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第2回 「新型コロナウイルス感染症発生時等の事業所の対応」

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第2回 新型コロナウイルス感染症発生時等の事業所の対応

【執筆:五十嵐 侑(いがらし ゆう)先生】東北大学 産業医学分野教室 

1. 新型コロナウイルスに感染した従業員への対応

(1)初期対応 

皆さんの事業所では、職場のメンバーに感染者が出た場合の対応は定まっていますでしょうか。事業所の中から新型コロナウイルスに感染した方が出た場合には、原則として保健所等の指示に従い対応することになります。保健所から濃厚接触者の範囲や、消毒などについての指導があります。

保健所との対応を円滑にするために、連絡窓口担当者を定めておいたり、感染者の在籍する部署のフロアの見取り図などを準備しておくとよいでしょう。しかし、地域や流行状況などによっては具体的な指示が得られがたい場合も生じるかもしれません。その様な事態に備え、職場内で、事業者は独自に対応手順として、濃厚接触者となる者の考え方や、休ませ方、消毒方法を定めておくとよいでしょう。(参考情報1)
(補足)川崎市中原区のホームページに従業員等に新型コロナウイルス感染が確認されたときの対応や、接触者のリストアップ表のExcelデータが掲載されていますので、ご参照ください。(参考情報2,3)

(2)職場復帰の考え方

基本的には、主治医などからのアドバイスに従い、体調を確認しながら職場へ復帰をさせてください。 専門家の学会や、海外のガイドラインでは、次の①および②の両方の条件を満たすことが職場復帰の目安となります(表のケース1参照)。
 ①発症後に少なくても 10日が経過している
 ②薬剤*を服用していない状態で、解熱後および症状**消失後に少なくても3日が経過していること
   *解熱剤を含む症状を緩和させる薬剤
     **咳・咽頭痛・息切れ・全身倦怠感・下痢など

なお、職場復帰の際に医療機関に「陰性証明書や治癒証明書」の発行を求めてはいけません。これは、PCR検査などによって新型コロナウイルス感染症の陰性の証明は難しいことや、医療機関に負担をかける可能性があるためです。(参考情報4,5)

(3)個人情報やこころのケアについて

感染者の個人情報を不必要に広めることはやめましょう。また、感染したことを執拗に責めてはいけません。新型コロナウイルス感染症は無症状でも他人に移す可能性があり、感染のリスクをゼロにすることはできませんし、誰もがいつかかってもおかしくはありません。感染した従業員を責めることは、その方を追いつめることにもつながりますし、メンタルヘルス不調になってしまったり、退職してしまう懸念もあります。このようなときだからこそ、お互いの配慮が重要です。

2. 濃厚接触者などの感染が疑われる従業員への対応

(1)初期対応

従業員が濃厚接触者と判断された場合は、保健所の指導によって初期スクリーニングとしてPCR検査が行われます。検査結果が陰性だった場合でも、その方が感染していないとは必ずしもいえません。「感染が確定した方」の感染可能期間の最終曝露日から 14 日間の健康観察が指示されます。(感染可能期間とは、コロナウイルス感染症を疑う症状を呈した2日前から隔離開始までの期間)

(2)健康観察期間の考え方

14日間の健康観察期間は、感染拡大防止の観点から、在宅勤務や自宅待機とすることが望ましいでしょう。どうしても出勤せざるをえない場合は、毎日の健康観察、マスクの着用、他人との距離を 2m程度に保つなどの感染予防対策を徹底して行い、体調不良を認める際には出社はさせないことが特に重要になります。濃厚接触者の休ませ方や、賃金についてもあらかじめ定めておくとよいでしょう。賃金面での支援を行うことで、休みやすい環境を整備することは感染拡大防止の上でとても重要になります。

