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専門家が伝えるメンタルヘルス対策「もっと聞きたいメンタルヘルス」上級編

 「いまさら聞けないメンタルヘルス」の入門編・初級編・中級編に続くコンテンツ、専門家が伝えるメンタルヘルス対策〈上級編〉『もっと聞きたいメンタルヘルス』を計9回のシリーズで掲載します。

 メンタルヘルスケア・健康経営に取り組んではいるものの効果が上がらない、うまく取り組めていないなどの実務的な問題や課題解決に向けて、社会保険労務士・産業医・大学教授・中小企業診断士などの専門家がそれぞれの立場からアドバイスいたします。



 第7回    

「ラインケア」をより効果的に~一次予防「セルフケア」の重要性~

大井川友洋 先生


執筆 : 大井川 友洋
(おおいがわ ともひろ)先生
ダン社会保険労務士事務所 代表
特定社会保険労務士



1.「ラインケア」をより効果的にするために

 メンタルヘルスの4つのケア(「ラインケア」・「セルフケア」・「事業場内産業保健スタッフ等によるケア」・「事業場外資源によるケア」)のうち、日常・職場にてメンタルヘルス対策でとりわけ大きな役割を担うのは「ラインケア」です。ただし、「ラインケア」について、いくら経営者や管理職が積極的に取り組んでも一方的である(一方的であると捉えられる)場合はその効果を最大限に発揮することに限界があります。

 そこで、経営者や管理職が「ラインケア」をより効果的にするために、労働者が「自分の健康は自分で守る」という考え方である「セルフケア」を適切に理解して部下や後輩にアドバイスやフォローをする必要があります。

2.代表的な「セルフケア」で出来ること

 個人が日常生活にて「セルフケア」で出来ることとして、代表的なものは睡眠や食生活、オン・オフの切替などが挙げられます。日常生活が乱れるとメンタルヘルス不調の原因となります。その乱れを予防・改善することは、メンタルヘルス予防に直結します。では、代表的なものを確認して理解しましょう。

睡眠

 睡眠は、心身の疲労回復をもたらすとともに、記憶を定着させる、免疫機能を強化するといった役割ももっています。健やかな睡眠を保つことは、活力ある日常生活につながり、メンタルヘルス不調の予防を含めた健康維持に欠かせないものです。

 睡眠が取れないことで心や体の病気へとつながったり、さらには心や体の病気が睡眠に影響を与えることもあります。「疲れているが、寝つけず睡眠が足りていない」とか「夜中に目が覚めた後、眠れない」という状況は、日々の疲労が取れず蓄積していき、心身の不調につながるリスクとなります。

 そこで、良質な睡眠は元気の源となるため、日頃より以下のようなことに気をつけることが大切です。

良質な睡眠を妨げること
  • ・毎日の起床・就寝時間がバラバラである
  • ・夕食の時間が遅い
  • ・夜遅くまでの飲酒(夕食が遅い場合の晩酌も該当します)
  • ・寝る直前にテレビ、パソコン、スマホを使用する
  • ・夕方以降のカフェイン摂取 など

パソコンやスマホを常時使用することが避けられない
現代の日常生活で難しい部分はありますが、
睡眠に与える影響が大きいことを理解して
意識的にコントロールする努力が必要です。

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食生活

 食生活は、体調を整える基本です。朝・昼・夜と規則正しく食べること、栄養のバランスを考えて摂取することは、体調面をケアし体のリズムを整えてメンタルヘルス予防へとつながります。また、食事を美味しく食べられることも健康維持のバロメーターになるように、食欲の変化(食欲がないや過食)も心や体の病気のサインとなります。

 そこで、食事について日頃より以下のようなことに気をつけることで健康を維持していくことができます。

食事で気をつけること
  • ・3食摂る(特に、朝食を抜かない)
  • ・夜20時以降の食事を控える
  • ・栄養のバランスよく食べる
  • ・よく噛んで食べる
  • ・水分を十分に摂る など

残業による長時間勤務やシフト制による不規則勤務、
人員不足による過剰勤務などにより、食事が適切に取れない・十分な栄養摂取が出来ていないなどのケースが
多く見られます。朝食は必ず食べる、夕食は20時より
前に食べるなど自分自身のルールを作り、
日常のリズムにすることをお勧めします。

