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こころの“あんしん”ゼミナール Vol.2 シンポジウム報告

メンタルヘルス不調を出さない職場づくりを目指すうえで大切なのは

大山事前にいただいた質問で代表的なのが、メンタル不調者を出さないためにどのような点に力を入れたらよいか、というものです。いかがでしょう。

古山職場にはいろいろな人がいて、中にはストレスに弱い人もいます。私の経験ですが、そういう人が直属の部下になると分かったとき、私はその人を徹底的にマークし、ことあるごとに声をかけ、「あなたのことを気にかけているんだよ」、というメッセージを発し続けました。すると自己肯定感が高まったのだと思います。いつも休みがちになる時期にも元気でした。管理職が心理的にサポートすることが重要だと思います。

森本職場全体のストレスを下げていくことが大切です。例えばストレスチェックの組織診断で、部署ごとの総合健康リスクのスコアが全国平均100のところ115と、ややリスクが高かったとします。「うちの部署は忙しいから仕方がない」となりがちですが、このときスコアだけでなく、仕事の満足度もあわせてチェックすることを推奨します。忙しいけれど仕事の満足度が高い場合は頑張れる可能性がありますが、忙しい上に満足度が低い場合、従業員が燃え尽きかかっている可能性が高いなどと、考えることができます。

茅嶋ストレスに対して脆弱性を持っている人に、なぜストレスに弱いんだと喝を入れてももっと弱くなってしまうことだってある。まずストレスに対しては、個々人で差があることを理解することが大切です。とくに最近の新入社員など、3カ月で適応障害になってしまう場合もあります。入社してきた人材は大切ですから、粘り強く育成していかなくてはなりません。

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うつ病で休業中の社員へのサポートで心がけるべきこと

大山予防が大切ということは分かっていて対策を取ってはいても、うつなどで休業者が出た場合、どんな点に注意してサポートするべきかという質問もありました。

森本休んでいる間、放っておかないことです。そうしないと、休業者は「見捨てられ感」を抱いてしまいます。会社は「回復して戻ってほしい、職場は元気になって戻ってくるのを待っている」とメッセージを伝えてください。もう一つ、休業者は“クビ”になりはしないか、お金の心配を持っているものですから、「休める期間はここまで」「傷病手当はいくら出て、申請からどれくらいで入金されるのか」など、お金の面の不安を取り除いてあげてください。

大山行政ではそうした事例が発生したときにサポートはしているのですか?

古山行政は個別の企業のサポートは行いませんが、労働者健康安全機構などで、そうした相談に対応する場所や専門家の紹介を行っています。

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発達障害の人にどう対処したらいいか分からない

大山せっかくの機会ですので、会場のみなさんからの質問をお受けします。いかがでしょうか。

質問発達障害の疑いがある従業員がいて、本人にどのようなアドバイスをしたらよいか、また、周りの人もどう対応していいか分からないという場合、どうしたらよいのでしょうか。

茅嶋発達障害は、本人に自覚がない場合もあり難しいですね。障害ではあっても病気ではありませんし・・・。その方の家族に相談したり、適切な診断を受けていただくなり、本人に気づいてもらう必要があるでしょう。いずれにせよ職場ぐるみで関わる必要があるでしょうね。

森本発達障害とひとことでいっても、いろいろな症状がありますので、一概には説明しづらいところがあります。 困っているということを隠さずに相手に伝えることでしょうね。「ここはミスが多い」とか、「こういう場合にちょっと言い過ぎて相手を傷つけている」とか、うまく伝わる方法を探りながら、フィードバックすることが必要ではないでしょうか。

古山たとえ発達障害の人であっても、部下に関心を寄せて育てるのが管理職の役目。どんな障害を持っていても、排除するのではなく、成長をサポートする、一緒にいられるような多様性のある職場をつくっていくことが大切だと思います。

