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こころの“あんしん”イベント Vol.4 シンポジウム報告

第1部 特別講演 「中小企業で取り組む健康経営の意義」 森 晃爾 氏

「健康経営」で職場はどうなるか

大企業における「健康経営」と中小企業のそれでは、やり方が少し異なります。今日は中小企業を前提にしたお話をいたします。

「健康経営」を始めると企業はどうなるでしょうか。私が今から「健康経営」の浸透した企業とそうでない企業のストーリーをお話ししますので、そのイメージをつかんでください。

はじめに「健康経営」が浸透した企業です。

「この職場では従業員の全てが健康診断を受診して、必要であれば精密検査や治療を受けています。健康でなければ良い仕事ができないと皆が思っているからです。運動・栄養・休養が大切なことも理解していて、必ず何かしらの健康に関する行動をとっています。例えば毎朝散歩をして、野菜も十分に採っています。毎日体重を計り、良好な睡眠を妨げる夜の飲酒を控えています。健康診断で血圧が少し高いと言われた人は、血圧計を購入して血圧手帳に記録することを日課にしています。職場でもお互いの健康を気遣い、仕事で帰りが遅くなる日が続くと同僚が体調のことをたずね、手の空いている人はお互いを手伝います。大病をする人もでていませんし、風邪で休む人もあまりいません。今年のインフルエンザシーズンでも、巷で騒がれたほどには感染者がでず、仕事に大きな影響はありませんでした。自分たちの職場を働きやすい職場にしたいという意欲を持ち、職位に関係なく前向きにコミュニケーションが図られ、職場改善が行われています。管理職は無駄な仕事が減り、部下が良い仕事をしたいと前向きに改善案をだしてくれるので、自分もなんとか実現させたいと考えています。

職場のメンバーは、できるだけ長くこの職場で働きたいと思っています」

以上が「健康経営」の浸透した企業ストーリーです。如何でしょうか。なんだか良い感じがしませんか?

健康管理面で問題を抱えた職場

次は健康管理面で問題を抱えている企業です。

「何名かの社員は定期健康診断を受けていません。そればかりか「健康診断を受けないのは自分のポリシーだ」と公言している人もいます。健康診断の結果、精密検査や治療の必要な社員が数名はいますが、彼らが病院に行ったのか定かではありません。脳卒中を発症した社員は血圧の治療を怠っていたようです。糖尿病の社員も何名かいるのですが、治療がうまくいっているかはわかりません。糖尿病から腎不全を発症し50代で透析が必要になった人もいました。一人ひとりの生活習慣を把握していませんが喫煙者は依然として多く、打ち合わせと称して喫煙スペースで話し込んでいるメンバーもいます。30代なのに肥満気味の社員も多い状況です。彼らの昼食はカップ麺や菓子パンなどで、夕食もコンビニ弁当のようです。黙々と自分の仕事をしているようで、いつも職場は静かです。納期が迫ると残業や休日出勤が発生しますが、仕方ないと割り切っています。風邪や体調不良で会社を休む社員が時々でます。新しく入社した社員は、職場になじめずに鬱病で退職しました」

さて、二つのストーリーについて「どちらが健康的でしょうか」という質問をしてもいいのですが、この質問を「どちらの会社が儲かるでしょうか」と言い換えても大差ないと私は思います。いずれにせよ、二つの会社を分けた最大の要因は、従業員の健康に対する経営者の想いだと私は考えます。こうした要因に取り組むことが「健康経営」なのです。第2部では企業経営の観点からの講演もありますが、経営者である小島俊一さんのお話を聞けば、実感がさらに増すことと思います。

「健康経営」の前提

私の友人であるジァン・ドゥーソッブという研究者が「産業保健マーケティング」という」著書の中で表現しているのですが、会社には「人・もの・金・情報」という資産があり、これをうまく活用して成果を挙げる、付加価値を上げていくことが会社経営だとしたとき「人」の要素に着目をすると、そこには能力や技術といった内部資源と、経験や人脈といった外部資源があり、さらには働く人の健康が根幹資源と位置付けられるというのです。なぜならば、健康でなければどんなに優れた内部資源も外部資源も使えないからです。

日本の企業はこれまで教育として内部資源に投資してきましたが、これからの時代は根幹資源である健康に対して投資をしていかなければならない。これが基本的な「健康経営」の理念なのです。つまり健康課題から始まっているのではなく、はじめに経営課題があるのです。超高齢化社会の到来とともに懸念される生産年齢人口の急激な減少が背景にあり、職場環境の悪化や健康レベルの低下に起因する人手不足などの経営課題です。

