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日本の中小企業経営者の心と体、働き方vol.9

日本の中小企業経営者の心と体、働き方vol.9
AMAROK 日仏調査結果から探る

日本の中小企業経営者の心と体、働き方vol.9


国民平均との比較で見えた経営者ならではの傾向とは

今回は、関西大学の亀井克之氏とAMAROK JAPAN 主任研究員で北海道教育大学の金子信也氏の監修のもと、日本における国民全体のストレス調査結果との比較を通じて見えた、中小企業経営者ならではの心身の状態の傾向や注意点について考えます。



亀井克之氏 

AMAROK JAPAN 事務局長、関西大学社会安全学部 教授。日本リスクマネジメント学会副理事長、日仏経営学会常任理事など兼務。専門は経営学をベースとしたリスクマネジメント。




金子信也氏

AMAROK JAPAN 主任研究員、北海道教育大学 函館校 准教授。衛生学を専門とし、新潟中越地震による被災者の健康問題や避難所・仮設住宅でのメンタルヘルス調査研究に携わる。




日本の中小企業経営者は本当にストレスフルか?


「 今回、AMAROK調査との比較検討に用いたのは、『新職業性ストレス簡易調査票』に基づく信頼性の高いデータです。これは、平成 7~11 年度労働省(現:厚生労働省)委託研究『作業関連疾患の予防に関する研究』で示された『職業性ストレス簡易調査票』がベースとなっています。働く人々のストレス調査方法として普及し、多方面で使用された旧調査票を、より広範な職場の心理社会的要因、特に部署や事業場レベルでの仕事の資源や、労働者の仕事への関わり具合までをも測定可能とした進化版です」(金子氏)。
 この調査票で得られた国民全体の平均値と、AMAROK JAPANが独自に調査を行った中小企業経営者の平均値の比較を行いました(表)。全体を通して見ると、中小企業経営者のほうが総じて数値が高く、心身ともに良好な健康状態を保っていることがわかります。ほかにも中小企業経営者にはどのような傾向が見られるのか、いくつかのポイントを挙げてご紹介していきます。



(表)中小企業経営者と種々の業種・職種従事者へのストレス調査比


〈表の見方〉
数値が大きくなるほど、その項目についての状況がよいということを示す。


そうだ1点・まあそうだ2点・ややちがう3点・ちがう4点として集計。
※ 「16」の項目のみ、ちがう1点・ややちがう2点・まあそうだ3点・そうだ4点として集計。

『2 仕事の質的負担』は、中小企業経営者のほうが低い。「経営者となれば、仕事の質が高く負担が多いのは当然の結果といえるでしょう」(亀井氏)。

『5 仕事のコントロール』は、0.96点差と中小企業経営者が大きくリードしている。さらに『10 失敗を認める職場』の数値は同様に高く、中小企業経営者の裁量権と同時に責任負担の大きさがうかがえる。


注1:東京大学大学院医学系研究科精神保健学分野(https://mental.m.u-tokyo.ac.jp/
jstress/)が取りまとめた新職業性ストレス簡易調査票全国標準値。男女込み、さまざまな業種、職種、役職を含む合計データ。



働きがいや仕事への満足感が経営者の心身を良好な状態に保つ


 特に注目したいのが、差も大きい「仕事の意義・働きがい」( 『7』 )、「ワーク・エンゲイジメント」( 『18』 ※仕事をしていると活力がみなぎる、仕事に誇りがあるという意味)、「仕事満足度」( 『25』 )の項目です。「自分の運命は自分で切り開けること、上から指示されることがなく自分で頑張るという点、独特の楽観主義。経営者にはこういったメリットがあること、また『家庭満足感』( 『26』 )が全国平均よりよい結果である点も、心身の健康の状態がよいという結論を裏付ける形になっています」(亀井氏)。




日本の中小企業経営者も従業員・被雇用者よりも心身の健康状態がよいという調査結果。
しかし注意しなければならないのは……

 この比較調査の結果は、フランスAMAROK 本部が独自に行った調査で導き出した「中小企業経営者のほうが一般従業員・被雇用者よりも心身の健康状態がよい」という結論を、AMAROK JAPANが行った「AMAROK 経営者健康あんしんアクション」における調査結果でも裏付けられたことになります。自分の裁量で経営を行うことができること、個人事業主や中小企業経営者ならではのやりがいや満足感が心身の健康状態を良好に保っていると考えられます。
 しかしその一方で、中小企業経営者には、資金繰りをはじめとする将来への不安感や直面する孤独、過重労働など、経営者特有の要因によって、健康状態に影響を及ぼす可能性もあります。一歩間違うと、ずるずると健康を悪化させてしまう危険性を認識することが重要です。経営者ならではの喜びなどプラスの要因を増やしつつ、マイナスの要因に傾かないようにバランスを取っていくことが、中小企業経営者ならではの心身の課題といえるでしょう。(亀井氏)






『13 個人の尊重』、『16 ワーク・セルフ・バランス』など、自分らしい働き方を示す値も中小企業経営者のほうが高い。