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仕事のできるパワハラ上司の処遇に悩む

質問古山先生のような立派な管理職ばかりではなく、大企業であれ中小企業であれ、中にはなんでこんな人が管理職なんだろうと思うようなパワハラ上司がいます。どうしたらよいでしょう。

古山そういう人を管理職にしないことに尽きますね。以前も、5人の組織で4人がうつ病になり自分も体験したが、人事を変えることができないという相談を受けたことがあります。そういう人事政策を取っている限り解決はしない。会社のリスクと判断したら変更しなくてはダメだとお答えしました。

茅嶋このようなブラックな管理職の特徴は、支配力が強く他人を従属させようとし、自分の意に従わない人は排除しようとすること。そういう管理者に権限を与えている経営者に責任があります。

森本パワハラする人の中に、能力が高い人も多いのです。そして「自分ができるから他人もできる」と思ってしまう。プレイヤーとしては優秀だった人が、昇進して恐怖政治を敷いて部下を潰してしまう。ストレスチェックで職場のスコアが出るようになると、少しずつ変わっていくのではないかと思いますが、一方で表沙汰にならない限り、休業した人だけの対応でオシマイになってしまう可能性もある。「部下がうつになったのはあなたにも責任の一端がある。今後の指導方法を変えていくように」と踏み込んでいけるかどうかですね。

古山自分自身が鬼軍曹でしたから・・・。ただ、産業カウンセラーになって、部下を強制してやらせるよりも自発性を重んじて相手の力を引き出すほうが、組織として力を発揮することに気づいたんですね。だから、パワハラ上司にも、こういう上司になったほうが仕事がうまくいくと教えることも重要でしょう。

茅嶋リーダーシップについて、Performance(目標達成能力)とMaintenance(集団維持能力)の2つの要素から分析した「PM理論」というものがあります。管理職を分析すると役立ちますので、ネットで調べてみてください。

大山ハイパフォーマーが必ずしもいいマネージャーではないというこの問題は、メンタルヘルスの問題というより、労務管理とか管理職登用など、まさに経営マネジメントの分野ですね。

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ストレスチェックの集団分析で、数字の悪い部署の改善方法を教えて

質問組織診断で総合健康リスクが高い、要注意の部署の職場環境を改善する具体的な施策を教えてください。

茅嶋マニュアル的には、グループワークを実施して、自分たちで問題点を抽出し話し合いなさいということですが、往々にしてそういう職場で話し合いをさせると、ケンカになってしまう(笑)。ただ、現場に行くと、そういうリスクの高い部署はだいたい思い当たる節があるんですね。「あの上司のせいだろう」とか「あそこの仕事はこうだから」などと、原因も分かっている場合がほとんどです。したがって、いかに現場オリエンテッドに考えてもらうかが重要です。産業医がかきまわしてしまうとかえってダメで、現場が自分たちで変える方法を決め、その成果を見える化する、あるいはそれを把握する指標を見せると動きます。

森本職場環境改善で大切なことは「罰ゲームにしない」ということ。「あなたの職場はスコアが130で高いから来年までに改善しなさい」と命じられた管理職はどう感じるか。どうするか。最悪の場合、ストレスチェックの1週間前に「お前たち、ストレスチェックで悪いことを書くなよ」と声をかけかねません。そうなるとスコアは下がるけれど、事態はまったく変わりません。よい職場を作るのはどの職場でも必要なこと。スコアがいい職場も悪い職場も関係なく、この会社、この職場をよくするために何ができるかを検討することが重要です。

古山人事評価みたいにやると管理職は抵抗します。どうしたら働きやすくなるか、そこで働いている人たちに提案してもらうことが大事ですね。「答えは現場にある」んです。

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メンタルヘルス対策の重要性を経営者に説得するために良い方法はありますか