日本の将来人口推計 経済産業省

特に中小企業にとっては一人の休職や退職が経営に及ぼす影響は非常に大きなものとなりますので、メンタルヘルスや健康課題の解決が、結果的に経営課題を解決する、といったことが言えるのです。センスの良い経営者は当たり前のようにしていることなのですが、そうした考えに及ばない経営者が多いことも事実です。

「健康経営」の広がり

この経営課題と健康課題の関係を多くの人に気づいていただくために、国は様々な制度を始めています。そのひとつに「健康経営銘柄」があり、5年目の今年は28業種から37社が経済産業省と東京証券取引所によって選定されました。

「健康経営優良法人制度」は、1業種1社のみが選定される「健康経営銘柄」に対して、もう少し拡大版も作りましょうということで作られた制度で、調査票に基づく大規模法人部門と、自己申告を評価する中小規模法人部門があります。3回目となる今年は、大規模法人部門に820法人、中小規模法人部門に2503法人が、日本健康会議より認定されました。

これほどに多くの企業が注目している「健康経営」ですが、社内に浸透する時間を考えたとき、圧倒的にスピーディなのは中小企業です。大企業では浸透するまでに時間がかかりますが、中小企業では経営者の意志が大きく反映するため、その気になれば比較的スムーズに健康経営が浸透するはずです。具体的に何をするのかというと、無理なことをするのではなく、無理のないものを行っていただき、それを評価して見直しをすればいいわけです。

既存のプログラムを活かそう

大事なことは既存のプログラムを動かすということです。日本の場合は一般定期健康診断という形で全ての人が健康診断を受けているので、一人ひとりが健康診断をきっかけに何か取り組みをするということでいいと思います。

ハイリスク・アプローチといって、集団の中の健康度が良くない人たち対して、きちんと治療を受けさせ改善しようというアプローチがありますが、基本的に定期健康診断をしていて、セルフチェックもされている。何か問題があればきちんと行動をとる、ということを職場の当たり前のこととして身につけさせ、それが当たり前とみんなが思って知らないうちに行動をとっている。そういうような状態を作るだけでも、60歳まで働く前に腎不全になった、というような話が相当に減るはずです。

従業員が参加できるプルグラムを提供する

その職場における課題をひとつ取り上げて、皆が参加できて、皆で健康になろうという機運が高まるようなプログラムを選びましょう。

ポピュレーション・アプローチという手法は、集団全体を健康にしようというというアプローチです。健康増進キャンペーンや環境整備などがこれに当たりますが、玉入れ大会をやって非常に盛り上がっている、という東京の有名企業の例もあります。難しいことを考える必要はありません。

経営者の方が「うちの社員の食事、こんなのでいいの?」と思ったら食事の問題に取り組めばいいですし、「みんな運動不足だよね」と思ったら、皆で運動をやることを考えればいいわけです。その時に忘れてはならないことは「皆で」というキーワードです。皆のコミュニケーションが高まることと運動がセットになっている取り組みの方が、成果が上がるからです。こうして考えてみると、中小企業の「健康経営」はそれほど難しくないことがお分かりいただけるのではないでしょうか。あとはやる気と持続性だけです。何を行うかは皆さま自身で決めてください。私たちのような専門家に聞かないでください。机上の空論では意味がないからです。

“こころ”の健康レベル心の健康状態というのは、ネガティブからポジティブまで、いろいろなレベルがあります。

一般的には、会社に来ていても問題があるような状態をプレゼンティーズムと言います。経営者的にいえば、従業員は図に示す「ワーク・エンゲージメント」のレベルにいて欲しいわけですが、日本でもアメリカでも健康問題で失う損失の2/3はプレゼンティーズムだといわれています。健康課題というのは即ち経営課題です。それは企業の規模が小さくなればなるほど、経営に関わる要素が大きいからです。その向上を狙った取組も健康経営の選択肢の一つです。

「健康経営」の不随効果

成功した「健康経営」の多くが物語っているのは、従業員間のコミュニケーションの向上や業務上のミスや不良品の減少、ひいては顧客満足の向上、そして結果的に業績が向上するというように、一つひとつに大きな付随効果が現れます。だからといって、スタートの段階から、ものすごく大変なことをやって欲しいという話ではなくて、既存の施策を100パーセント活用することと、実感として感じている健康課題に対して、必要な対策を皆でワイワイガヤガヤとやりながら始めていく、ということが大事ではないかなと思っています。