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第1回 メンタルヘルス対策支援ツール1 小規模企業事業主向けメンタルヘルスケア理解のためのアニメ

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第1回 ツール1 小規模企業事業主向けメンタルヘルスケア理解のためのアニメ

【執筆:江口 尚(えぐち ひさし)先生】産業医科大学 産業生態科学研究所 産業精神保健学研究室 教授

【サマリー】

「小規模企業事業主向けメンタルヘルスケア理解のためのアニメ」は、社内で活用できるスタッフが限られ、職場のメンタルヘルスに関する経験に限りのあるため、急な社員の休職などメンタルヘルスに関する問題が社内で生じたときに、対応方法が分からず、具体的な対処方法に苦慮する産業医の選任義務のない小規模事業場向けに作成されています。

メンタルヘルスに関する問題が明日生じるかもしれません。皆さんの会社では、メンタルヘルス対応の準備ができていますか?このツールでは、社内でメンタルヘルス対策に取り組むときに「まず最初に何をすれば良いか」「どこに気を付ければよいか」を、事業者目線のアニメーションで、分かりやすく解説しています。

このツールは、そういった小規模事業場において、突然生じるメンタルヘルスに関する課題への対応力、耐性を高めるワクチンになります。

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変化し続ける仕事を取り巻く環境への適応を求められる労働者の受けるストレスは拡大する傾向にあります。そのため、仕事に関して強い不安やストレスを感じている労働者が半数を超える状況にあります。また、精神障害等に係る労災補償状況の申請件数の増加にも歯止めがかからず、職場のメンタルヘルスの問題は、企業規模に関係なく、経営上のリスクとなっています。

このような中で、心の健康問題が労働者、その家族、事業場及び社会に与える影響は、今日、ますます大きくなっています。こういった状況から、厚生労働省は、2004年10月に
心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き~メンタルヘルス対策における職場復帰支援~(以下、職場復帰支援の手引き)、2006年3月に労働者の心の健康保持増進のための指針(以下、メンタルヘルス指針)を作成し、公開しました。

さらに2015年12月にストレスチェック制度が義務化され、約5年が経過しました。この間、職場のメンタルヘルスに対する関心は大きく向上し、職場復帰支援の手引きとメンタルヘルス指針は、事業者にとって、知らなかったでは済まされない必ず知っておくべきルールになっています。その結果、特にストレスチェックの実施が義務化された50人以上の事業所においては、メンタルヘルス対策に取り組んでいる事業所の割合は90%を超えています。

一方で、ストレスチェックの実施が義務化されていない、産業医の選任義務のない50人未満の事業所では、メンタルヘルス対策に取り組んでいる事業所の割合は60%程度となっており、まだまだメンタルヘルス対策が十分に普及していません。


そういった現状を踏まえて、「小規模企業事業主向けメンタルヘルスケア理解のためのアニメ」は、小規模企業の事業主、人事労務担当者・管理監督者の皆様に、職場復帰支援の手引きやメンタルヘルス指針に準拠した形で、職場のメンタルヘルス対策の必要性についてのより深い理解を進め、実践につなげていただくことを目的に作成されました。
「小規模企業事業主向けメンタルヘルスケア理解のためのアニメ」は、入門編3話、実践編4話の全7話から構成されています。


図 「小規模企業事業主向けメンタルヘルスケア理解のためのアニメ」の構成

アニメには、職場のメンタルヘルス対策、対応に困っている様々な事業者と、それをサポートする社会保険労務士が登場します。特に、社内で活用できるスタッフが限られ、職場のメンタルヘルスに関する経験に限りのある小規模事業場においては、急な社員の休職などメンタルヘルスに関する問題が社内で生じたときに、対応方法が分からず、具体的な対処方法に苦慮します。そのため、このアニメでは、社内でメンタルヘルス対策に取り組むときにどのようにすればよいか、事業者目線のアニメーションで分かりやすく解説しています。

「入門編」は、予防のための職場改善や心の健康問題を持つ従業員への対応などについて解説となっており、会社で働く人たちのメンタルヘルス対策の第一歩として行うべき活動について紹介をしています。

「実践編」は、皆さんの会社で職場環境改善に取り組むための参考としていただけるようにしています。第4話で、小規模事業場でも無理なく活力ある職場づくり(職場環境改善)を推進していくための標準的な進め方を解説しています。第5話から第7話では小規模事業場での職場環境改善活動の具体的な事例を紹介しています。

このように、このツールは、小規模事業場のメンタルヘルス対応力、耐性を高めるワクチンとなることでしょう。興味を持った項目から、一度、ご覧ください。

【ツールの活用方法】

1.職場内でメンタルヘルス不調者が発生した時に、事業者や管理職がどのように対応すればよいかを学ぶことができます。

そのため、事業者からそのような相談を受けた社会保険労務士や産業保健スタッフが、職場のメンタルヘルス対応について、事業者との間で共通の理解を形成するために、このアニメの視聴を事業者に依頼すると良いでしょう。
事業者は時間がありませんので、第1話の「事例対応の原則と日頃の対策の重要性」を視聴してもらうだけでも効果があります。

2.第4話から第7話では職場環境改善の進め方について具体的な進め方について学ぶことができます。

「職場環境改善」は職場のメンタルヘルス対策としてとても有効ですが、多くの事業者、労働者にとっては馴染みのない言葉、活動です。
職場環境改善に関心を持ち、社内で職場環境改善活動を進めたいと思っている事業者や人事労務担当者、産業保健スタッフ、社会保険労務士などの社内外の関係者が、月に1回の安全衛生委員会などを活用して、委員に視聴してもらうことで、労働者に「職場環境改善」についての関心をもってもらい、職場環境改善に前向きな職場風土の醸成にきっかけとして活用できます。

3.産業医の選任義務のない50人未満の小規模事業場にとって、地域産業保健センター(以下、地産保)※は頼りになる存在です。ただ、相談内容や利用回数には制限があります。

地産保は、労働者への各種面談や職場訪問をしてくれます。
このツールの「入門編」を視聴すると、相談すべきことがより明確になり、利用回数に制限がある中で、効率的に地産保のサービスを活用することができるようになります。
※地域産業保健センター:独立行政法人労働者健康安全機構が運営する産業保健総合支援センター地域窓口(通称:地域産業保健センター)のことです。おおむね監督署管轄区域に設置されています。労働者数50人未満の小規模事業者やそこで働く方を対象として、労働安全衛生法で定められた保健指導などの以下の産業保健サービスを無料で提供しています。各サービスの利用は原則無料ですが、事前の申し込みが必要です。
「産業保健総合支援センター」・「地域産業保健センター」事業案内(独立行政法人労働者健康安全機構)

<参考情報>(文中のリンク先です)

8つのメンタルヘルス対策支援ツール
小規模企業事業主向けメンタルヘルスケア理解のためのアニメ
心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き~メンタルヘルス対策における職場復帰支援~
労働者の心の健康保持増進のための指針