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専門家が伝えるメンタルヘルス対策「もっと聞きたいメンタルヘルス」上級編

 「いまさら聞けないメンタルヘルス」の入門編・初級編・中級編に続く新コンテンツ、専門家が伝えるメンタルヘルス対策〈上級編〉『もっと聞きたいメンタルヘルス』9回目をお届けします。

 メンタルヘルスケア・健康経営に取り組んではいるものの効果が上がらない、うまく取り組めていないなどの実務的な問題や課題解決に向けて、社会保険労務士・産業医・大学教授・中小企業診断士などの専門家がそれぞれの立場からアドバイスいたします。

 毎月10日(予定)に計9回のシリーズで掲載します。

第9回

人材マネジメントと利益とメンタルヘルスの関係

大井川友洋 先生
執筆 : 大山 祐史(おおやま ゆうじ)先生
アドバンマネジ 代表コンサルタント
中小企業診断士

1.人的資源の不足と中小企業のメンタルヘルス

 近年の企業経営を取り巻く環境を見ると、天然資源や自然環境といった広い意味での経営資源の有限性が指摘されることが多くなってきたことに加えて、人的資源の有限性(つまり労働力不足)という制約を強く感じる状況になってきています。特に中小企業では人手不足感が強まっており「労働需要の高まりに対して、労働供給が完全には追いついていないため、中小企業を中心に人手不足感はバブル期並みの水準となっている。」(内閣府マンスリー・トピックス No.052)とまで言われています。

 中小企業の共通課題として「人材確保」という問題が浮上してきたわけで、当然人事部門としては求人・採用活動に力を入れざるを得ない状況となっています。とはいえ、人事部門には採用活動以外にも、教育や人事考課・処遇、勤怠管理や給与計算などやらなければいけない仕事が山積しています。今春改正される労働法、いわゆる働き方改革関連法への対応も念頭に置かねばなりません。そのような中で、従業員のメンタルヘルス問題への対応策を決めて実施するなどといったことは、なんだか余計な仕事を増やすことになり、働き方改革にも逆行するような気がして、優先順位の低い雑用のひとつととらえられてしまいがちです。

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2.企業とヒトとのかかわり方の変化

 企業経営の成否は、もともと「ヒトを上手く使う技術」の巧拙に左右される度合いが大きいものでした。ヒトを上手く使うための管理手法は、古くから「人事・労務管理」などと呼ばれ、体系化され活用されています。この「人事・労務管理」は、評価と処遇(賃金や労働時間、昇進・昇格など)及び労使関係の調整を主な機能とするものでした。すべての従業員をひとつのかたまり(集団)として扱い、格差のできにくい均質な関係性を構築することで、企業と従業員全体の調和を図っていたのです。

 ところが、ビジネスの領域が広がり製品もヒトも国境の壁を越えて多様な価値観に対応するようになった今日では、企業はヒトとの関わり方に対しても多様な対応を迫られるようになってきています。従来通り従業員集団に対して一律な処遇を提供するだけでは、「ヒトを上手く使う」ことができにくくなってきたわけです。このことが経営効率の向上を妨げ、従業員や経営者のメンタルヘルスに悪い影響を及ぼしていることは想像に難くありません。

 現在、中小企業でメンタルヘルスに関する問題が多く生じていることは、ヒトを上手く使うことが難しくなっている上に慢性的な人手不足に見舞われている、という問題点に対して、従来型の人事・労務管理手法だけでは十分な対処ができていないことを示す症状の一つであると言うことができるのです。

3.事業活動と人事機能の進化

 企業はその事業活動によって、顧客・社員・出資者(株主)の三者に便益をもたらします。顧客に対する便益は製品やサービスの機能や品質によってもたらされますが、社員と出資者が受け取る便益は主に現金です。その現金の元は事業活動による利益ですから、企業の事業活動は利益の最大化を目的として行われていると言って差し支えありません。

 近年では、このような事業活動の目的(=利益の最大化)のための人的資源(=従業員)に対するあらゆる働きかけのことを、「人材マネジメント」と呼ぶようになっています。

〈 人材マネジメントの機能 〉

 従業員に対する「あらゆる働きかけ」ですから、これには従来型人事・労務管理が行ってきた
● 処遇管理 ● 労使関係管理
に加えて、
● 組織理念 ● 従業員満足(ES) ● 動機付け ● 組織風土 ● リーダーシップ
などの管理項目を含むようになりました。

 人材マネジメントの目的は、大きく二つに分けて考えることができます。一つは経営者の視点からの管理目的である「人材の最大活用」です。これは労働生産性や労働分配率と言った財務的な指標で可視化することが可能です。

 もう一つは人間視点で見た目的となる「従業員満足(ES)の向上」です。仕事のやりがいや喜び、組織への愛着、といったものを増加させ、従業員から主体的な貢献意欲を引き出す、といったことを目的とするものです。ES を向上させることによって、品質やサービスの価値や品質を向上させることができ、そのことが CS(顧客満足)につながるという考え方です。ここでは、ES の向上は組織目的そのものであると同時に、先に述べた「人材の最大活用」という経営者視点からの組織目的を達成する手段としても働くことに注目してください。

〈 人材マネジメントにおける制度の例 〉

 このような人材マネジメントの機能を人事部門の重要な機能ととらえ、それを最適化し、組織の機能が高まるような諸制度を構築して運用することが、企業のメンタルヘルス対策として有効であると考えられます。

 組織の機能とはヒトを上手く使うための機能であり、この機能が高まることは組織の効率化につながります。これは、「儲かる会社になる」ということでもあります。人材マネジメントの仕組みを改善し続けることで、企業の業績にもメンタルヘルスにもプラスの効果が期待できるのです。

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