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第3回 メンタルヘルス対策支援ツール5 受診・相談時メモ用紙

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第3回 メンタルヘルス対策支援ツール5 受診・相談時メモ用紙

【執筆:日野 亜弥子(ひの あやこ)先生】産業医科大学 産業生態科学研究所 産業精神保健学 助教

「受診・相談時メモ用紙」は,メンタルヘルス不調が疑われる従業員が医療機関を受診する際や,職場が主治医と情報をやり取りする際に使用できるメモフォームです。メモフォームの使用場面についても,全部で3パターン紹介しています。想定される場面に合わせて,メモフォームを活用してみてはいかがでしょうか。

心の健康問題で会社を休業すること,もしくは,そのまま退職してしまうことは,決して珍しいことではありません。

厚生労働省が実施している労働安全衛生調査によると,メンタルヘルス不調により連続1ヶ月以上休業した労働者の割合は0.4%,退職者の割合は0.2%と報告されています。従業員数10〜29名の小規模事業場においては,休業者の割合(0.2%)よりも,退職者の割合(0.3%)の方が高くなっている特徴があります。 

また,同調査において,メンタルヘルス対策のうち,職場復帰支援に取り組んでいる事業所の割合は,従業員数1,000名以上の事業場では83.9%であったのに対し,従業員数10〜29人の小規模事業場では19.0%と,従業員数が少なくなるほど,職場復帰支援の取り組みに苦慮されている状況が窺えました。

「受診・相談時メモ用紙」は,職場復帰支援の取り組みを手助けするツールです。メンタルヘルス不調が疑われる従業員が医療機関を受診する際や,職場の窓口となる方が,従業員を通して主治医と情報をやり取りする際に役立つメモフォームです。

「メンタルヘルス不調が疑われる社員がいるが,体調が悪そうなので,体調や仕事の状況を主治医に正確に伝えられるか心配している。」「メンタルヘルス不調で従業員が休業してから数ヶ月経過している。職場復帰に向けて,どのような方法で主治医にコンタクトをとれば良いのだろうか?」本ツールが,このような心配・疑問を解決するきっかけになれば幸いです。

メモフォームの記入方法

フォーム1:受診時メモ用紙

「受診・相談時メモ用紙」には,3種類のメモフォームがあります。

「受診時メモ用紙」は,メンタルヘルス不調の疑いのために病院を受診する際,本人が悩んでいる点や主治医に訴えたい点などをあらかじめ整理するためのフォームです。

メンタルヘルス不調の状況下では,その症状による混乱から,具体的にどのような症状があり,どういった生活への支障をきたしているのか,考えを整理するのが難しいことがあります。
初めて病院を受診する前に「受診時メモ用紙」を利用することで,問題点の整理をすることができます。また,主治医に提出してもらうことで,診療に役立てることもできます。体調不良時には多くの設問に答えることが難しいことから,記入するのは必要最低限の項目となっています。

フォーム2:ご連絡

「ご連絡」と「職場復帰に向けてのご連絡」は,職場の担当者が記入するメモフォームで,職場が主治医との連携を進めるために,職場からの積極的な情報提供の支援を行うものです。

「ご連絡」は,従業員が医療機関を受診する際に,職場が本人に関する職場の情報を記入し,主治医に提出することで診療に役立ててもらうためのフォームです。「ご連絡」のみで使用も可能ですが,本人が記入する「受診時メモ用紙」とセットで使用することで,職場からの客観的情報,本人からの主観的情報の2種類の情報を主治医に提供することができます。

また,「ご連絡」は,今後の主治医―職場間の連携を依頼するフォームとしても利用できます。ただし,主治医によっては,本文書のみをもってお返事をもらえるとは限らず,職場が主治医から意見を伺う場合は,本人同意のもとで,診療の同席が必要となることも少なくありません。連携の取り方については,本人を通して主治医へ確認をすると良いでしょう。なお,「ご連絡」は,初診時に主治医へ提出する使用方法を想定していますが,再診時以降の使用も可能です。

フォーム3:職場復帰に向けてのご連絡

「復職に向けてのご連絡」は,休業した従業員が職場復帰するにあたり,会社が復職可能と考える条件や,会社の休業制度,復職後に想定している業務などについての情報を主治医へ提供するフォームです。

メンタルヘルス不調では,回復過程において,症状が落ち着いても生活リズムが整っていない時期や,業務遂行能力(仕事ができる能力)があまり回復していない時期があります。

主治医の「復職可能の診断書」は,本人や家族の焦りや,経済的理由などから,そのような段階でも作成されることがありますが,業務遂行能力がある程度回復していないと,復職しても症状の再燃,再発から,再休職に繋がる危険があります。

「復職に向けてのご連絡」を使用することで,主治医と職場との間の復職時期に関する認識のずれを少なくし,職場復帰支援を円滑に進めることを狙いとしています。

メモフォームの使用機会

「受診・相談時メモ用紙」には,これら3つのフォームとフォームの記入例の他に,職場復帰支援で想定されるパターン別に,メモフォームの使用場面をご紹介しています。

パターン①「メンタルヘルス不調の従業員が初めて病院を受診するとき」
パターン②「メンタルヘルス不調の従業員が長期休業したとき」
パターン③「職場が主治医からの情報を得たいとき」


パターン①では「受診時メモ用紙」と「ご連絡」を,パターン②では「復職に向けてのご連絡」を使用しています。

これら3フォームを提出しても,主治医からお返事がもらえない可能性もあります。

パターン③では,本人に同意をとった上で,診察に同席する方法をご紹介しています。社内にメンタルヘルス不調が疑われる社員がいない場合でも,本ツールに目を通すことで,医療機関受診までの流れや,その後の主治医との連携方法について知ることができます。

<参考情報>

8つのメンタルヘルス対策支援ツール
受診・相談時メモ用紙