H1

第4回 メンタルヘルス対策支援ツール7 心の健康づくり対策充実度診断

【本文】

第4回 メンタルヘルス対策支援ツール7 心の健康づくり対策充実度診断

【執筆:真船 浩介(まふね こうすけ)先生】産業医科大学 産業生態科学研究所 産業精神保健学研究室 講師

働きやすい職場づくりのきっかけに:心の健康づくり対策充実度診断の活用方法

「心の健康づくり対策充実度診断」は,働きやすい職場づくりを無理なく進めるためのツールです。心の健康づくりは,多岐にわたるため,職場の皆さんの関心が高く,手をつけやすい取り組みから挑戦することが,長続きと広がりの秘訣です。

「心の健康づくり対策充実度診断」は,働きやすい職場づくりを無理なく進めるためのツールです。「働きやすい職場」は,心の健康づくりのゴールの一つです。 心の健康づくりには,数多くの取り組みが関連し,「働きやすい職場」にたどり着く道のりも様々なルートが想定されます。どのようなルートが近道になるかは,職場の状況によって異なります。残念ながら,「働きやすさ」は,取り組みを始めてすぐに効果を実感できるとは限りません。無理なく続けられる息の長い取り組みが必要です。「心の健康づくり対策充実度診断」は,ご自身の職場の強みや関心の強い取り組みを振り返ることで,興味を引かれて,入りたくなるような入口を探し,強みを活かして,無理なく続けられるルートを把握するための「地図」をつくるツールです。

心の健康づくりは,多岐にわたるため,まずは,職場の皆さんの関心が強い内容から,挑戦して下さい。「心の健康づくり対策充実度診断」では,広範な心の健康づくりを5つに大別しています。心の健康に関する知識や実態把握,心の健康を守るための職場や仕事に関する配慮,困りごとを相談できる体制などの一連の取り組みのうち,職場の皆さんの関心の高い活動を探すための話し合いの叩き台として下さい。このツールは,必ずしも,心の健康づくりの「正解」をまとめているわけではなく,決まった取り組みの順番はありません。心の健康づくりは,漠然とした不安感や抵抗感から敷居を高く感じる場合も多いため,まずは,気になる取り組みを手始めにすることが重要です。

心の健康づくりも,できるところから手をつけることが,今後の長続きと広がりの秘訣です。関心があっても,最初から順調に進められるとは限りません。まずは,「心の健康づくり対策充実度診断」で,職場の「強み」を確認し,強みを活かして,挑戦できそうな内容から着手することが長続きの秘訣です。こうした取り組みは,「強み」と似たような内容を漫然と繰り返すことになるかもしれません。定期的に話し合い,職場の皆さんの「関心」や「強み」を確認し,その都度,できることを段階的に積み上げることが大切です。心の健康づくりには、必ずしもマニュアルのような正解はなく,このような定期的な点検による「試行錯誤」が,皆さんの職場に最適な取り組みを築くために必要です。

多岐にわたる心の健康づくりを支援するために,こころの”あんしん”プロジェクトでは,「心の健康づくり対策充実度診断」の他にも7つのツールを公開しています。「心の健康づくり対策充実度診断」で整理した関心の強い課題と関連するツール(表1)を組み合わせながら,ご活用下さい。

 
表1 心の健康づくり対策充実度診断の概要

分 類         内 容                                      関連ツールの一例              
職場環境  職場や仕事についての話し合い 標語集(ツール2)
ラインケア(ツール6)
労働状況  仕事の負担や適材適所への配慮   標語集(ツール2)
ラインケア(ツール6)
心の健康 心の健康に関する調査や配慮 マニュアル(ツール3)
セルフケア(ツール8)
教育研修 心の健康に関する知識の習得 映像資料(ツール1)
標語集(ツール2)
相談体制 安心して相談できる体制整備 相談窓口(ツール4)
受信メモ(ツール5)

【活用方法】

導入編で準備体操

導入編には,心の健康づくりに欠かせない3つの要点が用意されています。いずれも,普段の挨拶や会話,配慮など,これから深める心の健康づくりの重要な基盤です。基本的な内容だからこそ,厳格に点検すると,「あてはまる」とは断言できないような気持ちになるかもしれません。導入編では,心の健康づくりの基盤,つまり,迷った時,行き詰まった時の原点を確認することが目的です。導入編は,完全な達成にこだわり過ぎず,3つの原点を胸に,実践編に挑戦する準備体操としてお使い下さい。

