。健康的な食事に焦点を当てたプログラムを行っている場合、“施策の取組状況に関する指標”としては“ヘルシーメニュー利用者数”、“従業員の意識変容・行動変容に関する指標”としては“野菜を十分に取っている割合”や“朝食を食べている割合”、“健康管理の最終的な目標指標”は“高血圧や糖尿病の有所見者の割合”といったところが相当します。初年度としては、まず、実施しているプログラムを従業員の皆さんがどの程度利用しているか、参加しているかといった“施策の取組状況に関する指標”から始めてはいかがでしょうか。
目標の設定でとても大切なことは、数値目標とすることです。ヘルシーメニューの提供を始めたとすれば、30人の職場での利用数を“1日平均10人以上”などといった目標を決めることです。これによって取組の成否が明確になりますし、評価・改善がスムーズに行うことができるようになります。評価・改善の方法については、次回に説明していきたいと思います。
最後に
健康経営宣言とともに、基盤づくりがスタートしました。焦らずに、この状況でまずは1年間やってみてください。その過程では、いろいろな抵抗や課題が出てくると思います。なかなか想いが伝わらないという経験もされるでしょう。そのような時には、大切な従業員の健康保持と10年後の会社の存続・発展という大きな目的を思い出して、地道な取り組みを行ってください。
とはいっても、ここまでの内容を実施できれば、健康経営優良法人の認定のための必須項目の6項目の全項目、6項目満たすことが必要な選択項目のうちは5項目に〇が付く状態です。本当に、あと一歩ですが、敢えてここで寸止めをお勧めします。もう1項目追加して認定基準を満たしても、従業員の実感はまったくなく、定着していない状況ですので。
第4話 チェックポイント
健康経営をスタートしたら、やたらにプログラムを増やす前に、従業員の意識向上や担当者の任命となる基盤づくりから始める。併せて、継続的改善を図るための基本となる目標設定を行う。
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第5回 働き方とコミュニケーション、従業員の声を活かす、そして評価改善ー
働き方とコミュニケーション
前回、健康経営の基盤となる取組みとして、管理職への説明および従業員への研修と、関連法令の順守が必要であることを説明しました。今回は、健康経営の基盤というより、良い会社の基盤となる働き方とコミュニケーションからスタートします。
健康経営においては、運動、食事など、健康増進プログラムを提供することになりますが、そもそも長時間労働があり、仕事での高いストレスがあるような状況で、健康管理に意識を向け、時間を使うことは不可能に近いことです。効率的な働き方を考え、時間外労働の削減を図る取組みを合わせて行ってください。
もう一つ、健康経営が成果を上げることの背景には、自身の健康というとても個人的なことを職場で一緒に考えることによる信頼関係の醸成があります。それによって、社内コミュニケーションが円滑になり、生産性も上がることが期待できます。日ごろから経営者と従業員および従業員間のコミュニケーション向上を図る努力をしてください。親睦的なイベントやインターネットを活用した情報交換など、何かコミュニケーションを促進するための取組みを追加してもいいかもしれません。
従業員の声を活かす
ここまで行けば、健康経営の基盤的な取組みが行われ、併せて何か一つでも、従業員がより健康でイキイキと働くための施策が実施されている状態ですので、あとはこれを粘り強く続けていくことです。しかし、施策は同じものばかりではなく、時々目先を変える必要があります。また、年齢や性別、体形などによって、取り組みたい健康増進施策は異なっているはずですので、少し、選択肢を増やしたいですね。このような時、経営者がいろいろ考えても結果的に押し付けになる可能性があります。
皆さんの商売でも、顧客のニーズをしっかり把握しないで商品開発したら、まったくの失敗に終わることはありますね。健康経営の施策でも同じで、従業員の声を聴き、ニーズに合わせて機会を提供することがとても重要です。
すでに任命した健康経営担当者に従業員の声を集めていただいてもいいでしょう。月に1回ほど健康経営推進会議(50名以上の職場では衛生委員会を兼ねる)を開催し、意見を聞いてみたらどうでしょうか。健康経営が進展すると、経営者であるあなたが表にでなくても、健康経営担当者と従業員の皆さんの間で、いろいろな取組みを企画するようになるはずです。経営者の役割は、その取組みを承認し、少しばかりの投資をしていただくだけです。この投資も、本当に成功している会社の経営者は、健康経営の成果の中で“吸収できる”と言っています。
社員が病気になったら
