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第1回 「新型コロナウイルスの特徴と感染拡大防止」

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第1回「新型コロナウイルスの特徴と感染拡大防止」  

【執筆:平岡 美佳(ひらおか みか)先生】大日本住友製薬株式会社 統括産業医

1. 新型コロナウイルス感染症とは

コロナウイルスのひとつである「新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)」によって生じる感染症を「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)」と言います。 一般的には飛沫感染、接触感染で感染します。閉鎖した空間で、近距離で多くの人と会話するなどの環境では、咳やくしゃみなどの症状がなくても感染を拡大させるリスクがあるとされています。(WHOは、一般に、5分間の会話で1回の咳と同じくらいの飛沫が飛ぶと報告しています。)

  • 「飛沫感染」とは:感染者の飛沫(くしゃみ、咳、つばなど)と一緒にウイルスが放出され、他の人がそのウイルスを口や鼻などから吸い込んで感染することを言います。
  • 「接触感染」とは:感染者がくしゃみや咳を手で押さえた後、その手で周りの物に触れるとウイルスがつきます。他の人がそれを触るとウイルスが手に付着し、その手で口や鼻を触ることにより粘膜から感染することを言います。WHOは、新型コロナウイルスは、プラスチックの表面では最大72時間、ボール紙では最大24時間生存するなどとしています。
一般的に、肺炎などを起こすウイルス感染症の場合は、症状が最も強く現れる時期と、他者へウイルスを感染させる可能性の最も高い時期とがほぼ一致すると考えられています。しかし、新型コロナウイルスでは、症状が出現する前から感染を広げるおそれがあり、無症状の感染者(無症候感染者)からもウイルス感染が広まることが報告されています。この「無症状の時期にも他者へウイルスを感染させる」という特徴は、新型コロナウイルス感染症の予防における重要なポイントです。

2. 企業で実施すべき新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止策

(1) 体調不良時に休みやすい環境の整備

皆さんの職場では、軽度の発熱や咳といった軽い症状しかない時に、仕事を休むことができるでしょうか。体調不良を押して無理にでも出勤し働くことを良しとする文化はないでしょうか。すでに症状の出ている感染者が出勤せざるを得ない状況がもし存在するのであれば、早急に改善するべきです。

どれほど気を付けていても、感染してしまうことは誰にでも起こり得ます。従業員の誰もが、体に異常を感じた時に速やかに報告し、休養をとることができる環境の整備は、職場における感染症対策の大前提です。

(2) 3密の回避

3密とは、(1)密集:多数が集まること、(2)密接:間近で会話や発声をすること、(3)密閉:換気が悪いこと、の3条件を指します。 これらの条件が重なるほど、感染のリスクが高まります。WHOでは、この3つを指す英語の頭文字が「C」であることから、「3つのCを避けよう」と呼び掛けています。 「Social distancing:社会的距離」、最近では「Physical distancing:身体的距離」とも言われますが、人が同じ場所に集まる状況を避けることが何より重要です。

職場において3密を回避するためには、在宅勤務等が最も効果的ですが、様々な制約により広く実施することができない場合もあるでしょう。その場合は、厚労省が提供している「職場における新型コロナウイルス感染症の拡大を防止するためのチェックリスト」を活用しながら、少しでも3密の状況を少なくできるように対策してください。

出社人数を限定する、人との距離を2m以上確保する、十分な換気を行う、3密の生じる業務をできるだけ短時間・低頻度にするなど、できることを着実に実施することが大切です。換気については、「換気の悪い密閉空間を改善するための換気の方法(厚生労働省)」を参考にしてください。

また、屋内喫煙所が職場にある場合は、閉鎖・撤去もぜひ検討してください。喫煙所は、マスクを外して手を口元に持っていき、タバコの煙と共に空気を深く吸ったり吐いたりする特殊な環境です。喫煙所では「密」の状態が生じやすく、感染拡大の温床となりかねないことが懸念されます。さらに、喫煙者は非喫煙者と比較して新型コロナウイルスへの感染で重症となる可能性が高いことが明らかになっています。

従業員の健康を守るため、この機会に禁煙を勧めてみてはいかがでしょうか。

(3) 咳エチケット、マスク着用

発熱等の症状があるかどうかにかかわらず、こと新型コロナウイルスに関しては、マスク着用を含めた「咳エチケット」が重要です。 すでに触れた通り、通常の会話でも飛沫が飛ぶことや、無症状で気づかないうちに他者にウイルスを感染させてしまうことがあるためです。特に、人と人との距離を十分確保できないときや、換気の悪い場所での会話や発声が避けられないときには、マスクの着用や咳エチケットにより他者への感染拡大を防ぎましょう。

マスクがない時に咳やくしゃみをする場合は、口元を袖の内側やハンカチ・ティッシュなどでしっかり覆います。手のひらを使う方法は接触感染の原因となりますのでお勧めしません。もし手を使ってしまったら、他の場所に触る前に流水と石けんで手を洗いましょう。

(4)手指衛生(手洗い、手指消毒)

手洗いは、非常に有効な感染予防策です。ウイルスは粘膜に入り込んで増殖することはできますが、健康な皮膚には入り込むことができず、表面に付着するだけと言われています。つまり、手についたウイルスを目、鼻、口などの粘膜に入れてしまう前に洗い流してしまえば、感染の成立を防ぐことができるのです。 もちろん、手で顔をむやみに触らないことも重要です。
出社時、外出から戻った時、食事前、トイレ後、帰宅時などのタイミングを中心に、こまめに手洗いを実施してください。可能であれば洗顔もできるとなお良いでしょう。


流水だけでもウイルスを物理的に流すことができますし、石けんを使うとコロナウイルスの膜を壊すことができるので、更に有効です。手洗いの際は、指先、指の間、手首、手のしわ等の汚れが残りやすい部位に注意しながら、念入りに30秒以上かけて洗いましょう。「正しい手洗いの方法」をトイレなどの手洗い場に掲示することもお勧めです。

また、流水と石けんでの手洗いができない時は、手指消毒用アルコールによってもウイルスの感染力を失わせることができますので、活用してください。

3. 最後に

最後に、日ごろからの健康管理についても確認しておきましょう。 持病の適切な管理(通院治療や生活習慣改善の継続など)、十分な睡眠と休養、バランスのとれた食事、適度な運動といった、いわば当たり前の健康管理も大切です。

世の中にある病気は新型コロナウイルス感染症だけではありません。新型コロナウイルスを恐れるあまり、別の要因で健康を害してしまうなどということがないように注意したいものです。新型コロナウイルス感染症対策と同時に、従来通りの健康管理にも継続的に取り組んでいきましょう。

新型コロナウイルス感染症対策全般において、信頼のおける情報源(厚生労働省、新型コロナウイルス感染症対策分科会など)から極力最新の情報を入手し、地域における状況(緊急事態宣言の有無や自治体の情報)も踏まえて、対策に取り組んでください。

【参考情報】

1)新型コロナウイルスに関するQ&A(一般の方向け) 厚生労働省

2)新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け) 厚生労働省

3)職域のための新型コロナウイルス感染症対策ガイド第1版  日本渡航医学会、日本産業衛生学会

【参照】インデックス