H1

第3回 自社の課題を知り、協会けんぽの宣言事業に参加。できることから始める。

【本文】

第3回 自社の課題を知り、協会けんぽの宣言事業に参加。できることから始める

【執筆:森 晃爾(もり こうじ)先生】産業医科大学 産業生態科学研究所 産業保健経営学研究室 教授

宣言の前に、自社の健康課題を知ろう!

健康経営優良法人を取得するためには、一定の要件を満たさないといけないのですが、それは後にとっておいて、まずは自社の状況に合ったことから始めることが重要です。「皆さんの会社には、どのような従業員の健康課題がありますか?」と質問されたとき、すぐに答えが頭に浮かびますか?当然ですが、まずや自社の従業員の健康課題について理解する必要があります。

会社特有の従業員の健康課題を考える際、仕事の要因と従業員構成の要因に分けてみるとわかりやすくなります。

仕事の要因とは、例えば、重たいものを持ち運ぶ必要がある仕事があるとか、パソコンの前に座ったままの仕事があるとか、車を使っての営業のためほとんど歩くことがないとかです。また、接客を伴う仕事もありますか。それぞれに典型的な健康課題が浮かびます。職場の立地も重要な要因かもしれません。駅から離れた立地の場合にはほとんどの人が自家用車での通勤ですし、都市部で地下鉄の駅から近い場合にはほとんどの人が公共交通機関を使ったりします。それによって、1日の歩数も違いますし、新型コロナウイルスへの感染リスクも違いますね。

従業員構成の要因とは、平均年齢が高いとか、女性が多いとか、といった要因です。

従業員数の多い大企業ではデータを分析して課題を抽出することが必要ですが、中小企業の場合には必ずしもそれは必要ないでしょう。それでも、喫煙率、朝食欠食率などの生活習慣とか、健康診断の結果で糖尿病が指摘されている人の数とか、最近従業員が長期欠勤した病気といった情報はわかりますか。健康診断の結果や長期欠勤した場合に提出された診断書で分かることです。これらは法令に基づくものか、正式に本人から会社に提出されたものですので、正当な目的のためなら事業主が利用しても、何等か差し支えありません。

これらの情報を並べると従業員がイキイキと働くために、10年後も会社の生産性を維持するために、どのような健康課題があるのか、容易に列挙することができるはずです。その中から、3つほど、特に取り組みたいこと、取り組めそうなことを見つけてください。

 

健康経営宣言を出す!

健康経営の第一歩は、経営者として健康経営に取り組むことの宣言を出すことです。

この記事を読まれている経営者の多くの会社が全国健康保険協会(いわゆる協会けんぽ)に加入していると思います。ぜひ、協会けんぽの健康経営宣言事業を活用しましょう。協会けんぽではない場合には、それぞれの医療保険者(健保)に相談してみてください。何らかのコラボヘルス事業を行っていると思います。

中小企業の場合、健康経営といっても専門的な知識に不安があるとお考えではないでしょうか。そのようなときに、事業主と医療保険者が連携して、従業員の健康増進に取り組むことをコラボヘルスと呼び、国が推奨しています。それを受けて、協会けんぽの各支部が、「健康経営宣言」事業を展開しています。都道府県支部ごとに違いはあるようですが、この事業に参加すると、協会けんぽから実践のためのいろいろな支援を受けることできます。また、金融機関から金利優遇が受けられることもあります。所属する支部に連絡して、参加申請を行ってください。

健康経営宣言を行う際には、健康経営に取り組むという宣言だけでなく、どのような取組を行うかの簡単なプランも必要になります。すでに挙げていただいた、特に取り組みたいこと、取り組めそうなことから、一つでも、二つでも具体的なプランを作ってみてください。
できれば、従業員の多くが「社長は私たちの健康を気遣ってくれているんだ」と、わかるようなものがいいかもしれません。

少しはお金も使ってください。たとえば、弁当業者にいつもの弁当より少し高いヘルシー弁当を依頼して、その差額分を会社が持ってあげて利用を促進するなどです。協会けんぽがプラン作りを支援してくれます。また、健康診断の結果も、協会けんぽに提供してください。40歳以上でメタボリック症候群(いわゆるメタボ)と診断されるような場合には、保健指導(特定保健指導)を提供してくれます。その際は、保健指導は20分~30分ですので、就業時間中に受けられるようにするなど、配慮をしてあげてください。

確実にしてほしいこと!

一つだけ、確実に行ってほしいことがあります。日本では、労働安全衛生法で健康診断の実施が義務付けられているので、従業員の皆さんは毎年1回または2回(深夜勤務がある場合など)の受診をされていると思います。もし受診していない従業員がいたら、必ず受診させてください。病院でいつも持病の検査を受けているからといったことは理由になりません。

もし、どうしても受けたくないのであれば、法定の健康診断の結果と同じ内容を医師の診断付きで提出させてください。

言わずもがなですが、経営者自身が受診していなければ話になりません。従業員には示しがつきませんし、何よりも最も重要な経営資源は経営者自身の健康なのですから。

次に、健康診断結果の活用です。当たり前のことですが、健康診断は受けただけでは誰も健康にはなりません。結果に基づき、必要な行動を取るかが重要です。少し運動しようとか、塩分を控えようとか、それぞれで努力していただければいいのですが、確実に会社として行ってほしいことがあります。それは、治療や精密検査のために受診が必要と言われた人が、確実に受診しているか把握することです。もし、放置しているようであれば、受診するように指導してください。

「こんなことは個人の問題」と思ってはいけません。法律に基づく健康診断は、従業員が「働いてもいい健康状態か」を確認するためにあるものです。当然、治療が必要なのに受診をしていないことは、そのまま働いていいのか、とても不安な状態です。

従業員にも、働ける十分な健康状態を維持する義務があります。経営者としての責任を果たすためにも、従業員に最低限の責任を果たさせるためにも、健康経営宣言を出した会社として、“治療が必要なのに放置しているといった状態”をゼロにすることをまず達成してください

最後に

いよいよ健康経営が始まります。健康経営宣言を出しても、何も変わらなければ、経営者が本気ではないことが従業員にすぐに伝わります。そうならないためにも、粘り強く従業員の意識を変えていく必要があります。

認定を取得するための健康経営ではありませんが、それでも健康経営優良法人の認定は気になるところです。ここまでの取組みで、おそらく必須項目の6項目のうち2項目、6項目満たすことが必要な選択項目のうちは4項目に〇が付く状態です。

第3話 チェックポイント
  
自社の従業員の健康課題を理解し、協会けんぽの健康経営宣言事業を活用して、宣言をし、プランを立て、健康経営を実行に移すその際、健康診断で治療や精密検査が必要と言われた従業員が、その指導を放置していないかを必ず確認する。