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第1回 総論 両立支援とは~両立支援の必要性~

【参照:インデックス】

執筆者 森本 英樹(もりもと ひでき)先生

 森本産業医事務所代表
 医師・医学博士、社会保険労務士、公認心理師、労働衛生コンサルタント(保健衛生)。
 社会保険労務士と公認心理師の資格をもつ産業医として労働衛生に関するコンサルティングや
 嘱託産業医、実務家視点でのセミナー講師、執筆、研究等を行う。
 
コンテンツ3

1.社長との会話 

私は従業員20人をかかえる会社の社長です。勤続30年のベテラン社員の営業部長から「話がある」というから聞いてみたら、「肺がんだと分かった。手術することになるかもしれない。」と言われてしまいました。
 「タバコ吸いすぎたのか?まあ、会社のことは気にするな。休暇やるからしっかり治して元気になって戻ってこい」と伝えたものの、エース社員が倒れた状況で今後はどうしたものか・・・
 そういえば、総務部長から報告があったけれども中途採用した28歳の社員。病気を隠して入社して、体調が悪くて外回りができない日があると言っているらしい。やれる日はちゃんとやれていると言うものの、この先お客さんからの呼び出しに対応できないと話にならない。こちらも悩ましい・・・


2.両立支援の必要性

 このように病気を持ちながら仕事をする人が増えています。病気を理由として1か月以上連続して休業している従業員がいる企業の割合は、メンタルヘルスが38%、がんが21%、脳血管疾患が12%となっており、仕事を持ちながら、がんで通院している者の数は、32.5万人に上っているとされています。
 以前は治療をしながら働き続けるのは難しいとされていましたが、治療の主体が入院から外来にうつる中で、仕事を続けながら治療を行うことが可能になりました。これを受けて、行政からは「治療と仕事の両立支援のためのガイドライン」が発行され、治療と仕事の両立支援は大企業だけでなく中小企業でも一般的になってきています。


3.中小企業における両立支援

 中小企業は経営的な余力に乏しいことが多く、また従業員1人が担う役割が大きいことから、従業員が働けなくなった場合の影響力は大きくなります。一方で、人不足である現在において欠けた人員をすぐに補充することは難しく、治療を行いながらでも働ける従業員には働いてもらうことで事業を運営していきたいという気持ちがあるのではないでしょうか。つまり働ける人には働いてもらい、病気のために休まざるをえない人には就業規則の範囲内で休んでもらうことが必要です。そのためには、現在の病気の状態と今後の見込みを把握し、会社としてできる範囲の支援策を立て、周囲に過度な負担がかかりすぎない方法を探っていくことが必要になります。なお、詳細は割愛しますが、健康経営優良法人の認定要件の1項目にも仕事と治療の両立支援が含まれています。
 これから3回にわたって、治療しながら働く人にこれからも活躍してもらう方法を解説します。
【参照:インデックス】

治療しながら働く人にこれからも活躍してもらうために ~中小企業における治療と仕事の両立支援~


第1回 総論 両立支援とは~両立支援の必要性~

第2回 両立支援の具体的な方法(基礎編)

第3回 両立支援の具体的な方法(実践編)