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第5回 メンタルヘルス対策支援ツール6 こころの健康度チェックリスト(職場用・家庭用)

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第5回 メンタルヘルス対策支援ツール6 こころの健康度チェックリスト(職場用・家庭用)

【執筆:日野 亜弥子(ひの あやこ)先生】産業医科大学 産業生態科学研究所 産業精神保健学 助教

「こころの健康度チェックリスト」は,客観的に認められるこころの不調のサインをまとめたものです。職場での「いつもと違う」サインを確認できる「職場用」と,家庭での変化を確認できる「家庭用」の2種類から構成されています。平時からチェックリストの内容を把握し,メンタルヘルス不調の早期発見・早期対応に結びつけてみませんか。

メンタルヘルス不調には,「眠れない」「食欲がない」「気分が落ち込む」といった自覚症状を伴うものもあれば,自覚症状が乏しく本人は不調であることに気づいていないケースも散見されます。職場の上司や同僚など,普段一緒に過ごしている人の目には「何だか,いつもと違う」と映っていることが,実はメンタルヘルス不調のサインの可能性があるのです。

職場でメンタルヘルス不調者が発生した場合,その不調にできるだけ早く気づき,早期に地域産業保健センターや医療機関など適切な専門機関へつなげることが重要です。その際,従業員自身が体調変化に気づくことに加え,管理監督者をはじめとした周囲の人が従業員の出している不調のサインに気づくことも必要になってきます。特に中小企業においては,メンタルヘルス不調の事例対応の経験が少ないことが一般的であるため,管理監督者が従業員の不調のサインを見落としている可能性があります。


産業保健スタッフが職場のメンタルヘルス不調の問題に対応する際,「疾病性」と「事例性」という言葉を用います。「疾病性」は,病気の診断名や重症度などを指します。一方「事例性」は,労働者本人が,以前と比べてどのように変化しており,どのような苦痛を感じているか,また周囲の者がどのような影響を受けているかを指します。うつ病を例に出すと,診断名である「うつ病」やその重症度は疾病性の評価に該当しますが,「朝起きられず,遅刻が続く」「考えがまとまらず,業務効率が低下している」などの状態は,事例性の評価に該当します。産業保健の現場では,このうち特に「事例性」の評価を重視しており、「こころの健康度チェックリスト」には「事例性」に該当する項目が列挙されています。

チェックリストの活用方法

平時の活用方法 ~不調のサインを知る~

・職場用チェックリスト
まず初めに,事業主や衛生推進者,人事労務担当者の方にチェックリスト全体に目を通していただきます。不調のサインは,勤怠にかかわるもの,仕事のパフォーマンスにかかわるもの,対人関係にかかわるものなど多岐に渡ります。どのようなサインがあるのか,一通りのサインを把握していただきます。その上で,チェックリストの内容について,管理監督者へ周知を行います。管理監督者は,部下一人ひとりの顔を見ることができて,声をかけられる立場の人が良いでしょう。管理監督者が集まる場を利用し,どのような状態が不調のサインに該当するのか認識してもらいます。

・家庭用チェックリスト

メンタルヘルス不調者の支援には,不調者の家族の協力が不可欠です。家庭用チェックリストは社内報に掲載するなど,社内の福利厚生の一環として活用することをお勧めします。

不調が疑われる時の活用方法 ~早めに気付き,繋げる~

・職場用チェックリスト
これまでは認められなかった不調のサインが複数認められる従業員が職場にいた場合,メンタルヘルス不調に陥っている可能性が高まります。管理監督者が本人に声をかけ,最近の心身の健康状態や,職場やプライベートで困っていることはないかについて,話を聞きます。メンタルヘルス不調が強く疑われる場合には,事業主(もしくは衛生推進者や人事労務担当者)に相談した上で,地域産業保健センターや医療機関(精神科や心療内科)へ相談する流れとなるでしょう。チェックリストには,それぞれのサインと関連する「心の健康問題を持つ従業員への対応手順マニュアル」の事例番号が掲載されています。詳しい対応方法を知りたい場合は,対応手順マニュアルを参考にすると良いでしょう。また,チェックリストから客観的な不調は確認できたものの,本人が不調である認識を持っていないときは、「セルフチェックシート」を用いることで,自身の不調の気づきを促し,対処方法を知ることができます。

・家庭用チェックリスト

家庭用チェックリストを併せて使用することで,職場で調子が悪そうな従業員が,家庭においても同様に不調のサインを発しているかどうかを確認することができます。医療機関の受診を本人が拒んでいる場合は,家庭用チェックリストが家族から受診勧奨を行ってもらう手助けになるかもしれません。逆に,従業員の家族が家庭で様子がおかしいのを心配して,職場側に最近の職場での様子を尋ねることもあるでしょう。そのような場合は,家庭用チェックリストを従業員の家族に渡し,具体的な家庭での不調のサインを確認してもらうと良いでしょう。

<参考情報>

8つのメンタルヘルス対策支援ツール
こころの健康度チェックリスト(職場用・家庭用)
こころの健康づくりの相談窓口
中小企業向け心の健康問題を持つ従業員への対応手順マニュアル
こころとからだを守るためのセルフチェックシート