質問メンタルヘルス対策の重要性を経営者に訴えかけるために、数字で訴求できるような処方箋はありますか。

森本現実的にこのスコアを使えば見える化できるというのはあまりありませんね。有給休暇取得率とか私病で休んでいる人の日数など、複数の数字をトレースしていくということでしょうか。最近、従業員の健康が会社の経営にも効果をもたらすという「健康経営」が注目されていて、経済産業省で2014年から健康経営に取り組む一定の基準を満たした企業について、一業種一社を「健康経営銘柄」に選定していますし、厚労省でも企業などの優良取組事例を表彰しています。こうしたものを目指すのも分かりやすいステップでしょう。ただ、健康経営企業として表彰されるのが目的ではなく、数字を理解して共有していく、そのプロセスが重要です。
(※健康経営は、特定非営利法人 健康経営研究会の登録商標です)

古山東京大学の川上憲人先生が実施した厚生労働省の委託研究を受けて、北里大学の堤明純先生が開発した職場のストレスリスクアセスメントツールを使って、職場風土を査定する方法もあると思います。ただし、私はこのツールは「ここがダメ」というチェックなのでちょっと気に入らない。むしろ、本日資料でお配りした「働きやすい職場づくりのための快適職場調査」★https://www.jaish.gr.jp/user/anzen/sho/sho_07.htmlのほうが、職場の強みが分かります。ポジティブに評価することが大切だと思います。

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信頼できる産業医の探し方

質問メンタルヘルス対策を進めるうえで産業医との連携が大切というお話でした。一方で、プロの産業医がかなり少ないということですが、信頼できる産業医をどのように探したらよいでしょう。

森本専門の産業医が見つかればかなり運がいいといえます。まずは医師会などに電話をして紹介してもらう形になると思いますが、そのとき重要なのは、要望と報酬をきちんと伝えること。 毎月訪問してほしいのか、長時間労働者への面談とチェックなのか、本当は訪問してほしいが診療所に行く形でもOKなのか、あるいは復職のサポートなのか。要望をリスト化しておき、できれば担当者が二人ぐらいで訪問する。相談する中で要望に応えてもらえるのか、相性はどうかなど判断しやすくなります。

茅嶋比較的大手の企業にストレスチェックを依頼し、面接指導の先生もお願いしますと産業医契約をセットで依頼するといいかもしれません。

古山やはり優秀なのは、企業の現場のことを分かっている産業医科大学出身の産業医ですね。現場のことを理解しない臨床医の場合、企業とボタンの掛け違いになってしまう場合があります。

大山今回のシンポジウムは、現場経験の豊富な先生方から具体的で実践的なアドバイスをいただきました。活発な議論が続き、まだまだ伺いたいことがあると思いますが、これで終了とさせていただきます。

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2017年2月24日[金] 14:30~16:30
in 法研中部ビル

2017年2月24日(金)14:30~16:30、愛知県名古屋市の法研中部ビルでも「こころの“あんしん”プロジェクト シンポジウム」を開催しました。そこで行われたパネルディスカッションをご紹介いたします。

メンタルヘルス不調者が出た際の会社の対応

質問メンタルヘルス不調者が出た際に、会社としてどこまで対応する必要があるのか。勤怠不良となった時に会社として「それは困る」と伝える必要があると考えているのですが、どのようなスタンスで対応すべきなのでしょうか。

森本メンタルヘルス不調者をゼロにするという目標を立てる職場がありますが、仕事以外でメンタルヘルス不調になる場合も数多くあります。プライベートなメンタルヘルスに関しては、声がけをしっかりして早く発見して対処していくことです。また、会社の就業規則に基づき、会社のスタンスを明確にしていくことが大切だと考えます。

古山就業規則通りに公平に対応することです。メンタルヘルス不調者に対して、ルールを守らせることが管理者の仕事となります。

茅嶋メンタルヘルス不調者に業務遂行性があるかどうかを確認すること。また、業務起因性についても注意が必要です。メンタルヘルス不調の原因が仕事や職場の人間関係に起因するものであれば、解決できるよう努めることが大切です。

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