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オン・オフの切替

 1日24時間のうち、睡眠時間を除く約3分の2を仕事に費やしています。残りの時間や休日でどのようなオン・オフの切替をするかが、気分転換やリラックス、自己研鑽などのためにとても重要な時間と言えます。運動を取り入れ自らスポーツを楽しむことも、季節の風景や行事を求め旅行に出かけることも、好きなジャンルを決めて映画鑑賞することも効果的なオン・オフの切替です。オフで自ら気持ちが高まる効果があるものはおのずとストレスを軽減する効果もあることでしょう。

 また、必ずしも特定の趣味を持たなくても仕事とプライベートのオン・オフの切替えが出来れば問題ありません。

オン・オフの切替
  • ・仕事を家に持ち帰らない
  • ・切替スイッチを持つ:これをすると切替えられるという行動
     例:音楽を聴く、アロマを使う、○○を食べる、深呼吸をするなど
  • ・没頭できる趣味を持つ
  • ・家族との時間を意識的に作る
  • ・習い事をする など
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3.経営者や管理職からの「セルフケア」アドバイス・フォロー

 日常、職場で部下や後輩をしっかりと観察することで様々な変化が見られます。例えば、疲れている表情をしている、発言・返事に覇気がない、笑顔がなくなった、髪がボサボサ・ヨレヨレのYシャツを着ているなど身だしなみがだらしなくなった、急激に痩せた・太った、会議でうわの空など、これらの様々な変化には個人の日常生活の乱れが影響しているかもしれません。打ち合わせや面談等形式通りのことを行わずとも、職場や出退社時、会議終了時、ランチ、トイレ等で雑談・世間話の中で、睡眠・食生活・オン・オフの切替に関して気軽に話題を振りながらコミュニケーションを図ることで変化に気づくことが出来て、結果的にメンタルヘルス予防につながります。

質問の例

 また、業務時間中に居眠りが多い、集中力があまりに散漫など、気になる点があれば、まずは声をかけ心配している気持ちを伝え、状況を確認し、必要に応じて専門家への相談を促すことも検討しましょう。

 食生活も同様に、お昼を一緒に食べている中で食欲が落ちている様子が伺えたり、急激に痩せてきている(太ってきている)なども観察ポイントとし、気になる点があれば、睡眠同様の対応が大切となります。

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4.「ラインケア」と「セルフケア」の一体化

「ラインケア」を行う経営者や管理職が自らメンタルヘルス不調者になってしまっては元も子もありません。まずは、自分自身のことも「セルフケア」することが必要不可欠です。そうした大前提の下で、基本である「セルフケア」を一人ひとりが強く意識し実践していくことで職場のメンタルヘルス予防効果を上げることが出来るでしょう。また、「セルフケア」を強く意識することは、労働者の自主性も高め、働き方の変革や生産性向上に寄与するものと考えられます。すなわち、大切な従業員の能力アップとなり、結果的に会社にとってより必要な「人財」となり様々な面で能力を発揮することでしょう。これらを行うことは、経営的にはとても些細なことかもしれませんが、労働力不足の社会で会社が健全に継続していくポイントなのかもしれません。

5.まとめ

  • ・「ラインケア」をより効果的にするために「セルフケア」を理解する
  • ・日常生活で気をつける、睡眠、食生活、オン・オフの切替
  • ・経営者や管理職からの「セルフケア」フォローについて
  • ・「セルフケア」の意識づけが企業の生産活動を高める

専門家が伝えるメンタルヘルス対策〈上級編〉『もっと聞きたいメンタルヘルス』

第1回 メンタルヘルス対応マニュアルを作成しましょう 執筆:本山 恭子 先生

第2回 ワーク・エンゲイジメント~従業員がポジティブに働くために~ 執筆:丸田 和賀子 先生

第3回 そもそも、メンタルヘルス不調の原因とは?~原因から対策を考える~ 執筆:茅嶋 康太郎 先生

第4回 働き方改革関連法から見るメンタルヘルス対策 執筆:洞澤 研 先生

第5回 企業における「ラインケア」の重要性 執筆:若林 忠旨 先生

第6回 産業保健師を活用して、元気な職場づくりを! 執筆:錦戸 典子 先生

第7回 「ラインケア」をより効果的に~一次予防「セルフケア」の重要性~ 執筆:大井川 友洋 先生

第8回 非専門職のための不調者対応の基本 執筆:松村 美佳 先生

第9回 人材マネジメントと利益とメンタルヘルスの関係 執筆:大山 祐史 先生
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