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第2回 両立支援の具体的な方法(基礎編)

【参照:インデックス】

執筆者 森本 英樹(もりもと ひでき)先生

 森本産業医事務所代表
 医師・医学博士、社会保険労務士、公認心理師、労働衛生コンサルタント(保健衛生)。
 社会保険労務士と公認心理師の資格をもつ産業医として労働衛生に関するコンサルティングや
 嘱託産業医、実務家視点でのセミナー講師、執筆、研究等を行う。
 
コンテンツ3

1.お休みする従業員への対応 


 体調不良で会社を休むことになった従業員に対して、経営や人事労務管理の立場から気になるのは、「いつ復帰できるのか。復帰した後はどの程度働けるのか。」ということでしょう。また、休業している従業員は「休業することで会社をクビにならないか。」「休業中のお金はどうなるのだろうか。」という悩みがあります。この部分をいかに解決できるかが治療と仕事の両立支援のポイントになります。

2.医学情報を集め、今後の経過を予測する

 一般論ですが、会社を1ヶ月以上休業した従業員がいつ職場復帰できるかを調査した研究があり、がんの場合、半年で約6割、1年で約7割が復帰しています※1。とはいえ、これは重症のものから軽症のものまで含まれます。重要なのは、同じ病名であっても重症度や治療の経過が違う点です。例えばがんの場合、手術で完治する場合もあれば、あらゆる治療を行った場合でも1-2年後の生存さえも期待しづらいこともあります。つい「○○病だから心配ない/仕事ができない。」という考えになりがちですが、病名だけで安直に判断することはせずに、病状を主治医に問い合わせるなどして医療情報を集めることが重要です。 

3.休業する従業員への対応

 本人から治療をしながら働きたいことや、一時的に会社を休んで治療に専念したいことについて要望がでた場合、1)会社を休むことができる期間とその療養中の金銭面の説明、2)従業員からの情報では不足する場合に主治医に問い合わせる、3)就業する場合の業務配慮を検討・決定する という流れになります。

4.休業できる期間と休業中の金銭面について

 いつまで休めるかは就業規則によります。多くの場合は、年次有給休暇から病気欠勤、病気休職へと移るでしょう。休業中の金銭補償は、無給になった時点から健康保険から傷病手当金が受給できます。協会けんぽの場合、金額は給料(厳密には標準報酬月額)の2/3で、受給可能期間は通算1年半です。傷病手当金は在職中に申請する必要があり、退職後に申請しても受給ができないので、万一退職を強く希望する場合でも傷病手当金は在職中に申請をするように伝えてください。

5.病状の問い合わせ方法について

 
 主治医への問い合わせ方法は、治療と仕事の両立支援のガイドライン(https://chiryoutoshigoto.mhlw.go.jp/dl/download/guideline.pdf)にあります。本人の同意を得た上で、会社から従業員の勤務情報(勤務時間や休業可能期間、利用可能な制度など)を情報提供したうえで、主治医から現在の症状や今後の治療予定、就業するうえで望ましい就業配慮事項(時差通勤や重量物の制限など)を返信してもらいましょう。就業に配慮が必要な事項は主治医に問い合わせても明確でないこともあり、その場合は治療サポのホームページ(https://www.chiryou-sapo.com/)も参考になります。
 残念ながら復職後すぐの1日8時間、週40時間働くことが難しい場合もあります。そのような場合には時短勤務が可能かなど社内で検討する必要もあります。また、配慮期間が長期(例えば半年以上)にわたる場合には、労働契約の調整が必要な場合もあるでしょう。

 


※1 西浦ら.民間企業における長期疾病休業の発生率、復職率、退職率の記述疫学研究.
https://www.zsisz.or.jp/investigation/179178c10a7c0fac551cc788f9745d921520b636.pdf
【参照:インデックス】

治療しながら働く人にこれからも活躍してもらうために ~中小企業における治療と仕事の両立支援~


第1回 総論 両立支援とは~両立支援の必要性~

第2回 両立支援の具体的な方法(基礎編)

第3回 両立支援の具体的な方法(実践編)