健康経営の取組みを積極的にしていても、徐々に高齢化しているため、従業員が病気で入院することもあります。病気もがんや心筋梗塞などの身体の病気から、メンタルヘルス不調などの心の病気までがいろいろなものがあります。多くの病気では、治療によって回復して、もう一度、仕事に戻ろうとすることになります。長く休んだ後ですから、最初からフルスロットルで働くことは難しいですし、しばらくは治療を継続することが一般的です。職場でできることには、本人の話を聞き、場合によって主治医の意見を本人経由で取り寄せ、仕事を継続する上で必要なサポートを提供することがあります。これを「治療と仕事の両立支援」と呼びます。就業規則を超えてまで配慮を求めるものではありませんが、そのような対応を取りやすいように、職場のルールを定めておくといいですね。このようなことは、社会保険労務士に相談してもいいでしょう。いずれにしても、このようなサポートの様子は、周りの従業員も自分が病気になったときにどのように扱われるかという視点で気にしているでしょう。適切な対応は、多くの従業員の安心ややる気に繋がるはずです。
産業医選任の必要がない規模の事業場でも、健康診断の結果に基づいて仕事の制限の要否について医師の意見を聞いたり、長時間労働が発生した場合の医師の面接指導を行ったりすることは法令上の義務になっています。そのため、相談できる医師を確保しておくことはとても重要なことです。知り合いの先生、かかりつけの先生でもいいので、お願いしてみたらどうでしょうか。
そして、評価改善
健康経営では、毎年、目標を決めて、その達成度を評価することが必要で、目標の設定に関しては、前回に触れました。その際、数値目標をつくることによって、目標の達成、非達成が分かることがとても大切であることも説明しました。目標が達成できなかったら、なぜ達成できなかったか改善策を検討するきっかけになりますし、達成できたとしたら、もっと高い目標を設定したり、プログラムを増やしたいという意欲に繋がるためです。
いずれにしても、毎年、時期を決めて、その年のプログラムの達成度、初年度と同じように自社の健康課題の確認、そして従業員からの要望を合わせて検討して、翌年の計画と目標を作ってください。健康経営は1年では達成できません。このように継続的に改善することによって、健康経営が会社に定着し、健康文化が徐々に醸成されていくことになります。
最後に
ここまでの内容は、取組みをスタートすることはできても、1年で定着させることはとても難しいでしょう。でも3年をかければ、従業員の健康意識は変わり、職場内もにぎやかになってくるのではないでしょうか。
この段階で、健康経営優良法人の認定のための必須項目の6項目の全項目、6項目満たすことが必要な選択項目のうち、7~8項目に〇が付く状態になっているのではないでしょうか。そうです。立派な健康経営優良法人です。現在の取組みがこれからも続けられそうと感じたら、ぜひ、健康経営優良法人に申請してみてください。きっと朗報が届くはずです。ただし、健康経営の本当の価値が出てくるのは、これからです。
第5話 チェックポイント
もう一つの基盤として、従業員の働き方を見直し、コミュニケーションを活性化するための取組みを行う。また、従業員の声を吸い上げる場も作る。これらの基盤のもと、毎年目標を立て、評価し、改善を繰り返すことが定着できれば、健康経営優良法人として申請する。
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【最終回】第6回 経営者としての実感、従業員の実感、外部への発信、より高いレベルを目指す!
実感値が大切な中小企業の健康経営の成果
前回までの取組みが定着することによって、十分に健康経営優良法人の認定を受けられるレベルに到達しています。しかし、健康経営の本当の成果を享受するためには、「健康経営優良法人への道」の前に“本気の”が付いている必要があります。このことは、初回にお話ししました。本連載の最終回になって、いよいよ“本気の”健康経営の成果が表れます。
健康経営では、取組みの成果を評価して、その結果に基づいて改善を図ることがとても大切です。大企業では、このような評価は数値化することが求められます。しかし、中小企業の場合には、従業員数が少ないため数値化の効果は限られており、むしろ経営者や健康経営担当者と一人ひとりの従業員との間で顔が見える関係ですので、実感値がとても大切に思います。
(1) 従業員間の関係にみられる成果
健康経営に取組み始める前、開始して1年経過したとき、そして今と比較して、職場で従業員が健康を話題にすることはどれくらい増えたでしょうか。自分の病気や体調の話でもいいですし、最近、ニュースで見たり、雑誌で読んだりした健康管理の話でもいいでしょう。健康診断や健康経営のプログラムに、従業員の皆さんはどれくらい自主的に参加をしているでしょうか。健康診断で治療が必要と言われた従業員は、催促しなくても、自主的に受診しているようでしょうか。もちろん、全員が一度にという話にはなりません。しかし、このような行動を取れる従業員が大多数を占めればあとは時間の問題です。
そもそも職場で自分の健康の話をしたり、子供のころの通知表のように健康診断の結果を見せ合ったりする職場は、プライバシーという域を超え、高い信頼関係で結ばれている職場のように思いませんか。これは、健康という話だけでなく、仕事でも同じで、お互いに信頼して、アイデアを出し合って仕事をするようになっています。
(2) 経営者と従業員の関係にみられる成果
