「いまさら聞けないメンタルヘルス」の入門編・初級編・中級編に続くコンテンツ、専門家が伝えるメンタルヘルス対策〈上級編〉『もっと聞きたいメンタルヘルス』を計9回のシリーズで掲載します。
メンタルヘルスケア・健康経営に取り組んではいるものの効果が上がらない、うまく取り組めていないなどの実務的な問題や課題解決に向けて、社会保険労務士・産業医・大学教授・中小企業診断士などの専門家がそれぞれの立場からアドバイスいたします。
第1回
会社の中には、従業員のメンタル不調者対応経験は数回あるけれど、マニュアルや復帰プログラムなどは作成していないところもあると思います。決まりがない中、困っていませんか。
例えば、労務担当者が知ったときには、ある従業員が既に何日も欠勤していたが上司などからは何も報告がなかった。または、休職中の従業員が既に復帰していることが分かったなど。
このようなことはどうして起こるのでしょうか。対応ルールがないこと、あるいは、ルールがあっても周知徹底されていないことが、様々な要因の中の1つにあるのではないかと思います。
私は、メンタル不調者対応経験がまったく無いという事業場には、多少でも経験してからの作成をご提案しています。ひな形を参考にしたみよう見まねのマニュアル作成は、その後の実務対応のときに、実態になじまなくて使えないこともあり得るためです。
しかし、いつまでも流れだけに任せていては、経験値が蓄積されませんし、同じ失敗を繰り返してしまうかもしれません。休職者によって対応が変わるリスクもはらみますから、数例経験した段階でのマニュアル作成をお勧めします。マニュアル作成により、対応事項等が明確になることに加え、必要に応じて改訂してより良いものにすることも可能ですし、担当替えの場合でもそれまでの経験値が残ります。
マニュアルも大きく分けて2つあるのではないかと思います。 1つは職場復帰に関するマニュアル。厚労省が示しているいわゆる「職場復帰プログラム」です。
もう1つは、不調等の申出方法や相談方法、それ以降の対応マニュアルです。こちらは、厚労省から具体的な手引きは出ていませんが、その必要性については認識されています。 (「メンタルヘルス教育研修担当者養成研修テキスト P28」こころの耳 HP より)
1つ目の職場復帰マニュアルは、職場復帰支援の流れとして、厚生労働省が出している「改訂 心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」の図が示すように(図1)、第5ステップまでの道のりが示されています。それぞれのステップは図のとおりです。今までの実務対応では、このステップに沿って行っていたでしょうか。どのようなことがうまくいき、どのようなことで反省したでしょうか。
手引きには実行すべき事項の記載はありますが、どのように誰が実行するのか具体的なことまでは書かれていません。各事業所において、事情を検討し、これまでの経験を活かして、自分たちで決定します。決めるときのポイントは「具体的」に「分かりやすく」です。
手例を挙げますと、以下のような事項を決めて周知することで、担当者は勿論、休職する方の不安の低減にも役立つと思います。
産業医にいつ、どこでどのような形で関わってもらうのかも、あらかじめ決めておく必要があります。 そのためにも産業医にも作成時にアドバイスを貰いましょう。医師の視点もとても重要です。
2つ目は日常的メンタルヘルス対応マニュアルで、「具体的」な流れ、「関わる人」を示すものです。 事案によって、必要な措置は違うかもしれませんが、相談の流れや窓口は定めることが可能です。 例えば次のようなものです。
ルール作成には、従業員の方の労働条件や退職など重要事項も含むため、場合によっては労働基準法や裁判例などからも検討する必要もあるでしょう。そのときには、産業保健総合支援センターや社労士等の外部の専門家のアドバイスを貰うことも有益です。
作成したら周知徹底をお願いします。せっかく作ったものも、従業員に示されなければ、何もないのと同じようなものです。適切な情報が伝達され従業員の支援に繋げるために、マニュアルを作成したら、従業員説明会を定期的に開催するなどして、従業員に周知していきましょう
第1回 メンタルヘルス対応マニュアルを作成しましょう 執筆:本山 恭子 先生 第2回 ワーク・エンゲイジメント~従業員がポジティブに働くために~ 執筆:丸田 和賀子 先生 第3回 そもそも、メンタルヘルス不調の原因とは?~原因から対策を考える~ 執筆:茅嶋 康太郎 先生 第4回 働き方改革関連法から見るメンタルヘルス対策 執筆:洞澤 研 先生 第5回 企業における「ラインケア」の重要性 執筆:若林 忠旨 先生 第6回 産業保健師を活用して、元気な職場づくりを! 執筆:錦戸 典子 先生 第7回 「ラインケア」をより効果的に~一次予防「セルフケア」の重要性~ 執筆:大井川 友洋 先生 第8回 非専門職のための不調者対応の基本 執筆:松村 美佳 先生 第9回 人材マネジメントと利益とメンタルヘルスの関係 執筆:大山 祐史 先生