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専門家が伝える ケースで学ぶメンタルヘルス対策第1回

上司からハラスメントを受けたという従業員のケース

ケース
 ある日、従業員35名のOA機器販売会社の管理課長あてに、中途入社12ヶ月目、27歳男性営業職、前橋から、「上司によるパワハラが原因でメンタル不調となったため休職する」との書面が、医師の診断書と共に郵送されてきた。
同社の営業職は単独で新規開拓が求められるハードなものであり、1年に何人も辞めていくのは確かである。しかし、パワハラをしたとされる上司・山田課長は、口調が厳しくもあるが、部下からはむしろ慕われ、営業成績も順調に上げている、有能な管理職である。
一方の前橋は、前職では事務職で、「人見知りを克服したい、営業ができるようになりたい」と転職してきたが、人見知りの克服は難しく、先輩は時に一緒に営業に行くなど助けてはいたが、成績が上がらず悩んでいたようであった。最初の頃は「ハイ!」と元気な返事だったのが、最近では小さな声であり以前に比べて元気がなく飲み会への参加も減っていた。
数日前の朝礼で前橋は、上司に「入社してそろそろ1年だろう!何をやっているんだ!」などと厳しく攻め込まれていた。その日を境に欠勤が続き、本日書面が届いたのである。
留意すべきポイント
○「営業成績が上がらず悩んでいたようであった」ことに対して、
 時に先輩・上司も支援していたようだが、それらの対応は適切だったか。
○返事が小さくなったり、飲み会への参加が減っていたことを、
 「気づいていた」のであれば、会社(上司、同僚等)は何らかの対応をしたのか。
社労士からのコメント
本山 恭子 (もとやま きょうこ)先生 本山 恭子 (もとやま きょうこ)先生
本山社会保険労務士事務所 代表
特定社会保険労務士、産業カウンセラー
 このケースでは、日頃の前橋さんが成績不調で悩んでいたことを周囲も気づき、時に先輩・上司も支援しています。しかし、返事の様子や飲み会への様子など、前橋さんの助けには繋がらず、メンタルヘルス上のシグナルだったと思います。
 会社もかねてより新人教育を行い、この方法でうまくいっていたのでしょう。しかし、前橋さんには届かなかったのかもしれません。もちろん、会社は必ずしも前橋さんに合わせる必要はないともいえます。しかし、前橋さんの気持ちや考えも時に聞き、一緒に考えるなどの時間があれば、上記のような客観的観察だけではなく、もう少し踏み込んだ関わり合い、指導ができ、前橋さんのメンタル不調を防ぐことができた可能性があるのではないでしょうか。早期退職が多い中、1年近くがんばってこれたのですから、根性のある人である可能性もあります。
 勤怠を含め「今までと違う」様子が見えた時には、是非「何かあったか?話を聞くよ」とその人の気持ちをまずは聴いて、その上で対応を考えていただけたらと思います。
医療職からのコメント
森本 英樹 (もりもと ひでき)先生 森本 英樹 (もりもと ひでき)先生
森本産業医事務所 代表
医師
 社労士の先生からもあるように、メンタルヘルスの課題は早期発見が重要になります。厚生労働省の指針(労働者の心の健康の保持増進のための指針)では、一次予防(不調を未然に防止)、二次予防(早期発見と適切な措置)、三次予防(不調者の職場復帰支援)に分けられ、本件は二次予防の事例です。
 前橋さんが休業になった時点で会社から本人に状況確認の連絡を入れなかった点、産業医としては気になります。もしかすると本人は『会社から無視された』『いなくても一緒と思われている』など悪感情を増幅させることになったかもしれません。会社を休む時は事前に会社に連絡を入れることは当然ですが、メンタルヘルス不調になった場合、連絡ができないことがよくあります。メンタルヘルス不調が最悪の形になると、失踪や自殺なども考えられますので、普段連絡を入れて休みを取っていた人が連絡なく休んでいる場合には、早期に会社から本人に連絡を取ることは必須と思います。
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