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専門家が伝えるメンタルヘルス対策「もっと聞きたいメンタルヘルス」上級編

 「いまさら聞けないメンタルヘルス」の入門編・初級編・中級編に続くコンテンツ、専門家が伝えるメンタルヘルス対策〈上級編〉『もっと聞きたいメンタルヘルス』を計9回のシリーズで掲載します。

 メンタルヘルスケア・健康経営に取り組んではいるものの効果が上がらない、うまく取り組めていないなどの実務的な問題や課題解決に向けて、社会保険労務士・産業医・大学教授・中小企業診断士などの専門家がそれぞれの立場からアドバイスいたします。



 第3回    

そもそも、メンタルヘルス不調の原因とは?~原因から対策を考える~

茅嶋康太郎 先生
 
執筆 : 茅嶋 康太郎
(かやしま こうたろう)先生
株式会社ボーディ・ヘルスケアサポート代表取締役
医学博士


1. うつ病とは

 うつ病とは、精神的な消耗によって脳がエネルギー切れを起こした状態です。脳の機能が低下し、抑うつ(憂うつな気分)、意欲が出ない、考えがまとまらない、不安感などの症状が出ます。エネルギー源であるノルアドレナリンやセロトニンなどの神経伝達物質の欠乏状態が起きることにより、これらの症状が出ると考えられています。 私たちは日常生活、社会生活において、常に精神的な消耗と回復を繰り返しています。ストレスにより消耗し、睡眠やリラックスにより回復する。この消耗に回復が間に合わず、赤字→不良債権になると破綻して発病するのです。

うつ病の説明

2.疲労の種類

職場におけるメンタルヘルス不調は「過労」とも大きく関係しています。
働きすぎで「疲労」が蓄積し、回復しないまま消耗するのです。
疲労の種類には3つあると考えられ、

  1. 1肉体労働などによる「身体的疲労」
  2. 2仕事や人間関係によるストレス(気疲れ)による「精神的疲労」
  3. 3長時間の単純入力作業や資料作りなどの脳を使い続けることによる「脳疲労」

に分けるとわかりやすいかと思います。
実際のメンタルヘルス不調はこれらの3つの疲労要因が入り混じり、それらが蓄積し、消耗し、発症します。

3. 過労やメンタル不調になる職場での主な三つの原因は

  • 長時間労働~仕事の量が多い、仕事の質が大変(重い)
  • 人間関係の問題~上司、同僚間、部下、顧客
  • 職務不適応~仕事の内容が変わる・人事異動、管理職への昇進(人の管理が苦手)

これらのいくつかの原因が絡まって消耗し、不調をきたします。

イラスト画像

4. 原因から対策を考える

 原因がわかっているのであれば、本来なら対策は簡単なはずです。仕事の量が多く困難な仕事を抱え、過重労働、長時間労働になっているのであれば業務負担を軽減すれば良い。人間関係の問題であれば、話し合って仲直り、あるいは席を替える、担当を替えるなど手を打つ。仕事の内容が変わり適応できず「適応障害」を起こしているのであれば元の仕事に戻す、管理職になり自分のプレーヤーとしての役割だけでなく、マネージャー的な役割を求められ、それに適応できずに「適応障害」を起こしているのであれば、降格してもとの役職に戻す。でも、現実はそれ程簡単ではありません。限られた人員で多くの業務をこなしているのだから、業務負担軽減なんてできないし、一旦壊れた人間関係は簡単に仲直りなんてできない、担当替えなどしたら他の人に負担がかかる。管理職失格の烙印を押されて降格なんてできない。原因がわかっていながら、こういうジレンマの中で苦しみながら、効果的な手を打てずにギリギリまで頑張り、粘り、耐えるが、ついに破綻して発病する。わかっていても避けられない、そういうケースが多いように思われます。

5. ではどうしたらいいのか

 個々人それぞれがストレスによる消耗を防ぐ工夫をする(働き方を変える)、消耗から回復する方法を工夫する(睡眠、オン・オフの切り替え)、考え方・物の捉え方を変える(仕事へののめり込み、抱え込みをやめる、他人との交流方法の改善)ことによりストレス耐性を高める。これらを「セルフケア」といいます。

 しかし、個人でできる範囲(セルフケア)は限られます。基本的には企業としてのマネジメントの問題であるということを職場全体で意識を共有し、対応して行かなければなりません。これを「ラインケア」と言います。

ポイント
  • 上司の管理能力・性格・考え方で変わる(人的要因)
  • 企業自体の「働かせ方」に対するポリシー(組織的要因)

 人へのストレスのかかり方(何にどのようにストレスがかかるか)、耐性(どれだけガマンできるか)はかなりの個人差があります。管理者・上司は自分を基準にストレスのかけ方、かかり方、業務の振り分けや進捗管理を行いがちですが、部下の成熟段階や能力、得意分野、ストレス耐性の強さに応じた(部下の立場に立って)業務管理・支援を行なっていきましょう。

 適度なストレスはヒトの成長に寄与しますが、過度なストレスは発病につながります。見込みのある部下にチームリーダーを任せた。上司もフォローをしてきたつもりだったが、自分の感覚でのフォロー「結局は自分で乗り越えるしかない!」という気持ちが強かった。部下は適応障害でうつ病を発症。部下曰く「課長は相談に乗ってくれて指導もしてくれるが、自分には無理、できなかった」。指導・フォローした、というプロセスが大事なのではなく、結果的に部下が適応できるようなフォローだったかというアウトプットが出ないと意味がありません。

 労働生産性が高い企業とは「楽しくて楽な会社」ではなく、「適切な人員で最大の収益を上げることができる会社」ではないでしょうか。経営者(管理監督者)としては、人材マネジメントの観点からも、過度な負荷を社員にかけない、壊さないことが大事です。「事例性」と「疾病性」という言葉をよく使います。社員がメンタル不調の兆しを見せ、ミスが増えたり、パフォーマンスが低下、遅刻や欠勤が多くなる、これを「事例性」が出たといいます。ある程度メンタルヘルス対策に通じている企業であれば、事例性が出れば、本人から話を聞いて原因を探り、必要な配慮を行い、未然に発病(「疾病性」の発現)を防ぎます。しかし、多くの企業では「事例性」が出た段階では動けず、原因の調査までは行っても、「他に人がいない」「業務はこなさなければならない」などの理由により「しょうがない」と諦め、必要な措置を実施できずに発病までいってしまいます。

 事例性の時点で動くか、「しょうがない」ということで動かず疾病性の段階になって戦力を「1」減らしてしまうか。これは基本的に企業としてのマネジメントの問題であり、「働かせ方」に対するポリシーの問題です。

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6. まとめ

  • 精神的エネルギーの消耗と回復のバランスに気をつけ、消耗を少なく、回復しやすい環境を作る = 事例性すら発現させない
  • 事例性がでたら即初動。原因を調査、分析し、必要な措置を行う。
  • せめて事例性の時点で対処し、疾病性の発現を防ぐこと。
  • 「しょうがない」ですまさず、粘り強く「どうしたらいいか」を考え、実行すること。   

     

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