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専門家が伝えるメンタルヘルス対策「もっと聞きたいメンタルヘルス」上級編

 「いまさら聞けないメンタルヘルス」の入門編・初級編・中級編に続く新コンテンツ、専門家が伝えるメンタルヘルス対策〈上級編〉『もっと聞きたいメンタルヘルス』をお届けいたします。

 メンタルヘルスケア・健康経営に取り組んではいるものの効果が上がらない、うまく取り組めていないなどの実務的な問題や課題解決に向けて、社会保険労務士・産業医・大学教授・中小企業診断士などの専門家がそれぞれの立場からアドバイスいたします。

 毎月10日(予定)に計9回のシリーズで掲載します。

第6回

産業保健師を活用して、元気な職場づくりを!

錦戸典子 先生
執筆 : 錦戸 典子(にしきど のりこ)先生
東海大学医学部看護学科

 「社員の健康は会社の財産」と言われますが、皆様の職場では社員の健康維持・増進に向けてどのような対策をされていますか? 「健康は自分で守るもの」という考え方もありますが、近年は企業の安全配慮義務を問われる時代、長時間残業やパワハラなどからメンタルヘルス不調の社員を出し、会社が訴えられたケースもあります。会社としても、社員が健康に働ける環境づくりなどの対策をきちんと考える必要があります。

 そうは言っても、経営安定に向けての対策が先決で、健康診断の実施以外はなかなか手が回らない・・、という会社も多いかもしれません。でも、一見遠回りでも、社員の健康・幸福を大切にすることは、元気に働ける人材確保につながり、会社の生産性向上や経営安定につながることが知られています。何をどうすればいいのか、会社として社員の健康対策を検討するには、気軽に相談できる専門職を上手く活用することが効果的です。

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産業保健師を知っていますか?

皆様は、産業保健師という専門職をご存知ですか?
そもそも、保健師とは、看護師の資格保有者が公衆衛生(多くの人の健康)に関する学習をした上で取得できる国家資格で、心や身体が不調になってからだけでなく、不調になる前の予防や健康づくりの支援もします。また、個人だけでなく集団や組織にも働きかけて、健康に生活できる環境づくりの支援を同時に行うことを特徴にしています。

 なかでも産業保健師と称される職場で働く保健師は、社員が健康を崩す要因を見出して不調や病気を予防し、さらに職場組織にも働きかけて、健康で活き活き働ける職場環境やしくみづくりを支援する専門職です。
産業保健師の支援内容としては、①社員個々の健康相談対応と必要時の職場調整支援、②職場ごとに優先度の高い健康課題と健康対策の方向性の助言、③職場として取り組む健康対策の具体的な計画づくりと運用の支援、などがあります。社員の個人情報保護は確保しながら、会社の経営者や人事労務担当者と十分に相談・連携、社員や職場に身近な立場かつ保健医療の専門家として活動し、嘱託産業医がいる会社では産業医に報告・相談しつつ産業医の来社時に面談してもらうと効果的な事例の選別もします。次に、それぞれの具体的な支援事例を挙げます。

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社員への健康相談対応(「両立支援」を含む)

「中途入社してきた30代男性のAさんが、半年過ぎた頃から遅刻や無断欠勤が増え、職場として対応に困っている」というようなケースが良く見られます。このような場合、単に、医療機関の受診を勧めたり、注意など労務管理的な対応をするだけでは、問題の根本的な解決に至らないことが多いのです。何故なら、その状況に陥った経緯が事例ごとに大きく異なり、それぞれの要因への対処をしないと、医療機関の受診・服薬により一時的に症状が治まっても再発する可能性が高いからです。Aさんのケースでも、実は中途入社に加えて遠慮がちな性格のため仕事で困った時に周囲に聞けずにいるうちに顧客からもクレームがきてしまい追い込まれ感が強い・・という背景があるかもしれませんし、あるいは、実は母親が認知症なのか毎晩のように家を出ていこうとして目が離せず疲れ切ってしまった・・という背景があるかもれません。不調になった経緯や原因は個々に異なり、症状も様々です。そのような際には、職場のこともよく知り、信頼関係をきちんと築き本音を引き出す力と、家族の問題を含めた幅広い保健医療知識を持ち、必要時に様々な職種・支援機関につなぐことのできる産業保健師が対応することが効果的です。状況を正確にアセスメントした上で、職場での孤立状況が原因なら本人同意のもと上司や人事にも働きかけて職場内の人間関係を調整する、家族の介護上の悩みが原因なら認知症の相談対応ができる地域の相談窓口を紹介する、など事例ごとに適切なコーディネーションをすることを、保健師は得意としています。このように専門職を適切に活用することで、会社の貴重な人材を失わずにすむとしたら、経営上も大きな価値があるのではないでしょうか?

