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第5回 働き方とコミュニケーション、従業員の声を活かす、そして評価改善ー

【本文】

第5回 働き方とコミュニケーション、従業員の声を活かす、そして評価改善ー

【執筆:森 晃爾(もり こうじ)先生】産業医科大学 産業生態科学研究所 産業保健経営学研究室 教授

働き方とコミュニケーション

前回、健康経営の基盤となる取組みとして、管理職への説明および従業員への研修と、関連法令の順守が必要であることを説明しました。今回は、健康経営の基盤というより、良い会社の基盤となる働き方とコミュニケーションからスタートします。

健康経営においては、運動、食事など、健康増進プログラムを提供することになりますが、そもそも長時間労働があり、仕事での高いストレスがあるような状況で、健康管理に意識を向け、時間を使うことは不可能に近いことです。効率的な働き方を考え、時間外労働の削減を図る取組みを合わせて行ってください。

もう一つ、健康経営が成果を上げることの背景には、自身の健康というとても個人的なことを職場で一緒に考えることによる信頼関係の醸成があります。それによって、社内コミュニケーションが円滑になり、生産性も上がることが期待できます。日ごろから経営者と従業員および従業員間のコミュニケーション向上を図る努力をしてください。親睦的なイベントやインターネットを活用した情報交換など、何かコミュニケーションを促進するための取組みを追加してもいいかもしれません。

従業員の声を活かす

ここまで行けば、健康経営の基盤的な取組みが行われ、併せて何か一つでも、従業員がより健康でイキイキと働くための施策が実施されている状態ですので、あとはこれを粘り強く続けていくことです。しかし、施策は同じものばかりではなく、時々目先を変える必要があります。また、年齢や性別、体形などによって、取り組みたい健康増進施策は異なっているはずですので、少し、選択肢を増やしたいですね。このような時、経営者がいろいろ考えても結果的に押し付けになる可能性があります。

皆さんの商売でも、顧客のニーズをしっかり把握しないで商品開発したら、まったくの失敗に終わることはありますね。健康経営の施策でも同じで、従業員の声を聴き、ニーズに合わせて機会を提供することがとても重要です。

すでに任命した健康経営担当者に従業員の声を集めていただいてもいいでしょう。月に1回ほど健康経営推進会議(50名以上の職場では衛生委員会を兼ねる)を開催し、意見を聞いてみたらどうでしょうか。健康経営が進展すると、経営者であるあなたが表にでなくても、健康経営担当者と従業員の皆さんの間で、いろいろな取組みを企画するようになるはずです。経営者の役割は、その取組みを承認し、少しばかりの投資をしていただくだけです。この投資も、本当に成功している会社の経営者は、健康経営の成果の中で“吸収できる”と言っています。

社員が病気になったら

健康経営の取組みを積極的にしていても、徐々に高齢化しているため、従業員が病気で入院することもあります。病気もがんや心筋梗塞などの身体の病気から、メンタルヘルス不調などの心の病気までがいろいろなものがあります。多くの病気では、治療によって回復して、もう一度、仕事に戻ろうとすることになります。長く休んだ後ですから、最初からフルスロットルで働くことは難しいですし、しばらくは治療を継続することが一般的です。職場でできることには、本人の話を聞き、場合によって主治医の意見を本人経由で取り寄せ、仕事を継続する上で必要なサポートを提供することがあります。これを「治療と仕事の両立支援」と呼びます。就業規則を超えてまで配慮を求めるものではありませんが、そのような対応を取りやすいように、職場のルールを定めておくといいですね。このようなことは、社会保険労務士に相談してもいいでしょう。いずれにしても、このようなサポートの様子は、周りの従業員も自分が病気になったときにどのように扱われるかという視点で気にしているでしょう。適切な対応は、多くの従業員の安心ややる気に繋がるはずです。

産業医選任の必要がない規模の事業場でも、健康診断の結果に基づいて仕事の制限の要否について医師の意見を聞いたり、長時間労働が発生した場合の医師の面接指導を行ったりすることは法令上の義務になっています。そのため、相談できる医師を確保しておくことはとても重要なことです。知り合いの先生、かかりつけの先生でもいいので、お願いしてみたらどうでしょうか。

そして、評価改善

健康経営では、毎年、目標を決めて、その達成度を評価することが必要で、目標の設定に関しては、前回に触れました。その際、数値目標をつくることによって、目標の達成、非達成が分かることがとても大切であることも説明しました。目標が達成できなかったら、なぜ達成できなかったか改善策を検討するきっかけになりますし、達成できたとしたら、もっと高い目標を設定したり、プログラムを増やしたいという意欲に繋がるためです。

いずれにしても、毎年、時期を決めて、その年のプログラムの達成度、初年度と同じように自社の健康課題の確認、そして従業員からの要望を合わせて検討して、翌年の計画と目標を作ってください。健康経営は1年では達成できません。このように継続的に改善することによって、健康経営が会社に定着し、健康文化が徐々に醸成されていくことになります。

最後に

ここまでの内容は、取組みをスタートすることはできても、1年で定着させることはとても難しいでしょう。でも3年をかければ、従業員の健康意識は変わり、職場内もにぎやかになってくるのではないでしょうか。
この段階で、健康経営優良法人の認定のための必須項目の6項目の全項目、6項目満たすことが必要な選択項目のうち、7~8項目に〇が付く状態になっているのではないでしょうか。そうです。立派な健康経営優良法人です。現在の取組みがこれからも続けられそうと感じたら、ぜひ、健康経営優良法人に申請してみてください。きっと朗報が届くはずです。ただし、健康経営の本当の価値が出てくるのは、これからです。


第5話 チェックポイント

もう一つの基盤として、従業員の働き方を見直し、コミュニケーションを活性化するための取組みを行う。また、従業員の声を吸い上げる場も作る。これらの基盤のもと、毎年目標を立て、評価し、改善を繰り返すことが定着できれば、健康経営優良法人として申請する。