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森 晃爾(もり こうじ)教授が伝える中小企業のための健康経営ゼミナール

執筆 代表・監修:森 晃爾(もり こうじ)先生
産業医科大学産業生態科学研究所 教授

「健康経営の導入は、大企業ではできても、資金も人材も足りない中小企業では難しい」という発言をよく聞きます。
しかし、中小企業では、健康経営の導入が難しいのでしょうか。
私は、中小企業こそ、容易に健康経営を導入することができると思います。
唯一のポイントは、社長がその気になるかならないかです。
「こころの“あんしん”プロジェクト」の新企画として、今話題の健康経営について連載いたします。
毎月1日(予定)に計6回シリーズで掲載します。

[第6回] 企業の存続と健康経営

産業医科大学産業医実務研修センター 准教授 柴田 喜幸

中小企業のための健康経営ゼミナールの最終回は、連載の総まとめを兼ね、企業の存続発展と健康経営の関係をおさらいします。企業が従業員の健康に注力することが、単に福利厚生や人道にとどまらず、経営活動にとって不可欠であることを再確認しましょう。

1.「人がいなければ事業はできない」

先日、チェーンの飲食店の重役をしている友人が「人が足りなくて、何軒か店を閉めたよ」とこぼしていました。「外人も高齢者もいないんだ」「来てもすぐに辞めてしまう」と言います。人気店で開店さえすれば利益はあがる会社だけに本当に悔しい面もちでした。

私が社会に出た30年前は、長時間残業や休日出勤が続いたり、病気にかかったりして職場に休みを申し出ると「ずっと休んでいろ。代わりはいくらでもいるんだ」などと言われたものでした。実際、求人を出せばいくらでも「代わり」の人は応募してきましたし、文句を言わず、休みもとらず、粛々と働く人が早く出世していく会社も多かったようです。

皆さんの新人時代はいかがでしたか?

一方、’80年代後半のバブル時代は人手不足の売り手市場になり、やがてバブル崩壊やリーマンショックなどで、再度就職氷河期が来ました。そして今また採用難です。

こうして、雇用の需給は時代によって行ったり来たりしてきました。では、現在の採用難は、何年か待てばまた買い手市場が来るのでしょうか。

この連載でも森教授が触れたように、日本の労働市場の先行きはなかなか暗いようです。IT化・グローバル化が進んだとは言え、多くの企業では従業員がいなければ工場は回らず、店は開けず、物は売れず、配達はできず、というわけです。

では今日、どんな企業なら「人」が働くのでしょうか。

イラスト画像

2.従業員確保の2面

従業員の確保には、大きく

  • ① 採用
  • ② 保持

という2つの側面があります。

①採用は、学生や求職者にとって魅力的な組織であることが重要です。民間の就職サービス企業マイナビ社による学生の就職観の調査では、この20年間の1位は「楽しく働きたい」でした。一方で、収入を重んじる人は、8つの選択肢のうち7番目です(図1)。つまり、景気の浮沈にかかわらず、お金さえ積めば人が来てくれる時代ではないといえましょう。

(図1) 就職観の推移(01年卒〜19年卒)

(図1) 就職観の推移(01年卒〜19年卒)

②保持は、入社させた社員に去られないという意味合いです。上記と同じ調査では、行きたくない会社のトップは、「暗い雰囲気の会社」で、こちらも20年間不動の1位です(図2)。

(図2) 行きたくない会社(01年卒〜19年卒)

(図2) 行きたくない会社(01年卒〜19年卒)

(図1、2出典:2019 年卒マイナビ大学生就職意識調査 http://mcs.mynavi.jp/enq/ishiki/data/ishiki_2019.pdf)Copyright(C)2018 Mynavi Corporation

また、就職を前にした学生のうち約6割が「将来的に転職もあり」と考えているという調査もあります(株式会社i-plug 就活生『働き方』意識調査2019年卒http://offerbox.jp/company/info/13856.html)。つまり、「採ってしまえばこちらのもの」というものではなく、社員にとって魅力ある組織・職場であり続けることが必須であると言えましょう。

3.「人が集まり、辞めない職場作り」のために

保持=人が辞めない施策はさまざまですが、ここでは大きく2つを挙げます。1つ目は個の成長、つまり仕事を通じたやりがいや能力開発です。ただ「いる」だけでは戦力にはならず、また本人も何年働いても力量が変わらなければその会社で働き続ける甲斐も増していかないでしょう。教育機会はもとより、定期的に面談をして希望の業務を聴いたり、新たなことに挑戦させるなども重要です。

もう1つの側面は健康を含む働くサポートです。適正な給与や評価・処遇などもそれにあたります。これまでの5回で森教授より詳しい解説がありましたので再度確認されることをお勧めします。ここではそれに加え、イキイキと働くために留意したいことに触れます。

(1) 仕事の要求度・コントロール・サポートのバランス(JDCS モデル;Job Demand-controlsupport Model)
これは、難しい仕事ほど、それと共に仕事上の裁量権や自由度を与えること、そして上司や同僚がサポートを提供することが重要という説です。

(2) 努力・報酬のバランス(ERIモデル;Effort/Reward Imbalance Model)
これは、仕事の遂行のために行われる努力に応じた報酬を用意することが重要という説です。ここでいう報酬とは金銭や昇進のみならず、「褒められる」「表彰される」なども含みます。

これらがアンバランスだと大きなストレス反応が発生するというものです。

こうして組織と個々が、そして個々同士が互いを高め合い大切にしあうことを通じ、組織は「単に個の寄せ集めとしての集団」を超えた「チーム」となり、より生産性も競争力も向上することでしょう。

こうしたことは、例えば「グループダイナミクス」「組織開発」といったキーワードでさまざまな書籍も出されていますのでご参考にされてください。

4.まとめにかえて

ここまで述べてきたように、従業員を大切にするということは、単なる「義理人情」ではなく、経営活動そのものであると言えます。単に採用できたから、金銭的に厚遇しているから、というだけでは「引きとどめる」には不十分です。他社や労働市場がどのような流れにあるかを敏感に察知し続けないと、ある朝、長年信頼してきた優秀な社員から、「辞めさせていただきます」という申告がないとも限りません。

もちろん、組織や部門の働かせ方、安全や健康への配慮の不足から病気やケガが続出するなど論外ということは言うまでもありません。

どんな採用広告、商品広告より、従業員自身による会社評価がなによりの企業PRだと考え、人事労務施策に取り組まれることを希望します。

前述のとおり、人が集まり、そして健康でなければ、工場は回らず、店は開けず、物は売れず、配達はできず、企業は立ちいかないのです。

企業の存続のためにも健康経営の推進をお勧めします。

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※健康経営は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。

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