 メンタルヘルス不調の他にも、がんなどの重篤な病気と診断され長期の治療が必要となるケースも増えています。がんは一生のうちで2人に1人がかかる病気ですので、小規模の会社でもいつか直面することは避けられません。高齢者はもちろん、若い世代でもがんなどの病気に罹ることがあり、離職予防の観点からも、「病気の治療と職業生活の両立支援」は欠かせないものになってきています。ただ、先ほどと同じで、実は状況が様々です。がんに罹患しても部位やステージ(がんの進行度)によっても、治療内容やその副作用は違ってくるので、職場復帰時に必要な配慮内容も変わり、マニュアル通りにはいきません。そんな時に、産業保健師を活用すると、事例に合わせた適切な対応が期待できます。

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職場ごとの健康対策の方向性の助言

B社長から、「わが社は健康診断だけは毎年きちんと受診させてきたが、それ以外は特に何もしていない。何に着手したら良いか見当がつかない」と相談されることもあります。そのような場合には、まず産業保健師は、職場の様子を見せてもらうことと、健康診断や問診票、ストレスチェックなどのデータをもとに社員の話を聞き、データを集計し全国値と比較するなどして会社の特徴を検討します。職場環境や仕事内容、作業方法を知り、データや社員の訴えから多角的に社員の健康状況を分析することで、会社・職場ごとの健康課題が見えてきます。例えば、先ほどのAさんの会社で、Aさん以外にも職務満足度や仕事への意欲が低下している社員が多かった場合には、全社的に社員間のコミュニケーションの活性化を促す機会づくりをする、社員の意見を反映しやすいしくみをつくる、成長の機会として仕事関連の資格取得を進め取得時には褒章を出す、などの対策をとるなども有効かもしれません。いずれにしても、職場ごとの現状のリスクやニーズを見出すために、きちんと情報収集・分析することや、最初はできるだけ低コストでできるものから取り組むなどの方向性を含めて、産業保健師は、会社にとって無理のないところから徐々に対策に取り組めるよう助言します。安心して何でも相談すると良いでしょう。

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具体的な計画づくりと運用の支援(「健康経営」に向けて)

せっかく、方向性のイメージがついたら、小さなことでも実施して、その効果を確認するといいでしょう。例えば、さきほどのチームづくりなど、仕事と関連したところから対策を始める際に、産業保健師にまずはその意義やヒントなどを社員に話してもらってもいいですね。あるいは、産業保健師に社員と面談してもらい、放置していた健康診断の結果や日頃の働き方を振り返り、より健康的に働ける改善プランを社員が各自で考えて実行するのを支援してもらうのもお勧めです。また、目の疲れや腰痛・肩こりなどの訴えが多い職場では、パソコン作業や工場の作業姿勢を見直せるようなポスターやチェックシートを、産業保健師の助言を得ながら社員と一緒に作るのも良いでしょう。産業保健師は、低コストでできる具体的な計画づくりとその運用を支援することができます。これらの対策を中長期的にきちんとたててPDCAサイクルを回していくことができれば、社員の健康度や働きがいは向上し、高い生産性と品質向上を実現してくれるでしょう。会社としても経営安定に向かうことが期待でき、これはまさに経済産業省も推奨している「健康経営」の実践に他なりません。

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産業保健師はどこにいる?

まず、無料で活用できる公的機関としては、各都道府県に1か所ずつ産業保健総合支援センターがあります。ここには、今年度から常勤の保健師が1名採用されており、その他にも相談員として保健師が数名配置されています。また、その地域窓口として、地域産業保健センターが労働基準監督署単位で設置されており、保健師の相談員や保健師資格をもつコーディネーターを置いている地域産業保健センターも増えています。もし、いない場合は連携している産業保健総合支援センターの保健師に回してもらうことも可能です。これらの支援サービスは無料で受けられますが、もともとは会社から労災保険料として国に納めた資金が当てられていますので、是非積極的に活用していただきたいと思います。まず、手始めに、産業保健総合支援センターの保健師に電話あるいはメールして、会社としての対策の進め方を相談することをお勧めします。

 また、協会けんぽや、各種の健康保険組合など、会社として健康保険料を納めた分、活用しないともったいないサービスもあります。保健師による加入事業所や社員(被保険者)への支援としては、特定健康診査(いわゆるメタボ健診)とその後の特定保健指導があります。生活習慣病の予防やハイリスク者への早期指導の意味で、それらの機会を積極的に活用することが望ましいと思います。個別面談する中で、メンタルヘルス不調等の問題が出てきた場合には適切な相談機関の紹介が受けられます。

 さらに、有料ですが、より継続的にしっかりした支援が受けられる方法として、労働衛生機関や開業保健師との契約があります。労働衛生機関には産業医や保健師などの専門職が所属していますので、産業医選任が必要な会社では例えば産業医には月1回、保健師には月2回来てもらうようにすると、健康診断の受診やその後の保健指導だけでなく、様々な角度から会社における「両立支援」や「健康経営」が進むと期待できます。

 これらの産業保健師以外にも、各地域の保健所・保健センターには、保健師が配置されており、地域保健と職域保健の連携の観点から、中小企業の健康支援に関して積極的に支援している自治体も増えていますので、情報収集するといいでしょう。

 今回は、産業保健師の支援を得ながら中小企業での健康対策をどのように進めていくか、という点を中心にお話しました。他の職種(産業医、社会保険労務士)などとは、違う専門性を有しながら、他職種との連携も得意な産業保健師を十分に活用いただくことで、皆さまの会社が今後さらに元気な職場を実現・持続されることを願っています。

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