3. 発熱や風邪症状を認める者への対応

(1) 初期対応

現在の流行状況からは、発熱や風邪症状を認める場合は、新型コロナウイルス感染症の可能性を常に念頭におく必要があります。PCR検査が陰性であっても、医療機関を受診しなかった場合でも、新型コロナウイルス感染症を否定することはできません。朝夕、体温を測定するなど健康チェックを行わせ、発熱や風邪症状がある場合は出社をさせないことが重要です。また、発熱がなくても体調不良を自覚する場合も同様に出社をさせないようにしましょう。事業所内で勤務中に発熱した場合は、マスクを着用させたうえで速やかに帰宅させましょう。

(2)職場復帰の考え方

次の①および②の両方の条件を満たすことが職場復帰の目安となります(表のケース2参照)

①発症後に少なくても8日が経過している
②薬剤*を服用しないで状態で、解熱後および症状**消失後に少なくても3日が経過していること
*解熱剤を含む症状を緩和させる薬剤 **咳・咽頭痛・息切れ・全身倦怠感・下痢など

表:職場復帰の考え方

4. 職場の消毒

(1)平時からの職場環境の消毒

職場の不特定多数が触れるドアノブ、手すり、エレベーターのボタンなどを定期的に消毒しましょう。また、不特定多数が利用するトイレ(床を含む)も定期的に消毒しましょう。消毒は最低でも 1 日1回行うことが望ましいです。(可能であれば複数回の実施が望ましい)。共用の机、椅子、パソコン、電話機、プリンタ・複合機などは、使用毎に消毒することが望ましいです。

(2)感染者(疑い例や感染を否定できない場合を含む)が発生した時の消毒

保健所からの指示がある場合には、その指示に従い職場の消毒を実施してください。 保健所からの指示が無い場合には、以下を参考にして消毒を行いましょう。消毒の対象は感染者の最後の使用から 3 日間以内の場所とすること

  • 消毒作業前には最低1時間以上の十分な換気を行うこと。
  • 消毒範囲の目安は、感染者(疑い例や感染を否定できない場合を含む)の執務エリア (机・椅子など、少なくとも半径 2m程度の範囲)の他に、使用があった場合にはトイレ、喫煙室、休憩室や食堂などの消毒を行うこと
  • 適切な個人保護具(マスク、手袋、ガウン等)を用いること。

(3)消毒薬

食器・手すり・ドアノブなど身近な物の消毒には、アルコールよりも、 熱水や塩素系漂白剤、及び一部の洗剤(界面活性剤)が有効です。「ご家庭にある洗剤を使って 身近な物の消毒をしましょう」や、「有効と判断された界面活性剤を含む家庭用洗剤のリスト」などの資料も参考にしながら、職場を定期的に消毒しましょう。なお、消毒は拭き取り(清拭)を基本とし、消毒剤の空間への噴霧や燻蒸は行わないようにしてください。逆に人の健康に有害になってしまう可能性もあります。「次亜塩素酸水」の空間噴霧についても十分な効果は確認できていませんのでご注意ください。 (参考情報5~9)

【参考情報】

1) 職域のための新型コロナウイルス感染症対策ガイド第3版(8月11日) 日本渡航医学会、日本産業衛生学会

2)従業員に新型コロナウイルス感染が確認されたときは 川崎市中原区

3)企業等で新型コロナウイルス感染症患者が発生した時の対応について新宿区保健所

4)感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律第 18 条 に規定する就業制限の解除に関する取扱いについて厚生労働省

5)新型コロナの陰性証明はできません。コロナ専門家有志の会

6)新型コロナウイルスの消毒・除菌方法について厚生労働省・経済産業省・消費者庁特設ページ

7)「新型コロナウイルス対策 身の回りを清潔にしましょう。」厚生労働省

8)「ご家庭にある洗剤を使って身近な物の消毒をしましょう」経済産業省・製品評価技術基盤機構

9)有効と判断された界面活性剤を含む家庭用洗剤のリスト(2020年7月13日版)

10)「新型コロナウイルス感染症対策 消毒や除菌効果を謳う商品は、目的に合ったものを、正しく選びましょう。」消費者庁・経済産業省・厚生労働省



 

 


【参照】インデックス