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第3回 with コロナ時代のメンタルヘルス対策

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第3回 withコロナ時代のメンタルヘルス対策

【執筆:小橋 正樹(こばし まさき)先生】 産業医 株式会社oneself. 代表取締役 

はじめに

新型コロナウイルスの感染拡大防止を主な目的として始まった「新しい生活様式」。しかし、企業活動による健康課題は感染症だけではなく多岐にわたります。長時間労働、健康診断、ストレスチェック、両立支援、など、これからは新しい生活様式を前提とした本来の健康施策を実行していかなくてはなりません。その中で、今回は在宅勤務を含むリモートワーク下でのメンタルヘルス対策について取り上げていきたいと思います。

1.在宅勤務のメリットとデメリット

本来、在宅勤務は働き方の多様化という文脈で語られるものでしたが、今回は感染拡大防止を主な目的として十分な準備もないまま多くの企業で導入が進められました。 社員の在宅環境(椅子、机など)について企業が気にかけることはもちろんですが、今回は主にメンタルヘルス面について触れていきます。 在宅勤務によるメリットとデメリットは下記のようにまとめられます。
 
在宅勤務のメリットとデメリット(例)

(出典)

なお、産業医科大学産業生態科学研究所産業保健経営学のホームページでは、新型コロナウイルス流行に伴い急遽はじまったテレワークの健康影響についての調査ならびに検討結果が公表されています。

2.社員の体調不良アラートに気づくために必要なこと

社員のメンタルヘルス不調は「いつもと違う」と自他共に気づいて早めに窓口へつなぐことがポイントです。今回は、周りが気づく「いつもと違う」サインについて下記にまとめます。


(出典)筆者作成

しかし、出社が前提であれば顔色や勤怠の乱れなどである程度把握できるものの、リモートワーク下においては「メールの返信スピードが遅くなる」「締め切りを守らなくなる」など、オンライン上のパフォーマンスでしか社員のメンタルヘルス不調に気づくことができません。そのため、些細な変化のサインを察知する力がこれまで以上に求められるため、「いつもと違う」と気づくためには普段からのコミュニケーションを見直す必要があるでしょう

3.企業でできるメンタルケア

リモートワーク下において、企業ができるメンタルケアについていくつか取り上げます。

(1)社員が気軽に相談できる環境をつくる

上司、メンター、人事、産業保健スタッフなどに社員が気軽に相談できる環境を整えましょう。相談できる環境があれば、孤独や不安の解消につながります。例えば直属の上司だと「1日のうちこの1時間だけは、いつでもオンライン通話をしてきて良い」などといった時間を作ってみてはいかがでしょうか。
また、オンラインの場合は対面に比べると雑談が簡素になりやすいため、敢えて雑談タイムを入れることで社員の心の余裕が生まれることもあります。
一方、オンラインのランチや懇親会も人気ですが、参加や退出を任意にして終了時間を厳守するなどのルールを徹底しないと余計にストレスが溜まりかねないため注意が必要です。

(2)役割を明確にする

企業によって適切な組織体制やフローは異なりますが、リモートワークを取り入れる場合はできるだけ社員個人の役割やチームの目標が分かるようにしておきましょう。社員が動きやすいだけでなく、管理側も社員のパフォーマンスを把握しやすくなるので、健康状態やモチベーションの変化にも気づきやすくなります。
また、「あなたには何を期待しているのか」が明確になることで、リモートワークであっても「自分は会社に必要な人間なんだ」と社員の所属欲求や承認欲求が満たされやすくなることが期待できます。

(3)情報格差をなくす

リモートワークでは、直接会っている人同士で勝手に話が進んで、周りが置いてけぼりになるケースが多く見受けられますが、情報の透明性がないと社員に不満や不安が溜まってしまい結果的に生産性が低下します。情報の開示ルールや共有方法などについて検討しましょう。
特に健康に関連する意思決定については、衛生委員会など社員と意見交換する場を持つなど、意思決定のプロセスを明確・丁寧に行うことで社員からの信頼も得られやすいのではないでしょうか。

4.ストレスチェックの活用

組織の状態を知るにあたり、50人以上の社員を有する企業(正確には事業場)に義務づけられている ストレスチェックの集団分析活用がひとつの有効策だと考えます。もちろんストレスチェックは新しい生活様式下での特殊な社会情勢を考慮した設計ではありませんが、前回までの結果と比較を行い変化を見ることでどれ程コロナ禍の影響があるのか仮説を立てることは可能です。
職場の現状と照らし合わせたうえで、改善すべき事項がある場合はメンタルヘルス対策の一環として取り組みましょう。

おわりに

今回のコロナ禍において企業がどれだけ社員のことを想って誠実に対応したかが、社員からの企業評価に後々大きく影響すると予想されます。一方、どのような意思決定を行なったとしても全社員が賛成してくれるわけではありません。経営者や担当者の意思決定によるストレスを緩和するという意味でも、ひとつの選択肢として産業医のサポートやコンサルティングを是非ご検討ください。


【参考情報】(文中のリンク先です)

職域のための新型コロナウイルス感染症対策ガイド一般社団法人日本渡航医学会、公益社団法人日本産業衛生学会

新型コロナウイルス流行に伴い急遽はじまったテレワークの健康影響産業医科大学産業生態科学研究所産業保健経営学ホームページ




【参照】インデックス