
職場での対処法としては、無意識のうちに健康を害したり生産性を落としたりすることがないよう、まず従業員一人一人が正確な知識を持ち、適切な睡眠をとるように意識する必要があります。そして職場は、従業員が適切な睡眠時間を確保できるよう、就業環境を整えていく必要があります。
まずは、適切な睡眠時間が確保出来ているかを確認することから始めましょう。平均的に必要な睡眠時間は、20代で7時間、40代で6.5時間、60代で6時間程度です。時々「私は5時間睡眠で十分です」という方がいます。確かに、5時間睡眠で健康を維持できる方もいますが、それはごく限られた一部の人のみです。もしも、“土日に平日より2時間以上長く寝ている”、“日中の眠気が強い”、のいずれか1つでも該当する場合は、睡眠不足を疑った方が良いでしょう。繁忙期などで一時的に十分な睡眠時間が確保できない場合は、週の中頃(出来れば水曜日)に、1日でも十分な睡眠時間を確保することで、週の後半の疲労感を軽減し、パフォーマンスの低下を最小限に抑えることができます。
次に、朝起きる時間は可能な限り一定にしましょう。朝、目から光が入ると体内時計がリセットされ、そこから15〜16時間後に眠気が来ます。休日だからといって昼頃まで寝てしまうと、土日の睡眠リズムが乱れ、日曜日の就寝時刻が遅くなり、寝不足のまま月曜日迎えることになりかねません。平日の睡眠不足を補う場合であっても、休日は平日の起床時刻+2時間以内に起床するようにしましょう。また、昼寝をする場合は、夜の睡眠の妨げにならないように、午後3時までに30分以内で留めましょう。
夕方に、軽く汗ばむ程度の運動をすることも、睡眠に良い影響を与えます。これは、39〜40℃の温めのお風呂にゆっくり浸かることでも、同じような効果が期待できます。ただし、寝る直前の激しい運動や入浴は、逆に目を覚ましてしまうため、避けたほうが良いでしょう。覚醒作用のある刺激物にも注意が必要です。コーヒーや紅茶に含まれるカフェインの覚醒作用は4〜8時間続くため、夜遅くまで起きておくべき特別な理由がない限り、夕方以降のカフェイン摂取は避けたほうが良いです。コーヒーを飲んでも眠れるから問題ないという方も、無用な睡眠の質の低下を避けるために、やはり同様の対応が望ましいです。最近では、街中のコーヒーショップでカフェインレスのコーヒーを取り扱うお店が増えてきました。朝はカフェイン入り、夕方はカフェインレスにするなど、カフェインの覚醒作用をうまく利用できると良いと思います。
最後は、寝酒についてです。眠れないからといって睡眠薬代わりにアルコールを飲むことは、絶対に避けてください。アルコールは睡眠の質を下げるだけでなく、寝酒を長期間続けることで依存を形成する恐れがあります。気がつくと一晩で飲むアルコールの量が増え、寝酒がやめられなくなっていたという話は決して少なくありません。寝酒をしないと眠れない状況が続く場合は、早めに睡眠の専門家(日本睡眠学会ホームページ(http://www.jssr.jp/)にある「睡眠医療認定一覧-睡眠医療認定医リスト」を参照)に相談することをおすすめします。
従業員が上記のような対応をとれるようにするためには、就業環境の調整が不可欠です。大切なことは、仕事から離れた状態で適切な睡眠がとれる時間を、職場として提供することです。そのためには、適切な時間外勤時間管理に加え、定時退社デー(水曜日が望ましい)の設定と徹底、勤務間インターバル(第7回コラムを参照)などの施策の導入が有効です。
・交替制勤務がある場合
交替制勤務では、生体リズムに逆らった状態で睡眠をとらなければならないため、睡眠の質が低下し、勤務中に眠気が生じてしまいます。眠気の改善のためには、仮眠が有効です。夜勤前は14時~16時頃に仮眠をとっておくと、夜勤中に生じる眠気や疲労感を抑えることが出来ます。夜勤中の休憩時間などに1~2時間程度の仮眠が取れればより効果的です。夜勤時にコーヒーなどのカフェイン飲料の摂取することも、作業エラーの防止対策になります。