図1 「心の健康づくり対策充実度診断」による働きやすい職場づくりのサイクル

経営者主導で理想を共有

まずは,心の健康づくりの「核」となる職場の強みや関心を整理することが重要です。「心の健康づくり対策充実度診断」に並ぶ項目は,どれもが重要である一方で,早期に全てを網羅することは現実的ではありません。腰を据えて,息の長い取り組みを展開することが重要です。目標を見失わず,続ける士気を保つと同時に,似たような取り組みを続けるマンネリ化を防ぐためには,常に何のための取り組みかを思い出すための「理念」や「方針」が必要です。また,「指示され,やらされる」取り組みよりも,「そうしたい」と自ら感じる取り組みが続けやすいのは言うまでもありません。職場の強みや関心から,多くの従業員の意見や想いが反映された理念や方針をまとめられるのが理想です。

こうした理念や方針は,経営者の皆さんが率先・一貫して周知に努めて頂くことが重要です。息の長い取り組みとするための理念や方針に,従業員の声は欠かせませんが,意見を反映させたからといって,「暗黙の了解」では,心の健康づくりを進める一枚岩にはなれません。心の健康づくりには,あらゆる職場に共通する唯一無二の正解がないからこそ,皆さんが大切にしたいことを折々で声に出して広め,再確認することが必要です。日頃から会社を代表して社内外に情報を伝える経営者の皆さんは,こうした理念や方針を共有できる強力なメッセージを発することができます。

管理職主導で強みや課題を整理

働きやすい職場づくりには,会社・事業場全体の理想描くだけでなく,各職場の具体的な課題・強みを共有することが欠かせません。理念や方針から職場での価値観を共有することは「心の健康づくり」の大切な指針となりますが,それぞれの職場には多様な課題や強みがあります。「心の健康づくり」では,唯一無二の正解を目指す取り組みではなく,こうした多様な課題に対応し,層の厚い強みを鍛えることが重視されています。

職場に共通する強みや課題の整理には,職場を俯瞰できる管理監督者の皆さんが鍵を握ります。一担当者の立場では,ご自身の仕事の課題を整理することはできても,職場や会社全体の中での,ご自身の仕事の意義や必要性を整理することは難しいかもしれません。従業員一人一人の力を合わせた職場の強みを知るには,他を知る管理監督者の皆さんの俯瞰的な視点が必要です。また,仕事の負担も,ご自身が忙しい時や苦手な作業が続く際には,周囲も似たような状況であっても,「隣の芝が青く見える」こともあるかもしれません。職場に共通した課題を整理するためにも,作業を最も良く知る従業員一人一人の視点だけでなく,客観的に観察できる視点が重要です。一つ一つの仕事,一人一人の働きぶりが職場や会社に必要不可欠な意義があることを伝え,職場に共通する課題を整理するには,部下の皆さんがどのような仕事をされているのか,職場や会社でその仕事がどのように位置付けられているのかを把握する管理監督者の皆さんのメッセージが不可欠です。

従業員の参画による改善

働きやすい職場づくりのための具体的な改善には,現場の知恵を共有するコミュニケーションが欠かせません。立派な理念や方針に掲げられ,課題が緻密に整理されていたとしても,現場のニーズに適っていなければ,負担の軽減はもとより,働きやすさの改善も進まない絵に描いた餅になってしまうかもしれません。それぞれの職場や従業員の皆さんには,最前線で起こる様々な課題に対処してきた「現場の知恵」があります。こうした知恵は,一人一人の従業員の皆さんが大切に守り育てて,周囲に共有されることなく,勤め上げ,退職されているかもしれません。こうした貴重な財産を受け継ぐためにも,職場でのコミュニケーションが欠かせません。

働きやすい職場づくりには,現場の知恵を集めた具体的な試行錯誤が必要です。一見すると客観的な正解に見える「答え」も,現場の実作業にあてはめると現実的ではない場合や今までの経緯や事情への配慮に欠く場合も少なくありません。働きやすい職場づくりでは,近道に見える第三者による客観的な提案よりも,現場の知恵を改めて振り返り,有効活用することが急がば回れの最善策になりえます。もちろん,最初から最善策にたどり着けるとは限りません。様々な知恵を試しながら,最善策を探す,改善の挑戦と効果の評価に基づく見直しの繰り返しが重要です。

<参考情報>

8つのメンタルヘルス対策支援ツール
心の健康づくり対策充実度診断