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第2回 「分析と設計」

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第2回 「分析と設計」

1.前回のおさらい

全国労働衛生週間の施策の1つ柱に従業員教育の教育計画を練るにあたり、教え方のセオリーともいえる、インストラクショナル・デザイン(Instructional Design、教育設計学。以下、ID)のご紹介をしました。
これは、「教育活動の『効果・効率・魅力』を高めること」を重視したものでした。

次に、「うまい教育のプロセス(手順)」を「分析・設計・開発・実践・評価」5つのステップに整理したADDIEと呼ばれるモデルをご紹介しました。
今回はその5ステップの中の前半2項目「分析」「設計」について触れていきます。


2.分析

分析とは、教育を考えるにあたり、「どんな人に」「どこまで」「なぜ」教育するのかをハッキリさせることです。この「ハッキリさせる」がこの連載の、そしてIDのキーワードです。以下、1つずつ見ていきましょう。

(1)「どんな人に」~対象者分析

あなたが行おうとする教育の受講者はどんな方々なのでしょうか。例えば、「熱中症」の教育であればどうでしょう。少し気の利いた小学生でも知っているこの言葉です。

まず、既にどんなことを知っているのか。これはこれまでどんな情報にふれてきたか、教育を受けたかにも関わります。昨年度と同様の教育内容であれば「既に聞いた!」ということになりましょう。
工場勤務でも例えば精密機器のラインなどでは、夏場でも25℃に室温が保たれているかもしれません。
テーマに関する学習意欲はどうでしょう。同じ職場内で同僚が熱中症に倒れ、重篤な状況になった経緯などあれば、関心は高いかもしれません。
こうした受講者のありようを明確にすることを「対象者分析」と呼ぶことがあり、上例でもお示ししたように、表1のような項目を明らかにすることをお勧めします。
これにより、教育内容の要否のほか、難易度、言葉の補足説明の要否などが決まってきます。

表1 対象者分析の例

項目(テーマに関し)
 ポイント
 何ができる
 これまでの教育・業務経歴など
 どんな日常か
 業務内容、就労環境、通勤・生活の様子
 関心や受講意欲
 自身との関連性、トピック

(2)「どこまで」~ゴール分析

⑴で明らかにした対象者に、どこまで教えるかを定義するのが「ゴール分析」です。ここで注意すべきは、ゴールに達成したか否かを「ハッキリさせる」ことです。

例えば、「熱中症の基本を知る」と言うゴールは、何がどうなっていればゴールに達成したと言えるのか、曖昧ですね。そこで、誰が見ても達成したかどうかがわかるように「何を」「どんな条件で」「どれくらい」の3要素でゴールを作ることが肝要です。
表2は、熱中症教育を上記の3要素で記述した例です。

 

表2 ゴール分析の例
項目(テーマに関し)
例 
 どんな条件で(評価基準)
 テキストを見ながら 
 どんな条件で(合格基準)
 3つ以上 
 何を(目標行動)できる
 熱中症の兆候をいえる(書ける) 

(3)「なぜ」~実施理由・目的

テーマ・対象者・ゴールを決めたら、振り出しに戻って実施の目的を確認してみましょう。視点は、「組織にとっての必要性」「本人にとっての必要性」の2点です。

安全衛生週間を含め企業内研修は、組織目標に貢献することが肝要です。その視点で再度、「なんのためにこの研修を行うか」「なぜその人たちにそのゴールに向けた研修をせねばならないか」を確認・検討してみましょう。

例えば、熱中症の教育は重要ですが、定められた条件の中で、もっと緊急・重要なテーマもあるかもしれませんし、対象者の選定を変えた方がよい場合もあり得ますね。

3.設計

設計は、上記2.の「分析」で決めたことを実現するのに、「何(どんな項目)を」「どんな順番で」「どのように」教えるかを決めることです。以下順に考えていきましょう。

(1)「何(どんな項目)を」~課題分析

入口に立った受講者が、ゴールと言う出口にたどりつくために、どんなことが必要かを明らかにするものです。
ここで重要なのは、講師や主催者が「教えたいこと」ではなく、受講者が「知るべきこと」のみに絞ることです。

よく陥りがちなのは、講師がテーマやゴールには関係ない自分の関心事や苦労話に傾注するパターンです。そのことが受講者の学習意欲や理解に結びつけばよいのですが、単に「語りたいだけ」ということを散見します。十分に注意されてください。

(2)「どんな順番で」~系列化

教える項目が決まったら、次は、教える順番です。

A、B、Cという項目があり、前後関係への配慮が必要かどうかを確かめてみてください。わかりやすい例が四則の計算です。北海道の地理と九州の地理はどちらから教えても不都合はなさそうですが、掛け算より前に足し算を教えないと不都合はありそうですね。あなたが企画するプログラムはどうか、是非確認ください。

(3)「どう教えるか」

さあ、⑴教える内容、⑵順番を決めたら、次は教え方です。最近は、アクティブラーニングと言って、講師が延々と話し、受講者がそれをただ聞いたりメモを取るだけでなく、アクティブ=能動的に学ぶ工夫が望ましいとされています。

例えば、質問をする、書かせる、話し合いをさせる、発表をさせるなどがそれにあたります。

4.まとめにかえて

今回は、「分析」と「設計」に触れました。コロナ禍で集めることが難しく、遠隔で行う場合もそのステップ・考え方は変わりません。むしろ、対面でできたことができなくなる分、こうした事前の練りこみがより重要になってきます。

入念なご準備を期待します。




 

【参照】インデックス