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専門家が伝えるメンタルヘルス対策「もっと聞きたいメンタルヘルス」上級編

 「いまさら聞けないメンタルヘルス」の入門編・初級編・中級編に続くコンテンツ、専門家が伝えるメンタルヘルス対策〈上級編〉『もっと聞きたいメンタルヘルス』を計9回のシリーズで掲載します。

 メンタルヘルスケア・健康経営に取り組んではいるものの効果が上がらない、うまく取り組めていないなどの実務的な問題や課題解決に向けて、社会保険労務士・産業医・大学教授・中小企業診断士などの専門家がそれぞれの立場からアドバイスいたします。



 第4回    

働き方改革関連法から見るメンタルヘルス対策

洞澤研 先生
 
執筆 : 洞澤 研
(ほらさわ けん)先生
社会保険労務士法人 人事総務パートナーズ 代表
特定社会保険労務士


1.働き方改革関連法案について

 2018年6月29日参議院本議会で「働き方改革関連法案(正式名称:働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律案)が可決・成立しました。

 同法案は、労働基準法やパートタイム労働法、労働安全衛生法などの労働法の改正を行う法律の通称です。これに伴い、企業は2019年4月1日に施行される各法改正に向けて対応が必要となります。今回はメンタルヘルス対策の視点から見た働き方改革関連法をお伝えします。

2.働き方改革関連法のポイント

 働き方改革関連法の内容は、実に様々ですがその中でも特にメンタルヘルス対策の視点で見て重要と考えられる部分について抜粋しました。

メンタルヘルス対策に関連する働き方改革関連法

表1

2019年4月施行※

項 目 概 要 関 連 法
1 時間外労働の
上限規制
  • 時間外労働の上限を原則として1か月45時間、1年360時間までとする。
  • 36協定に特別条項を入れた場合でも1年で720時間、単月で100時間未満(休日労働含む)、複数月平均で80時間(休日労働含む)を限度とする。
労働基準法
2 労働時間の状況の
把握の実効性の確保
  • 管理職や裁量労働制の者を含めすべての労働者について、現認や客観的な方法による労働時間の把握を義務化する。
労働安全衛生法
3 年次有給休暇の
年5日取得義務化
  • 年間で10日間以上年次有給休暇を付与されている労働者を対象に、年次有給休暇の日数のうち年5日については使用者が時季指定をして年次有給休暇を取得させなければならない。
労働基準法
4 労働者の健康確保
  • 労働者の医師面接指導の時間外労働を月100時間から月80時間へと基準を引き下げる。
  • 産業医、産業保健機能を強化する。
労働安全衛生法
5 勤務間インターバル
(努力義務)
  • 前日の終業時刻と翌日の始業時刻の間に一定時間の休息の確保を行う。
労働時間等設定改善法
6 高度
プロフェッショナル
制度
  • 年収1,075万円以上の特定高度専門業務従事者に対する労働時間、休日、深夜の割増賃金等の規定を適用除外とする。(年間104日の休日確保等、健康確保措置の実施が義務。)
労働基準法

※中小企業の場合、①時間外労働の上限規制の部分は2020年4月施行

イラスト画像

3.働き方改革関連法から見るメンタルヘルス対策

 メンタルヘルス対策として、特に重要な法改正は時間外労働の上限規制になります。

 具体的には、2019年4月(中小企業は2020年4月)より時間外労働の上限を原則1か月45時間、1年360時間までとし、36協定において特別条項の定めをした場合でも1年間で720時間(休日労働は除く)、単月100時間未満(休日労働含む)、複数月平均80時間(休日労働含む)が限度となります(一部の業種や職種を除く)。

