H1

第3回 両立支援の具体的な方法(実践編)

【参照:インデックス】

執筆者 藤瀬 瞳実(ふじせ ひとみ)先生

 産業医科大学医学部卒業、産業医実務研修センターで産業保健全般の経験を積む。
 労働衛生機関に勤務し、嘱託産業医として中小企業における産業保健の基盤づくりに注力。
 現在はIT企業専属産業医、社会医学系専門医、日本産業衛生学会 産業衛生専門医。
コンテンツ3

3回ではこれまでの復習を兼ねて、事例を通してどのように支援が行えるのかご紹介します。

1.かけがえのない従業員からの相談 

食品製造業(従業員数20名)の製造部長であるAさん、55歳男性。製造現場に立ちながら管理業務もこなしてくれる、社長の右腕ともいえる人です。人間ドックを契機に胃がんが発見され、①社長へ相談がありました。「胃がんが見つかってしまい、これから手術が必要らしい。自分はこれからも働きたいし、子供たちの学費も稼がないといけない。どうにか働き続けられないだろうか」。Aさんは部下からの信頼も厚く、会社にとっても必要な人材です。社長はまず、Aさんに「働き続けられるようにサポートしていく」ということを伝えました。Aさんは大変安堵した様子でした。

社長は早速、就業規則と協会けんぽの窓口への確認をしました。この会社では年次有給休暇のあと、病気欠勤1か月間、その後は会社から病気休職の発令となります。病気休職中は本人から協会けんぽに傷病手当金を申請できることを確認しました。

Aさんは、胃の一部を切除し、食道と残った胃を繋げる手術を受けました。数週間後、Aさんから「そろそろ仕事に戻りたい」という連絡がありました。「会社ではどんなことに気を付けたらよいだろうか?」と気になった社長は④主治医の診察に同行しました。主治医からは、
・胃が小さくなっているので一回の食事量を少なくし、食事回数が増えていること
・食後に気分不良やふらつきが起こるかもしれないこと
について話がありました。

社長はAさんとも相談して休憩回数を増やし、しばらくの間立ち仕事を避けるよう配慮しました周囲の従業員にもAさんの同意のもと、Aさんの体調と働き方について説明を行いました。一部の従業員からは「負担だ」という声が上がりましたが、社長のフォローやねぎらいの声掛けにより、職場の雰囲気は悪くならずにすみました。Aさんは徐々に食事内容や体調も通常通りとなり、今も通院を続けながら働いています。

その後、病気になっても働き続けられる会社にしたいと、社長自ら両立支援を推進する方針の表明を行いました。こうした会社の方針は地域でも広まり、その後の採用活動においてもアピールすることができました。
 

2.事例からみる両立支援のポイント

 事例における社長の行動を振り返ってみます。

まずAさんは社長に「病気が見つかったこと、それでも働き続けたいこと」を率直に相談できています。部下が相談しやすい関係性を日頃から築くことが重要です。

病気がみつかった人にとって、今後の仕事、金銭面等、気になることがたくさんあります。会社として「サポートしていく」と安心させてあげることが大切です。

続いて会社や協会けんぽのルールやリソースの確認をしています。安心して休んでもらうために、利用できる資源を把握しましょう。

復職の段階になると、主治医の診察に同行しています。主治医から情報を得る際にはこのように同行することもできますが、第2回でご紹介したように会社から主治医に書面で連絡を取る方法もあります。ただし、いずれも事前に本人の同意が必須です。

復職時には就業上の配慮をしていますが、都度Aさんと相談した上で進めています。見当違い・過剰な配慮をすることでかえって働きづらくなることもあります。

配慮をする際は周囲への声掛けも重要です。本人の同意が得られる範囲で状況について共有し、周囲との不和が生じないように気を付けましょう。

治療をしながら働くための支援方法について、事例を通してご紹介しました。仕事の内容によって、会社で配慮できることとできないことがあります。会社のできる範囲での両立支援を行えると良いでしょう。
【参照:インデックス】

治療しながら働く人にこれからも活躍してもらうために ~中小企業における治療と仕事の両立支援~


第1回 総論 両立支援とは~両立支援の必要性~

第2回 両立支援の具体的な方法(基礎編)