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第5回 中小企業が健康経営のために取り組みたいポジティブ・ワークショップ

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第5回 中小企業が健康経営のために取り組みたいポジティブ・ワークショップ

【執筆:平松 利麻(ひらまつ りま)先生】慶應義塾大学SFC研究所 所員、トラヴェシア社会保険労務士事務所 代表

【はじめに~中小企業による健康経営への取組みに関する質問・相談】

経済産業省により「健康経営優良法人認定制度」が平成28年度に創設されてから、健康経営に取り組みたいという中小企業が増えてきました。一方、「健康経営を始めてみたいけれど、難しそう」とか、「具体的にどんな取組みをすれば良いのかわからない」といった声をお聴きする機会も多くなっています。

ところで、健康には「からだの健康」と「こころの健康=メンタルヘルス」の2種類が存在し、それぞれが互いに相関しあっています。よって、健康経営においても、からだの健康のみならず、メンタルヘルスに対しても注力することが大切です。

そこで今回は、中小企業の健康経営にお勧めしたい取組みとして、筆者が開発に従事した手法についてご紹介したいと思います。

  

【WEの醸成と健康経営に効果的な「ポジティブ・アプローチ」】

本連載の「第2回 メンタルヘルス」で取り上げた「ワーク・エンゲイジメント(以下、WE)」は、健康経営優良法人認定基準にも採用されており、健康経営を実現するために重要な要素の一つです。WEを醸成するいきいきとした職場を実現するためには、職場の強みや長所、持ち味などのポジティブな面に注目し伸ばす「ポジティブ・アプローチ」を用いることが効果的です。この手法は、弱みに注目して改善する手法に比べて、参加者が楽しく取組めるため、活動を長続きさせることができるというメリットがあります。また、強みをさらに発展させるため、より高い目標を達成することができる、といった効果も挙げられます。

【健康経営に資する「ポジティブ・ワークショップ」を実施してみましょう】

健康経営を実現するポジティブ・アプローチとして、今回はワークショップ(以下、WS)という手法をご紹介しましょう。WSとは、「体験型講座」のことで、「ファシリテーター」と呼ばれる司会進行役を中心に、参加者全員が体験します。ワークショップを成功させるには、参加者一人一人が自ら積極的に参加することが重要となります。

健康経営を実現するいきいきとした職場づくりのためのWSは、5つのステップに分かれています(図1参照)。
それでは、ステップごとに取組みをご説明しましょう。

●ステップ1 WSの企画

まず、WSの進行役となるファシリテーターを決め、そのファシリテーターが中心となって、WSの名称やチェックリストの選定を行います。また、経営層にはWSの必要性を説明し、理解してもらいましょう。そして、WSの参加人数・開催日を決めます。参加人数は15~30名ぐらいが適当です。

●ステップ2 事前のチェックの実施および集計

ストレスチェック制度で推奨されている新職業性ストレス簡易調査票からWEに関する項目を抜き出した「職場の強み(資源)チェックリスト」を用い、社内でアンケート調査を行い、社員が職場環境をどのように感じているかを確認します。結果は職場単位で集計し、職場ごとの強みを記載した資料を作成しておきます。

●ステップ3 WSの参加者への説明

WSを始める前に、ファシリテーターが参加者に対し、パワーポイントなどの視覚資料を用いて、①いきいきとした職場づくりの目的、② WSの目的、進め方、時間配分、③職場の強み集計結果の見方 についてそれぞれ説明します。また、グループごとに司会、発表者、書記、時間係といった役割分担を行います。

●ステップ4 WSの実施・運営

いよいよWSのスタートです(図2参照)。

 

まず初めに、「職場の強み集計結果」から導かれた職場の強みを参加者で共有し、その中から特に伸ばしたい強みをグループ討議で決定します。職場の強み上位5項目が充実率ランキングとして表示されており、これを参考にして職場の強みを見つけることができます。

次に、その強みを伸ばしたらどんな理想の職場が実現できるのかについてグループで話し合い、職場のありたい姿を共有します。
そして、理想の職場を実現するための具体的な活動について計画を立てます。このとき、具体的かつ実行可能な活動計画にするため、対象方法や手段、実施時期などを決めておくのがポイントです。

WSで討議するのはここまでで、あとは職場に戻り、計画を実行に移していくことで、理想の職場に近づけていきます。

●ステップ5 フォローアップと評価

3~6カ月程度の活動期限を決めて、活動単位ごとに成果を発表してもらいましょう。成果が上がった活動は表彰するなど、職場全体で成果と達成感を共有します。計画どおりに活動が進まなかった場合は、どんな工夫をすればうまく進むようになるか参加者全員で検討し、次の活動につなげていきましょう。

WS自体の所要時間は約1時間と短く、従来実施している社内の部門会議や衛生委員会などの時間を使って実施することも可能であり、非常に取り組みやすいといえます。また、WSに必要なツールや当日の流れ、終了後に職場で実施するアクションなどは、リーフレット版や動画版の各マニュアルにわかりやすくまとめられており、WSを初めて行うという職場でも安心して実施することができます。

取組みは1度きりで終わるのではなく、定期的かつ継続的に実施し、いきいきとした理想の職場に近づけていきましょう。

※健康経営は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。

【参考文献】

1.厚生労働省厚生労働科学研究費補助金 労働安全衛生総合研究事業
  労働生産性の向上に寄与する健康増進手法の開発に関する研究 分担研究報告書
  メンタルヘスの向上手法開発:職場環境へのポジティブアプローチ 分担研究者 島津明人

2.ワークショップのツールやマニュアルは以下のURLよりダウンロード可能
  慶應義塾大学 総合政策学部 島津明人研究室 HP内
   URL:https://hp3.jp/project/php#tool
 
【参照:インデックス】