 この基準については、労働政策審議会建議「今後の労働時間法制等の在り方について」の中で、厚生労働省「脳・心臓疾患の労災認定基準における労働時間の水準も踏まえ、『1か月に100時間』又は『2か月ないし6か月にわたって、1か月当たり80時間』を超える時間外・休日労働が発生するおそれのある場合、適切な健康確保措置を講じるとともに、業務の在り方等を改善し、特別延長時間の縮減に向けて取り組むことが望ましい」と述べられており、過労死等ゼロの実現に向けて、この基準をベースに定められたものと考えられます。

 なお、精神障害の場合の労災認定は別の基準(心理的負荷による精神障害の認定基準)で定められておりますが、脳・心臓疾患による労災決定件数だけではなく精神障害による労災決定件数についても労働政策審議会建議で触れられており、時間外労働の上限規制はメンタルヘルス対策としての目的も含まれている事は明らかです。

 次に労働時間の管理方法ですが、2019年4月より健康管理の観点から、管理監督者や裁量労働制が適用される者を含むすべての労働者について、現認や客観的な方法による労働時間の把握が義務化されることとなりました。

 この法改正により、自己申告制などにより労働時間の記録と実態の乖離が起こらないようになることや、管理監督者の方の過重労働の予防につながることが今後期待されます。

 企業のメンタルヘルス対策として過重労働の解消は必須となりますので、過重労働の解消についてはあいまいな対応を避け、覚悟を決めて取り組むようにしましょう。

 続いて、年次有給休暇の年5日取得義務化ですが、いわゆる正社員の16%が年次有給休暇を取得していない実態があり、年次有給休暇をほとんど取得していない労働者については長時間労働者の比率が高い実態にあることを踏まえ、2019年4月より労働基準法において、年次有給休暇の付与日数が10日以上である労働者を対象に、有給休暇の日数のうち年5日については、使用者が時季を指定して労働者に年次有給休暇を取得させなければならないこととなりました。

 労働者の健康確保の対策としては、現在は労働安全衛生法の中で時間外、休日労働時間が月100時間超かつ労働者から申出があった場合に医師による面接指導の実施を義務としておりますが、これについても2019年4月より月100時間から月80時間へと引き下げられることとなっております。また、産業医・産業保健機能の強化として産業医の活動環境の整備や産業医に対する情報提供などについても新たに労働安全衛生法にて定められる予定です。

 勤務間インターバルについては、労働者が十分な生活時間や睡眠時間を確保し、ワーク・ライフ・バランスを保ちながら働き続けることを可能にする制度であると期待されていることから2019年4月より努力義務規定として追加されることとなりました。

 最後に注目を集めた高度プロフェッショナル制度ですが、高度プロフェッショナル制度を導入することによって労働者の健康障害が発生しないよう、制度を適用する労働者について、一定の休息時間を確保することや、4週間で4日以上、年間で104日以上の休日を取得するのを義務付けるなど様々な対策がたてられております。

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4.まとめ

 働き方改革関連法の中で見るメンタルヘルス対策として、法令を順守することはもちろん、この機会にぜひ企業に取り組んで欲しい取り組みをまとめました。

項 目 取 組 目 標
時間外労働の上限規制 原則毎月の法定時間外労働の上限は1か月で45時間までとする。上記が難しい場合でも1か月の法定時間外労働の上限を80時間以内(45時間を超えるのは年間6回まで)とする。
管理監督者や裁量労働者についても健康管理の観点から、上記基準を超える時間外労働が発生しないように取り組む。
勤務間インターバル(努力義務) 前日の終業時刻と翌日の始業時刻の間に9時間以上の休息の確保を行う。
労働者の健康確保 時間外労働時間数に関係なく、面接指導を希望する労働者については医師による面接指導を実施する。

 働き方改革関連法の内容は、時間外労働の上限規制や労働者の健康確保など企業のメンタルヘルス対策として重要な内容がたくさん盛り込まれています。また、法改正の時期が就業規則を見直すきっかけともなります。

 皆様もぜひ、これをきっかけに就業規則の内容を法改正に合わせるだけではなく、企業のメンタルヘルス対策や健康経営についても考えるようにしましょう。

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