
最近、いろいろな企業の皆さんと話をしていると、最近、なかなかいい人が採れないという話を聞きます。中小企業で人が採れないという話は以前からもあったという人もいますが、急速に人材の需給状況は悪化しているようです。
有効求人倍率の最近の変化を調べてみると、2018年5月は1.6倍まで上昇しており、1990年~1991年の1.4倍というバブル期の数字を超えています。このような人材不足の背景には景気の拡大がありますが、バブル期と異なり、事態はさらに悪化すると予測される大きな要因があります。それは、急速な生産年齢人口の減少です。生産年齢人口とは15~64歳の人口を指しますが、1995年に8700万人いた人数が、2020年には約7300万人、2030年には約6800万人、2040年には約5800万人と減り続けることが予測されています。これでは、人材が採れないわけです。
その対策として考えられるのは、1今働いている人が長く働いてくれるようにすること2外国人労働者を採用すること、この2つです。外国人労働者といっても、様々な規制がありますし、現在は経済格差によって喜んで来てくれているアジアの人材が、いつまでも今の条件で採れるわけではありません。したがって、今働いている人が長く働けるようにすることはとても大切なことなのです。つまり、これまで以上に、“人”は企業の財産、すなわち人財になっていくでしょう。その人財の健康に投資しようとする動きが健康経営なのです。

健康経営が、「人が長く働いてくれるようにすること」に貢献できるのは、二つの道筋があります。一つは、病気で仕事ができなくなる人を減らすことです。日本人の主な死因である、がんでも、脳卒中でも、心筋梗塞でも、歳を取れば、その発生は増えていきます。そして、それが原因で仕事をできなくなります。一方で、これらの病気は生活習慣病であり、生活習慣の改善でかなり予防できるものなのです。病気だけでなく、体力も重要で、体力低下を引退の理由にする人もいると思いますが、体力も生活習慣次第なのです。健康経営によって従業員が健康になれば、それだけ病気や体力低下で仕事を辞める人が減るのです。
もう一つは、健康経営の付随効果です。健康になるための取組には、健康的な食事への配慮、運動習慣を身に着けるための取組み、間接喫煙から守られる環境づくりなど、いずれも働きやすい職場環境を作ることに繋がります。そもそも、従業員が健康になってほしいという経営者の想いが伝わることや、従業員の間で健康づくりが話題になることは、職場内の良好なコミュニケーションを生み出します。さらに、外部から健康経営優良法人などの認定を受けたら、「そんな会社で働いてみたい」という応募者が増えたという話も聞きます。

現在の健康経営の動きは、安倍政権のもとで、政府主導で展開されてきたものです。健康経営が政策として展開されているのは、すでにお話をした企業にとっての人材の話と同じです。すなわち生産年齢人口が急激に減少する日本において、人材を確保し、社会保障制度を成り立たせるために、この政策が行われているのです。
具体的には、経済産業省が主体となり、東京証券取引所の健康経営銘柄の指定、日本健康会議の健康経営優良法人の認定、東京商工会議所の健康経営アドバイザー育成などの取組みが行われています。このうち、健康経営優良法人は、大企業部門と中小企業部門で異なる評価方法を取っていますが、一定の条件を満たした企業を優良法人として認定するもので、2018年は大企業部門541法人、中小企業部門776法人が認定されています。また、ノウハウが不足する中小企業に向けて、健康経営のアドバイスを行う人材の養成を行っています。
このような政府主導の動きは、予想以上にインパクトがあり、健康経営を推進する民間団体や地方自治体の動きに結び付き、自治体独自の健康経営の認定や表彰などの制度を開始する都道府県が増えています。さらには金融機関の低利融資や保険会社の保険料の割引などに広がっています。

なぜ、会社が個人の健康のために時間やお金を投資しなければならないか、それは人に関わる経営課題の解決に繋がるからだと考えてみられてはどうでしょうか。
次回は、健康経営によってどのような会社ができるのか、そのイメージを掴んでいただきたいと思います。