健康経営では、従業員の声を聴きながら計画を作っていくことが重要であることは、前回に触れました。従業員の健康のための取組みですから、その当事者である従業員の参加なしに取組みを進めることは考えられないことです。お客さんの声を聴かなければ商売が成り立たないのと同じです。
従業員にとっても、仕事に関する意見を上げることは躊躇しても、健康経営の話なら提案しやすいかもしれません。そのように上がってきた提案について、従業員に長く健康で、イキイキと働いてほしいと考えている経営者は、その声に真剣に耳を傾けるしょう。経営者が自分たちの健康を真剣に考えていることが従業員に伝わることは、経営者と従業員の信頼関係の向上に繋がります。仕事面でも、よい提案を上げようという気になりますし、長く健康でいようという行動に結びつくはずです。そして、「この会社で働いていてよかった」、「知人にもこの会社を紹介したい」といった気持ちで働く従業員が増えるのです。
(3) 顧客との関係にみられる成果
健康経営に成功している会社を訪ねると、例外なく、訪問者である私たちに対して、すべての従業員がとても親切で、笑顔で挨拶してくれます。自分の会社に満足している従業員、誇りを感じている従業員は、当然のことながら、顧客の満足を上げようとする意識が芽生えることが多いと言われています。いわゆるES(従業員満足)がCS(顧客満足)の向上に繋がるということです。
(4) 総合的な成果
健康経営の展開によって、健康施策への参加者が増え、従業員の意識が向上し、生活習慣が改善する。そして、その結果、病気で休んだり、体調不良のまま仕事に出てくる従業員が減少するというのが、健康面の成果です。しかし、それだけではありません。ここまで説明してきたように、同時に、従業員間の相互の信頼関係が高まり、自分のアイデアを率先して提案する行動が芽生え、さらに顧客にもできるだけ満足してほしいという行動を取るようになる。また、知人にも自分の会社を紹介するといったような変化が生じます。これらは、経営上は極めて重要な健康経営の成果と思いませんか。このような効果は、健康面の成果より、早くでるものもあるのです。
外部への発信
健康経営優良法人が取得でき、従業員の健康意識、信頼関係が変化してきたという自覚が出てきたら、次は、外部への発信に心掛けることです。別に会社の宣伝をしろといっているのではありません。この事実を伝えることによって、会社がより大きく健康経営に取り組むきっかけになり、世の中が健康で、幸せになることに貢献できるからです。
外部発信の方法の基本は、会社のホームページへの掲載です。健康経営は経営の一部として実施しているものですし、いわゆるESG経営の重要な要素ですので、自信をもって発信してください。内容は、経営者としてどのような想いで始めたのか、どのような取組みをしているか、従業員はどのように思っているのか、経営者として健康経営に取ん組んだ実感はどのようなものか、といった文章で表現したものでも構いません。健診受診率の向上や喫煙率の低下などの目に見える成果があれば、そのグラフを載せてもいいでしょう。いずれも、ここまで取組んできたことですから、難しくないと思いませんか。
そうこうしているうちに、地域のミニコミ誌のインタビューに答えて自社の取組みを紹介する機会がくるかもしれません。また、商工会などから講演の依頼が来るかもしれません。そのような時は、絶対に断ってはいけません。喜んで受けましょう。その宣伝効果は、金額に換算すると相当に大きいものです。そこまで行けば、地域で有名な、皆が働いてみたいと思うような会社、採用するためにほとんどお金をかける必要がない会社になっているはずです。
最後に
このような成果を聞いて、「うちの経営にはそのような成果は要らない」と思われた経営者は、健康経営は要らないでしょう。「本当にそんな素晴らしい成果が健康経営で生じるのか」と半信半疑の方は、ぜひ騙されたと思って、3年間、真剣に健康経営を行ってみてください。
健康経営に本当に成功している会社では、新型コロナウイルス感染症のさなかでも、従業員が感染予防の行動を取るだけでなく、率先して顧客を守るためにも様々なアイデアを出し、取り組んでいます。もし、そこに相談できる医療・保健専門職がいれば、そのことに科学的な根拠が追加にされ、極めて高いレベルの取組みをされています。必ずしもお金をかけずに。
全6回の連載に付き合っていただいた皆さん。ぜひ、“本気の”健康経営優良法人への道を歩んでみませんか。経営者がその気になれば、決して難しいことではありませんし、経営者が本気でなければ、従業員が長く元気にイキイキと働ける環境を作ることは不可能だからです。
第6話 チェックポイント
中小企業では、従業員の実感や経営者の実感を大切にした健康経営の成果を評価しましょう。その成果が高まっていれば、すなわち大きな経営の成果を得ていることになります。そして、外部への発信を積極的に行いましょう。外から声がかかるようになれば、その時、御社は、地域で有名な、皆が働いてみたい会社になっているはずです。すべては、従業員に長く元気にイキイキと働いてほしいという経営者の想いが源です。 |

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