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専門家が伝えるメンタルヘルス対策「もっと聞きたいメンタルヘルス」上級編

 「いまさら聞けないメンタルヘルス」の入門編・初級編・中級編に続く新コンテンツ、専門家が伝えるメンタルヘルス対策〈上級編〉『もっと聞きたいメンタルヘルス』をお届けいたします。

 メンタルヘルスケア・健康経営に取り組んではいるものの効果が上がらない、うまく取り組めていないなどの実務的な問題や課題解決に向けて、社会保険労務士・産業医・大学教授・中小企業診断士などの専門家がそれぞれの立場からアドバイスいたします。

 毎月10日(予定)に計9回のシリーズで掲載します。

第8回

非専門職のための不調者対応の基本

大井川友洋 先生
執筆 : 松村 美佳(まつむら みか)先生
アデコ株式会社 ピープルバリュー本部
プランニング&オペレーションナルエクセレンス部
安全衛生企画課 産業医

 不調を自覚した時、ケガであれば整形外科、血尿であれば腎臓内科、腹痛であれば消化器科などの病院を受診する人は多いでしょう。

 しかしながら人間の身体は複雑で、必ずしも分かりやすい症状が出るとは限りません。

 そして症状がはっきりしない場合、それが身体疾患によるものなのか精神疾患によるものなのか判断が難しいケースは珍しくありません。

 産業医が常駐していればその判断を委ねる事も可能ですが、多くの職場では簡単に専門職に頼れないというのが現状です。

 そのような職場で不調を訴える方がいて業務に支障をきたす場合、どうすればいいのか。今回は非専門職にもできる医療機関の活用法と社内での対策についてお話ししたいと思います。

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 まず大切なことは、偏見や先入観を持たないことです。

 『いつも不平ばっかり言っているから心の病気に違いない』『あの強い人が心の病気になるはずはない』など、専門家ではない人間が最初から決めつけてしまうと適切な受診の妨げや誤診につながる可能性があります。

 最初は具体的な症状を詳細に聞き、客観的な情報と照らし合わせていきましょう。

 専門の知識もないのに症状を聞いてもいいのかと思うかもしれませんが、これは診断の為ではなく本人に情報を整理してもらう為です。

 身体疾患でも精神疾患でも、診察の基本は問診です。

 受診した患者さんが正確に症状を伝えられることが、正確かつスムーズな診断と治療に繋がります。

どんな症状があったのか / いつ頃からあったのか / 症状が見られた時期に、仕事やプライベートで変化はあったか / 時間や曜日によって差はあるのか

 勤務記録と付き合わせながら質問をしていく事が有効です。不調者の中には自分自身で記録を取っておらず、正確な把握ができていない方も多いからです。

 例えば突発的な休暇が増えた方の場合、それぞれの休暇の状況を聞いていく事で、いつ頃からどの程度不調があったのかを確認することができます。

 遅刻や突発的な休暇がない方でも症状と時間外勤務の関連性を確認することはできますし、自覚していなかった傾向に気付くきっかけにもなります。

 勿論、症状などは個人情報ですから本人が回答を拒否した場合に無理に聞く事は厳禁です。その場合には客観的に勤務状況に変化があったことを伝え、答えなくていいので勤務表を見ながら自分で症状を整理して書き出すよう助言してください。

 一概には言えませんが、不調が始まった時期に長時間労働、ハラスメントなどきっかけがある場合や、わかりやすいきっかけが見当たらなくても曜日によって症状の差がある場合は精神疾患の可能性が高くなります。

 そういったケースでは、面談で整理した情報を正確に伝えるように助言して心の病院の受診を検討するよう伝えてください。

 逆に仕事やプライベートのストレスと相関がなく、平日も休日も同様に症状が見られる場合には身体疾患の可能性が高くなります。まずは総合内科などの診療科を受診し、身体疾患が見つからない時に、その検査結果も持って心の病院を受診するように勧めてください。

 受診先を選ぶ基準の一つとして、一定の経験と技能が保障されている『専門医』のいる病院が安心です。

 心の病院の中には精神科と心療内科があり、どちらを選ぶか悩む方もいると思います。定義としては、心療内科は身体の症状を伴う精神疾患を扱う科です。しかしながら新しい科であり専門医の数は精神科の十分の一しかいませんし、以前はこれらの疾患も精神科で診ていたのが現状です。

 また精神科という言葉に抵抗感を持つ人が多いため、精神科の専門医が心療内科と看板に書いて開業するケースもあります。日本の法律では医師免許があれば、専門医等の資格がなくてもすべての科を看板に書くことができるからです。

 心の病院を選ぶ際には、看板に書かれている科だけではなく診察医の実際の専門性も確認するとよいでしょう。

 ただし病院の受診に関しても、本人が拒否した場合には強要することは難しいのが現状です。特に勤怠に問題がない社員に関しては『健康は本人の問題』と言われてしまえば、打つ手がありません。

 しかしながら、欠勤などの明らかな就業規則違反があればそれを理由に会社として受診を求める事は可能です。

 多くの会社では『理由のない欠勤は認めない』といった文言が就業規則に入っていると思います。この場合には『欠勤の理由が体調不良であるなら、それを公的に証明する為に診断書を取得する』ように求める事で、受診につなげる事が出来ます。

 このように不調時の対応に関しても予め就業規則で定めておくことは非常に大きな効果を発揮します。

 ただし心の病院に繋がっても、適切な医療に繋がらないケースもあります。

 採血等で診断が可能な身体疾患とは異なり、心の病院は本人の訴えや心理検査を根拠に診断を行います。その為、本人が受診に納得しておらず診察室で虚偽の申告をした場合には、実際に精神疾患があっても『病気ではない』と誤診されてしまうのです。

 その為、受診を促す際には『適切な治療で症状が改善する可能性が高い事』や『症状が改善することで、仕事もプライベートもより充実する事』を説明し本人の受診の有用性を納得させる必要があります。

 受診後の流れですが、精神疾患であると診断されると、治療を開始し症状の改善に向けて動き出すことになります。この時、薬による治療と合わせて生活習慣の改善によるセルフケアや環境調整が必要不可欠です。

 薬で症状を抑えても、不規則な睡眠や食生活で脳に負担をかけ続ければ症状を完治させることはできません。

 また、本人が生活改善を心掛けても、交替勤務や過重勤務が続いていては実行することができません。主治医から業務調整の指示が出た場合には、職制と相談して業務配慮を行う事も必要です。

 この時に気を付けなければいけないのは『配慮は回復のための自助努力が前提であり、健康になった後の本人の活躍への投資』であるという事を予め伝える事です。

 何故ならば業務配慮を行うと、稀にですがその状況が心地よくなり『配慮が終了にならないよう、あえて積極的な治療を行わない』ケースが見られるからです。

 このような状況を病気による二次利得と呼びますが、二次利得を防ぐためには『配慮する際の条件(禁酒・受診の継続・自己管理の徹底等)』を伝えておくことが有効です。

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 まとめになりますが、少子高齢化の流れの中で、病気の社員を解雇しても代替要員を採用することは容易ではありません。

 一度入社し仕事の能力を身に着けた社員に、本人の持っている力をすべて発揮できる健康状態を取り戻して頂く事は、会社の利益にもつながります。

 精神疾患の場合、正確な診断を下すためには『主治医への正確かつ詳細な情報伝達』が必要であり、症状を解決するのには『本人の治りたいという気持ち』です。

 何故体調を整えなければならないのかをしっかりと説明し、適切な受診につなげ、回復を支援することで、貴重な人財を活かしてください。

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